prologue


――吸血鬼は、居る。貴方が気付いていないだけで……


「"特待生"……"交通事故"……ですか」
「根回しは済んでいる。"影"のことは、お前に任せるそうだ」
「ふうん。……やっぱり"影"のことはバレる可能性が高いと……?」

 狭く薄暗い室内で、束ねられた紙をめくる少女と、ドア口に立つ若い男。少女は資料に視線を走らせながら、感情の全く篭っていない声で男に問いかけた。

「多分な、吸血鬼もハンターも居ることだし。まあ、詳しい質問は"あっち"か"上"に聞いておけ。俺はただの連絡係だから」

 男は素っ気なく応えると、そのまま部屋を後にした。少女は資料に視線を落としたまま、開けっ放しにされたドアを閉め、ふと資料をめくる手を止める。そのページには、一人の少女の写真があった。
 静かな室内で、置時計の秒針の音がする。

「"黒主、優姫"……」

 彼女は数秒その写真を見つめていたが、すぐに手の動きを再開させる。程なくして資料の最後まで粗方目を通し終わると、彼女は部屋の机に資料を置いて、代わりにテディベアを両腕で抱き上げた。

「私が、守るからね……」

 小さな声には、確かに力がこもっている。誰宛でもない呟きに、返答はなかった。

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×愛しき君に幸あれnext
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