海とあなたの物語G

ぽかぽか陽気の午後。
珍しくハルタ達に混じりトランプで遊んでいるアイラ。

イゾウは少し離れた場所で銃の手入れをしながらゲームの最中に上がる歓声や悔しがる声に耳を傾ける。そして時折アイラを直接視界に捉えては、ひっそりと口元を緩ませた。

「そうやって、これからもずっと付かず離れずの無難な立ち位置に甘んじるつもりかよい?」

上空から現れたマルコはイゾウの隣にふわりと降り立ち、その場でしゃがみ込む。マルコの言葉に一瞬眉間に皺を寄せたもののすぐに素知らぬ顔をしてイゾウは手元に視線を戻した。

「お前さんは相も変わらずのお節介鳥だな」
「まぁそう言うなよい」
「嬢ちゃんに余計なことを吹き込むなよ?」
「『イゾウは“アイラが居る”この船が好きだから、此処に残ったんだ』って?」
「⋯⋯マルコ」

半ば本気とも取れる眼差しで銃口を向けてくるイゾウにマルコは慌てて両手を上げて降参の意思を示す。すればイゾウも殺気を消し、銃を降ろしたのでマルコはほっとして肩の力を抜いた。

「悪ぃ。ちとからかいが過ぎたよい」
「―いや、完全否定できない自分が居るのは確かだからな⋯どうしたもんか」

マルコが素直に謝罪するとイゾウもそれにつられたのか、若しくは誰かにこの秘めたる想いを聞いて欲しかったのか。気づけば本心を吐露し始めていた。

「この船に乗って嬢ちゃんと和解した後だったか⋯。おれは嬢ちゃんに『女にうつつ抜かしてる暇なんざねェ』と言った憶えがある」
「はぁ?んなこと気にしてんのかよ。もう2年以上も前の話だろぃ?」
「おでん様の為にこの身を捧げる覚悟だと豪語しておきながら、これじゃあ格好がつきゃしねェ」

そう言って自嘲気味に嗤うイゾウ。

意図せず芽生えた淡い恋心に苦悩する、その憂いを帯びた儚げな表情は同性であるマルコの目から見てもとても綺麗で。そこらの女なら一発で落とせてしまいそうなほど。
加えてこの2年間でぐっと強さも増し、生まれ持った容姿の端麗さだけでなく男らしさも兼ね備えているのだからもっと自信を持て!とマルコは心底思う。

「おでんも言ってたじゃねェか。『お互い“海賊”なんだから自由にやろう』って」
「⋯? ああ」
「お前も海賊なら欲しいお宝を目の前に指加えて黙って見てねェで、何が何でも自分のモノにしてやる!くらいの気概を見せろぃ」

そう言って最後にパンッ!と思い切りイゾウの背中を叩くマルコ。

「ほら。とっとと行って来い、色男!」

マルコの激励が功を奏したのか。
先程とは違いイゾウはどこか迷いが晴れたような顔をしていて。

手入れを終えた銃を懐に仕舞って立ち上がり、イゾウは振り向きざまに不敵な笑みを浮かべてみせるとアイラの元へ歩み始めた。


***


「嬢ちゃん」

最後の最後でハルタに勝ち逃げされて頭を抱えていたその時、背後から聞きなれた声で愛称を呼ばれてアイラは後ろを振り返った。

「ん、イゾウ?何か用?」
「今から昨日の続きをやるぞ。射撃訓練だ」
「えぇ?!昨日のはちょっとしたお試しって⋯」
「いざという時の為に自分を守れる術は多いに越したことは無ェだろう?まともに当てられるようになるまでこれから毎日特訓してやる」
「⋯いいえ、遠慮します」
「おれはその遠慮を遠慮する」
「何訳の分かんないこと言って⋯って、ちょっと?!」

中々首を縦に振ろうとしないアイラに痺れを切らしたイゾウは少々強引に右腕を引いてその場に立たせると、米俵よろしくアイラの身体をひょいと肩に担ぎあげて踵を返した。

「いきなり何なの!?イゾウ!下ろしてよッ」
「そいつは無理な相談だ。大人しく観念しな」
「ビスタ!ジョズ!ハルタ〜!!」

一緒にトランプに興じていた面子に助けを求めるも、3人とも「達者でな」と云わんばかりに手を挙げて応えるのみ。途中、マルコともすれ違ったが同じく笑顔でスルーされてしまう。

この裏切り者!人でなし!!
などと思いつく限りの暴言を手足をジタバタさせながらアイラは叫び倒したが全ては無駄に終わった。


徐々に離れていく二人を見送ってからマルコはハルタ達の輪の中へ入って行った。アイラが抜けた代わりに、と床に散らばったトランプを拾い集めてカードを切り始める。

「イゾウ、やっと付かず離れずのポジションから卒業?」

ハルタの言葉にマルコは驚愕した。
―が、ジョズとビスタの表情を見る限りこの3人はイゾウの想いに気づいているらしい。

「どうやらそのようだよい」

この一瞬で全てを察したマルコはニヤリと笑って見せ、ハルタの問いに答えた。

「色恋に疎いアイラが相手じゃ、イゾウも苦労するね」
「それもまた一興。我々は静かに見守るのみ」
「愛娘の相手がイゾウなら、親父も納得するんじゃねェか?」

三者三様、それぞれ好き勝手なことを口にしているがその根底には優しさがあって。イゾウの初恋が上手くいくようにと願っているのは自分だけではない、と理解したマルコ自身もなんだか嬉しくなる。

「―あ、でもサッチには黙ってなよ?アイラのこととなると色々煩いから」
「サッチの過保護っぷりは半端じゃねェからな」
「どちらかというと親父よりサッチの方が厄介かもしれん」
「⋯⋯至極真っ当なアドバイス、感謝するよい」

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