02:翼がないのは知っていた

ジェルマという地でジャッジ様の相棒と呼ばれている父の娘として育ち、それが幸運なことだと云えるかどうかはさておき。遺伝子研究者である父の才能も引き継いで生まれたらしい私は物心がつき始めると父から様々な分野の学問を教えてもらうようになり、それを私がすんなりと理解していくものだから父もジャッジ様もいつもそれを喜び褒めてくれていた。

母も父には及ばずながらも優秀な科学者だったらしく、私を身ごもるまでは夫婦二人でジャッジ様の研究に携わっていたけれど出産時の出血量が原因で私を産み暫くして亡くなったと聞いた。けれどそれで寂しさを感じたことはあまり無かった。城に来れば同い年のレイジュがいたし、ソラ様が実の娘のように可愛がってくれたから。


そんな中、今でも脳裏に焼き付いている出来事がある。
『私お姉ちゃんになるの!』と弟の誕生を心待ちにしていたレイジュの表情がこの日を境に一変したのだ。

当時はレイジュも私もまだ子供で“ソラ様とジャッジ様が生まれる弟達のことで口論していた”というレイジュの証言だけで件の真相は分からなかった。けれどソラ様の出産後にすべてが明らかとなりジャッジ様のその大きな野望・野心に、子供心に初めて表現しがたい恐怖を抱いた。

そしてソラ様が亡くなってからは歯止めを掛ける者は誰一人といなくなり、『落ちこぼれ』『出来損ない』の烙印を押されたサンジに辛く当たる兄弟とそれを表立って止めることができないレイジュと私。

こんなの間違ってる、と声を大にして叫びたくてもこのジェルマという異質な国に属しその恩恵を受けて生きている私達にはどうすることもできなかった。


***


「レイジュ?」
「!⋯⋯アイラ」

一瞬体をビクつかせて振り向いたレイジュの顔に、笑顔は無い。

現在もこの姉弟達はソラ様のお墓参りをジャッジ様に禁止されている。その言いつけを破って彼女がひっそりこの場所を訪れているということは、何かあったに違いないと瞬時に悟る。けれど問うたところで私が力になれることは何もないことも判りきっていた。

「久しぶりにレイジュが会いに来てくれて、きっとソラ様も喜んでるよ」
「⋯⋯」
「――ねぇ、レイジュ」
「⋯なに?」
「あなたは1人じゃない。それだけは忘れないでね」

私達は似た者同士だ。

父親を喜ばせ褒められることは素直に嬉しいと感じると同時に、本当はこんなことやりたくないと心が悲鳴を上げている。
一度でも拒絶してしまえばゴミ屑のように簡単に捨てられてしまうことを痛いほど理解しているが故に決して本心を口にすることはできない。

私が発した言葉にレイジュは僅かに瞳を潤ませる。
そしてどちらからともなく身を寄せて互いにきつく抱きしめ合った。

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2020/02/19
お題配布元:誰花