03:証拠不十分の憂鬱

「囚われの姫君は優雅に読書か?」

せめてもの退屈しのぎにと暖かな日差しが降り注ぐバルコニーで読書していた最中、どこからともなく突然姿を現したニジ。

レイドスーツを着用しているところを見ると何処かで一仕事してきたに違いない。

「他に時間を潰すマシな方法があれば是非とも教えて欲しいものね」
「そう睨むなよ。何ならおれが連れ出してやろうか?」
「そんな勝手な真似をしたらイチジが黙ってないんじゃない」
「どうかな。―まァ別の意味で黙ってねェかもな⋯」
「⋯?別の意味で?」
「ああ見えて、イチジはお前に執着してンだろ」

ニジの発言の意味が分からなかった。
執着も何も、そもそも彼らに人間らしい感情は備わっていないのだから。

どう反応すべきか⋯と内心困惑していれば。
ふとアイラが読んでいる本に目を向けたニジは唐突にソレを取り上げた。

「世界の海⋯オールブルー⋯」
「⋯⋯」
「昔あの出来損ないが読んでた本と同じじゃねェか」
「⋯だったら何?」
「別に?ただ、何となく気に食わねェ」

言うが早いか、ニジは不敵な笑みを浮かべたまま本を後方へ放った。

「ちょっと、ニジ⋯!?」
「あ〜悪ィな。つい手が滑っちまった」

つい、ではない。
明らかに故意に放り捨てた。

城の敷地内に落下したのは恐らく間違いない。
けれど『部屋を出るな』と命令されている現状では探しに行くことは不可能。

ニジに一言文句を言ってやりたい。
しかしそれを口にしたところで伝わる相手ではないし、いつものように鼻で笑われて流されるだけだと分かっているので何とか怒りを飲み込んで平常心を保つように目を瞑った。

――その時だった。

「なァ⋯アイラ、」

急に傍で声が聞こえて反射的に目を見開けば、すぐ目の前にニジの顔があって。普段は隠れている彼の瞳がゴーグル越しに薄らと透けて見えて思わず息を飲んだ。

「お前、本当にイチジと結婚するのか」
「⋯父とジャッジ様がそう決めたんだから他に選択の余地はないでしょう」
「じゃあ仮にイチジが死んだら⋯お前はおれと結婚すンのか?」

もしもイチジが死んだら。
ニジがイチジの跡を継いで、またニジが死んだらヨンジが跡を継ぐのか。それとも例の如く科学力を駆使して今度は彼らのクローンを作り出すのか。

兵士はともかく、血統因子の操作で特別な能力を持つ彼らに『死』が訪れた時のことなど今まで考えたことも無かった。けれどゴーグル越しに射抜いてくるニジの視線はやけに真っ直ぐで。

驚愕のあまり呼吸を忘れて大きく瞬きを繰り返していると、そのうち何事も無かったかのようにニジはスッと上体を起こし声を上げて笑った。

「ハハ!ジョーダンだ」

そう言ってニジは空高く飛び上がるとそのまま姿を消した。

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2022/02/14
お題配布元:誰花