(わたしの停滞を許せない)
どんどん成長していく彼らに置いて行かれないように。恋人になるかはともかくとして、彼らが好きだと言うに相応しい人間で有り続けたい。無くなったことを嘆いてばかりでは、わたしを忘れなかった彼らにも、一緒にいてくれている貞ちゃんにも申し訳が立たない。
夢に向かってひた走る彼らの姿は、わたしに勇気をくれた。背中を見送って思ったのは、わたしも進む人間でありたいということ。見送って置いていかれるだけは嫌だ。
まずは仕事だ、と両親が仕事に出た家で携帯を睨む。求人情報は溢れているが、近場でとっつきやすそうな仕事となると案外少ない。何か資格があれば良い条件で雇用してくれそうだが、わたしは高校中退だ。ひとまずどこかでアルバイトを――そう思ってピックアップしていると、着信があった。
表示されているのは非通知だ。普段なら絶対に出ないところだが、なぜかそうすることが当然のように応答をタップしていた。
十分ほど話し込み、携帯を置く。しばし呆としたものの、すぐに現実感が戻ってくる。進まねばと決心した途端の幸先の良い知らせに、自然と笑顔が浮かんだ。
電話は廣瀬(ひろせ)さんからだった。<時の政府>職員として働かないかというまさかの打診だ。
審神者適性以下の霊力量とはいえ、五年その世界にいた身である。審神者業や刀剣男士についてはもちろん歴史修正主義者の知識もあるし、霊力の扱いについても慣れている。また後日正式な雇用条件説明があるということだったが、ひとまず時空の歪観測や霊力計測の仕事があるということだった。<時の政府>はこの時代で公にできないということもあり人目につかず、おまけに採用条件も厳しく、常に人手不足なのだという。
廣瀬さんは『せっかく故郷に戻ったのだから戦争など忘れて』と控えめな勧誘で、わたしが食い気味に了承すると驚いていた。
「本当にやんの?」
キッチンでプリン製造作業についていた貞ちゃんに問われる。どこか心配そうにしていたが、わたしがサムズアップすると相好を崩した。
「やる。もう審神者にはなれないけど、関われるなら関わりたい。多分刀剣男士を見ただけでへこむ日もあると思うけど、ちゃんとそれを乗り越えたい。貞ちゃんもいるし、大丈夫!」
「やってやろーぜ! ってのはいいけど、主、京都行くのか?」
「そうなるね。帰ってきて早々京都で一人暮らしとか、親に説明しにくい……おまけに、この時代の<時の政府>って宮内庁預かりだし。突然の宮内庁就職について、廣瀬さんと一緒に言い訳考えるよ」
「冴ちゃんと凛ちゃんには?」
「親を説得して、ちゃんと決まったら連絡する」
時の政府の存在は明かせないので、両親の説得も彼らへの説明も難易度が高い。わたしが署名したものよりさらに制限のきつい念書を課せば情報開示は可能だが、口外しなくとも知っている(、、、、、)だけで歴史修正主義者に狙われるリスクになるとあっては、どれだけ訝(いぶか)しまれようとも話す気にはなれない。
説得の方法については頭が痛いが、気分は晴れている。やはり、わたしはやるべきことが明確なほうがいい。一度決めた道に寄り添えるならそうしたい。
わたしの痕跡は無くなったがわたしの記憶は消えなかったのだ、審神者になった意味はきっとある。戦い方は違っても、歴史/思い出を守りたいという想いに変わりはない。
みんな、折れてしまったわけではない。わたしとの縁がなくなってしまっても戦っている。わたしも、まだ一緒に戦いたい。
「新生わたし、今度は<時の政府>職員として働きます!」
「主、カッコいいぜー!」
もっとカッコよくなって今に向き合えたら、彼らへの想いにも答えを出せるだろうか。
* * *
京都の新居で、新調したスーツを着て、貞ちゃんと一緒に写真を撮る。清々しい気持ちで幼馴染ズのトークグループに送信した。
【就職しました。京都府民です】
*
ITOSHI Sae
【は? ←これは、就職して身動き取りにくくなったことと、勝手に引っ越したことと、貞宗までいることを全て含めた「は?」な】
【応援ありがと!】
【パスポートは】
【取りました】
【ちなみに仕事内容は? ちゃんとしたとこか?】
【宮内庁】
【は?】
*
糸師凛
【てめえ何勝手に決めてんだふざけんな】
【京都観光のときは泊まってもいいよ】
【京都に引っ越してまでやる仕事ってなんだよふざけんな】
【宮内庁勤めです! よろぴこ】
【ご機嫌やめろ、こっちは不機嫌だわ】
【落ち着いてもろて】
【つかなんで貞宗いんだよふざけんな】
【語尾の治安悪】
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