Side加州
加州らが山を下りて本丸門をくぐると、待機している刀剣男士たちがわらわらと集まってきた。短刀たちは元気よく、それ以上の刀剣は穏やかに、政府職員や彼に挨拶をする。彼は驚いていたが、会釈をしながら主に続いていた。
応接室に政府職員と彼を案内する。主は政府側と彼とで別室にしたかったようだが、政府職員に監視という役目がある以上、部屋を分けることは出来ない。全員が同じ応接室に入り、なんとなく政府職員たちと、彼と主とで分かれて座布団に座った。刀剣男士は最初と同様、加州と長谷部が残った。
ようやくの休憩だ。彼が息を吐いたのが分かった。
「――――」
「うん、そうでしょう。見た目はヒューラン」
「――――」
「多いでしょう。全部、わたしの大事な刀たち。戦力過剰だ」
不意に嬉しい発言をされて、加州は桜を散らさないようぐっとこらえた。同席している長谷部も口を引き結んでいた。
今度は、薬研と厚と乱がお茶と練り切りを持ってくる。現れた人数以上の気配に、加州は腰を上げて廊下をのぞいた。
好奇心旺盛な刀剣男士たちがぎっちり控えていた。
「なにしてんの」
「ぼくらも参謀殿がきになるんです」
最前にいる今剣が言う。加州も気持ちは十分に分かるので、彼に練り切りを説明している主を振り返った。給仕をした三振がちゃっかり主の周囲を固めている。加州の座布団は薬研にとられていた。
「主、みんなが参謀殿にご挨拶したいって押しかけてるんだけど、入れてもいい?」
「ん、参謀殿、うちの刀たちが挨拶したいって」
「――――」
「いいよ、入れてあげて」
主の声を聞いて、応接室に入りきらない数の刀剣男士がぞろぞろと現れる。彼はその数に驚いたようで、しかし嬉しそうに微笑んだ。
加州は、ずっと近くで見ていたからと自分を納得させて場所を譲った。
主に通訳をしてもらいながら、一通りの刀剣が代わる代わる挨拶をする。彼は呆れた様子をみせず丁寧に対応し、その後の質疑応答にも快く応じてくれた。双方の通訳をしなければならない主も、大変そうだが楽しそうだ。
「主様とは、どういうごかんけいなのですか?」
「『同じ組織に所属しているんだ』」
「参謀殿も魔術? が使えるの?」
「『ああ、使えるとも』」
「耳がとんがってるの、なんかかっこいいな」
「『そうかい? そういう種族なんだ』」
「参謀殿からみて、主ってどういう方ですか?」
「……『とても真っすぐで、お人好しで、頼りになる、かけがえのない仲間だよ』。参謀殿もね」
等々。
質問の波が途切れたとき、彼が刀剣男士たちに向かって何かをつらつら話し始めた。刀剣男士は聞く姿勢を続けるものの内容は分からない。主は、彼が言葉を続けるにつれ俯いていく。主が頭を抱えているのに対し、彼はにこやかに話している。主には何が聞こえているのだろうか。
彼が話し終え、主を見る。「――――」さあ訳して、と言ったに違いない。主はややうなりながら顔を上げた。
「……『みんなのことは彼女から聞いているよ。楽しそうに話すものだから、きっと居心地の良いところなんだと想像していた。思った通りの場所で安心したよ』」
「――――」
「わ、分かったよ……『彼女がたくさんのひとから大切に思われていて、とても嬉しい。わたしたちと一緒に、ふたつの世界から、彼女を支えていこう』……これ自分で言うわたしの身にもなってくれない?」
テーブルに突っ伏した主を、彼が満面の笑みで見つめる。
押しかけている刀剣たちが一斉に返答する。「もちろんです!」「任せてください!」主が翻訳していないので彼に意味は伝わっていないだろうが、表情と勢いで察したようで、嬉しそうに頷いていた。
加州は、突っ伏している主とにこやかな彼を見て、疎外感を感じていたことを恥じた。対等な仲間である彼と、主の所有物である自分とで考え方に差異があるとしても、彼のほうがよほど大人な対応だ。
自分の知らない世界に仲間が足を踏み入れていても、背中を押して支え続ける。仲間の世界が広がり、支えが増えることを喜ぶ。
「はは、参謀殿って本当に十六歳?」
参ったなと呟くと、いつの間にか応接室にいた大和守安定が寄り掛かってきた。
「老成してるよねぇ。良き理解者というかさ」
「嫉妬してたのが申し訳なくなるよ」
「僕たちより主を理解してますっていうのはやっぱりちょっと悔しいけど」
「俺たちも、主の刀ってだけじゃなくて、主を支えられて主に頼られる理解者にならないとね」
復活した主が刀剣男士と彼に声を掛ける。ニワトリ頭で表情は見えないが、不思議と照れ臭そうにしていることが伝わった。
「双方、よろしく頼むよ。わたしは、ひとりじゃなにも出来ないから」
刀剣男士だけではなく、彼も頷いて返す。元気のよい返事に、主は更に照れたように両腕の翼で顔を隠した。そんな主に乱が「主さん、愛されてるね!」と追い打ちをかける。
主と彼と刀剣男士とで和気藹々としていると、温かい目で交流を眺めていた佐竹が立ち上がった。
「僕のことも忘れないでくださいね! 支えになりますよ!」
佐竹がぐっと拳を作って宣言する。政府側から、主の味方であると主張している。
今回、彼の来訪が可能になったのは佐竹の尽力によるところも大きい。主も刀剣男士も――あるいは彼も――それを理解しているので、力強い佐竹の言葉に拍手を送った。
ひとしきり盛り上がった後、彼が主に声を掛ける。おそらく「そろそろお暇する」といった内容だろう。ふたりが腰を上げ、主が応接室にいる全員に言う。
「参謀殿はこれで。わたしはエーテライトまで見送りに」
「では我々も」
政府職員たちが腰を上げる。本丸エーテライト前は大きく開けてはいないので、加州と長谷部以外の刀剣男士は本丸門での見送りになった。
彼は本丸門で丁寧に一礼した。片手を体の前に添える、西洋風の礼だ。「『楽しいひと時をありがとう』って」主が通訳すると、今剣が「また、あそびにきてくださいね!」と彼の真似をして一礼した。
本丸エーテライト前に移動し、また彼が一礼をする。加州は一歩前に出て、最初に顔を合わせたときと同様に握手を求めた。
「こっちでの主のことは任せて、参謀殿」
いくらか打ち解けた彼は、力強く手を握った。
「『とても心強いよ、加州殿』」
「……え、俺の名前覚えてるの?」
「参謀殿は記憶力がとてもいいんだよ。多分、ほとんどの刀剣男士の顔と名前は一致してるんじゃないかな」
「うっそ、すごすぎ」
彼が二度頷く。主の過大評価ではないらしい。
続いて、長谷部も彼と握手をする。
「主の大切な仲間と、お会いできて光栄でした」
「『長谷部殿、彼女のことをよろしく頼む』」
「ええ、喜んで」
最後に、主と彼がいくつか言葉を交わす。加州たちよりも付き合いが長いエオルゼア世界での仲間だ、事務的で端的なやりとりだった。
「じゃ、参謀殿、また明日」
「――――」
気楽な別れの挨拶をする。
彼がエーテライトに手をかざす。すっと霊力が通っているのを感じられた後、瞬く間に彼の姿は消えていた。主の見送りで見慣れた、静かで呆気ない別れだ。
今度は政府職員の見送りのために転送ゲートへ移動する。トラブルもなく、穏やかな任務だっただろう。特殊事案部からの派遣だ、あらゆる危険性を考えていたに違いない。
加州は主の隣を歩きながら、空に向かって両手を伸ばした。