scene1 魅了


『あ、アンナです。新しく一人、加入することになったよ。今日の夜は歓迎会だぞ!です!』

 騎空艇内のスピーカーから、そんなアナウンスが流れた。
 アンナは今日、団長と街に出る予定だったので、歓迎会準備のために一足先に戻ってきたのだろう。アンナは魔女らしく、空飛ぶ箒で移動出来るのである。団長が戻っているなら自分でアナウンスするはずだ。
 騎空艇では昼食が終わったところで、一部の団員はそのまま食堂に残っていた。朝出かけて今新団員とか早いな、と笑う者が数名。
 厨房では、厨房を任されているエルメラウラが声を上げていた。

「腕がなるのでっす。今夜はご馳走でっす!」

 今夜は、などと言いつつも、団員が増えるのは珍しいことではなく、歓迎会も頻繁に行われている。
 エルメラウラは素早くメニューを決めて食材の在庫と照らし合わせる。約四十人いるのだ、消費は早い。エルメラウラは鼻歌交じりに足りない食材、欲しい食材を書き出す。予算が頭をよぎるが、歓迎会をケチった方が団長に怒られる。
 昼食準備を手伝っていたエルモートが、エルメラウラの手元をのぞいた。エルメラウラと同じく厨房をよく出入りする団員の一人だ。他に、ファラも調理当番のリーダー的存在だが今は不在である。

「毎度思うが、豪勢だなァ」
「もちろんでっす!」
「あんたの時はどうだったんだ?俺やファラよりはやかったよな」
「グランたち……当時いた団員が作ってくれたんでっす。ふふ、最高のご馳走だったんでっす」
「へーえ」
「よう!エルメラウラいるか!」

 陽気な声で彼女を呼ぶのはカシマール、喋るぬいぐるみである。アンナの相棒的存在だ。
 カシマールを抱いて、アンナも厨房に現れる。

「よし!じゃあ買い出しに行くのでっす」
「お手伝いするよ……!」
「俺も行くぜー」

 三人が厨房から出ると、ガタガタと食堂の模様替えが行われていた。団員による余興のためである。一流の踊り子も奏者もいるので、余興には事欠かない。
 少し前より食堂にいる人数が少ないのは、艇の掃除に流れたからだろう。歓迎会前のいつものことである。
 テーブルを動かしていた団員がエルメラウラたちに気付く。買い出しだと察して、手伝いを申し出た。なんせ四十人分だ。しかも小さい子供ではなく、それなりに量も食べる。三人では運べないだろう。
 エルメラウラは笑顔で礼を言って、最終的に八人で買い出しへと出かけた。




 グランサイファーの甲板では、暇をしていた団員が掃除をしていた。もちろん定期的に掃除はしているが、仲間が増えるとなると話は別である。

「やばい……すごく綺麗……」
「腰痛い」
「グランサイファーさんかっこい……」
「毎回のことだけど、歓迎に意味分かんないくらい気合い入れるわよね」

 埃一つないのではないかと思われるほどに綺麗な甲板を眺め、メノウとマリーは満足げに頷いた。
 自分たちの気合いの入れように、マリーはおかしくなって笑う。歓迎会を催すだけでなく、こうして騎空艇の掃除を行い、他の団員が空き部屋の掃除もしている。

「新しい家族を全力で歓迎するもんね。団員が増えることを一番喜んでるの、グランだし。団長の期待には応えなきゃねー」

 仕方ない、と首をすくめるメノウは芝居じみており、本人もノリノリだということが分かる。グランやメノウだけでなく、新しい仲間というのは心踊るのだ。
 自分たちの浮かれように呆れることはあっても、歓迎のために手は抜かない。古参といわれる団員は除いて、皆この歓迎を受けている。快く迎え入れてくれたことがどれだけ嬉しく、新しい仲間という存在がどれだけ頼もしいかを知っているからこそ、だ。





「さあ!これが我らが騎空艇、グランサイファーです!」

 じゃじゃん、と口で効果音をつけて、グランが一隻の騎空艇を示す。
 新入りは呆然と騎空艇を見上げ、思わず笑っていた。団員の数やその実力から立派なものを想像してはいたが、予想以上の規模である。
 この騎空艇を率いる団長がこの少年だというのだから、世の中には驚くべきことが一杯だ。
 アンナを先に騎空艇に返した今、ここにいるのは団長であるグランの他、キハール、ファラ、ザーリリャオー、ゼヘク、ルリアにビィ。そして新入り。

「よしビィ!偵察頼んだ!」
「任せとけ!」

 グランの相棒である子ドラゴンが、羽を羽ばたかせて騎空艇に乗り込む。新入りは、どういうことかと尋ねた。

「新しい仲間は、つまりスペシャルゲストなんです!お互いに、歓迎会までのお楽しみなんですよ!」

 ルリアが全身で喜びを表現しながら答えた。ぴょんこぴょんこ跳ねる彼女に、グランも一緒になって跳ねる。
ビィが戻ってくると、新入りを置いてグランたちになにやら耳打ちする。順調らしい。グランが、恐らく艇の裏手を示した。

「おっし、あっちから入ろう!キハールさんと、ファラとリャオとゼヘクは、戻って休んでいいよ」

 四人は、ご馳走だと足取り軽い。任務後であるが、するすると艇にかかる梯子を上っていく。
 老騎士であり奏者だというキハールは「これから準備をするのである」と疲れを感じさせない声で言った。
 新入りは、グランとルリアとビィと共に、裏手から艇に入った。ルリアとビィもお腹が空いてきたのか、ご馳走ご馳走と楽しげだ。見かねたグランが、厨房へ行っておいでと言えば、途端に走り出した。
 新入りはグランの先導で進む。とりあえず、とグランの私室に通された。
 程よく散らかった、男の子らしい部屋だ。よく使うのだという剣や杖が、一角に置かれている。

「これがグランサイファーの見取り図で、空き部屋はこことかこことか。場所とか決まってないから、どこでもいいんだけど」

 新入りとしてもこだわりはなかった。なんとなく目に付いた一室を指さすと、グランはそこに新入りの名前を書く。

「ヘルナルが隣だなー。ヘルナルは古参ってやつだから、強いし頼りになるよ。じゃ移動するか。さっきビィの連絡で、今部屋の方に人はいないはずだから大丈夫」

 グランは言いながら、着ていた鎧や武器を外していく。ぽいぽいとベッドに放ると、後で片付けるからと誰に言うでもなく言い訳をしていた。
 新入りは掃除の行き届いた廊下を進み、空き部屋だというのに綺麗である部屋に入る。今まで住んでいた場所より、やや狭い。しかし、全く不満はなかった。

「俺も手伝いに行ってくる!迎えに来るまで休んでてくれ。入れ替わりでビィが来るから、困ったことがあったらビィに言って。うん?大丈夫大丈夫、いつもビィの役目なんだ。あと晩御飯だけだからな、武装外してて大丈夫だぞー」

 グランは広い騎空艇の見取り図を渡すと、歯を見せて笑った。





 歓迎会は、食堂ではなく甲板で行われることになっていた。折角なのだから外で騒ぎましょう、と提案したのはファスティバだった。テーブルを広い甲板へ移動させ、特設ステージを設ける。
 そんな中、グランたちが戻ったとビィが叫んだ。
 料理は出来上がり初めていたため、盛り付け、甲板まで運ぶ。厨房は大忙しだが、手分けして行えば時間はかからなかった。
 粗方準備を終えると、各々適当な席に着く。美味しそうな料理は目の前で、腹を鳴らしながらグラスに飲み物を注ぐ。成人はほとんどが酒を注いだ。
 メノウは、同じく古参で仲の良いアンナの他に、エジェリー、スタン、オイゲンとともにテーブルについていた。

「どんな奴かな?あっアンナは知ってるんだ!」

 スタンの言葉に、カシマールはおうよ!とこたえ、アンナは頷く。

「秘密なの」
「ま、そうだよね。楽しみ楽しみ」
「えーせめて性別」
「もう分かるんだから落ち着け」

 そわそわと落ち着きのないスタンの肩を、オイゲンが叩く。が、分かりやすいか分かり難いかの違いだけで、落ち着きがないのは皆同じだった。
 メノウとエジェリーは体を左右に揺らして、まだかなまだかなとグランを探す。
 甲板を駆ける軽い足音に、全員の注意がそちらへ向いた。特設ステージに、ルリアとビィが満面の笑みで現れる。ルリアは両手でカメラを持っていた。

「みなさーん!お待たせしました!」
「新しい仲間の登場だぜ!」

 そう叫んで示した先には、喜色満面のグランと、困惑気味だが嬉しそうな青年ーーーー。
 瞬間、団員の頭に「初SSR」という黄金の文字が浮かぶ。意味は分からない。全く分からない。だが、とても素晴らしいことだと興奮が沸き起こる。意味不明の興奮が喜びに拍車をかけ、甲板は掛け声と拍手で包まれた。
 ステージにグランが立つと、自然と甲板は静まる。
 わざとらしい咳払いをしたグランは、にやける頬をおさえきれていなかった。

「それでは!新しい仲間の歓迎会を始めます!今晩の主役はぁああ!彼だ!」
「歓迎して頂き、本当に嬉しく思います。俺は白竜騎士団団長のランスロット、よろしく頼む」

 またしても拍手が沸く。
 ランスロットが一礼すると、グランがグラスを渡した。グランも自分のグラスを持って、歓迎会の開催を告げた。

「ランスロットの仲間入りを祝して!乾杯!」




 ヘルナルとガイーヌが踊り、キハールやエルタが演奏し、歓迎会は盛り上がる。ランスロットの元には団員が積極的に絡みに行き、飲めや歌えやの大騒ぎだ。
 オイゲンは、ランスロットに挨拶しておこうと腰をあげる。一気にこの人数を覚えられるとは思わないが、ちゃんと自分で名乗り、言葉は交わしておきたい。この騎空団がいくら自由主義だといっても、戦いの場では命を預けあうのだ。
 オイゲンは歩き出そうとして、未だメノウが座ったままなことに気付いた。スタンは既に席を移動しており、エジェリーはステージの方に行った。残っていたのはオイゲンとアンナとメノウの三人なのだ。
 アンナは既にランスロットと面識があるから残っているとしてーー本人の人見知りもあるだろうがーーメノウが動かないのはどうしたのだろうか。
 メノウはこの騎空団の初期のメンバーであり、オイゲンよりも早くにいた。古参、と呼んで括られるのは大体、ルリアやカタリナやラカムという騎空団結成時メンバーの他、イオ、アンナ、キハール、メノウ、ロザミア、ヘルナルあたりだ。
 いつも古参は特に新メンバーを気にかけている。メノウは一時的に協力関係にあり滞在していたユーステスーー寡黙で無愛想なエルーンの青年だーーにさえ、昔から知った友人の勢いで話しかけていた。それを知っているからこそ、オイゲンはメノウに尋ねた。

「なあメノウ。ランスロットんとこ行かねぇのか?話したことねぇんだろ?」
「あ、あー後で行こうかなあ」
「今行くのも変わんねえだろ?ほら今、丁度人が切れたぞ」
「わたしは、」

 オイゲンがランスロットを指差すと、ついとメノウが視線を向ける。しっかりランスロットを確認したらしいが、見てはいけないものを見てしまったと言わんばかりに目をそらす。取り繕うように、早口でまくし立てた。

「ほら今日じゃなくても別に?そのうちパーティー一緒になれば話すし?機会なんていくらでもあるし?わたしお腹すいてるから」
「お前さん顔赤いな」
「酔ってるから!!」

 嘘ではない。メノウは確かに酒を飲んでいた。オイゲンはメノウがあまり酒を好まないことを知っていて、酔うほど飲んでないことも見れば分かり、にやりと笑って顎を撫でた。

「お?まさかメノウ、」
「なにがまさかか!」
「いや丸わかりだろ」
「メノウ、ますます顔赤いぜ」
「おだまりカシマール!ってちょ、オイゲン何座ってんですか挨拶行くんじゃないんですか」
「いやーこんな面白そうなの放っておけねえだろ?」
「やめていじらないで!アンナも何とか言ってよ」
「や、優しい人だったよ?」
「違うそうじゃない」
「よう。楽しんでるかー」
「ああグラン!オイゲンをどうにかぁあっおう」

 スタンが座っていた椅子を引いて、グランが輪に入ってくる。そしてグランに続き、ランスロットが空いた椅子に腰かけた。
 オイゲンは腹を抱えて笑う。メノウは先ほどまでの狼狽え様はどこへやら、平素と変わらぬ表情で座っていた。それが余計におかしい。アンナは笑いを堪えようとはしていたが、しっかり肩が震えている上にむせている。
 エジェリー何故席を立った。メノウの呟きを拾ったのはアンナだけだった。
 グランとランスロットは首をひねるが、酔っ払いに一々真面目に取り合っていてはきりがないと、大して気にはしなかった。

「アンナ、連絡に行ってくれただろ?それでランスロットがお礼にって」
「真面目な兄ちゃんだな!いいっていいって」

 カシマールがアンナの言葉を代弁する。アンナは呼吸を落ち着けると、気にしないでと首を振った。

「えっと、改めてよろしく、ランスロットさん」
「おれのことも忘れんなよ!」
「あはは、よろしく。アンナとカシマールだよな。そちらの二人も、名前を聞いていいか?」

 きた!オイゲンとアンナの心境はまさにそれだった。オイゲンは涙を拭うと、ランスロットに片手を差し出す。

「オイゲンだ。よろしくな」
「ランスロットです。こちらこそよろしく、オイゲンさん」

 ランスロットがオイゲンの手を取ってにこりと笑う。笑うと少々幼く見えた。
 話しやすい気さくな、けれど騎士団出身とあって真面目さも伝わる。
 オイゲンに変わって、騎空団一貧弱とも言われる細い腕が伸ばされた。

「メノウです。よろしく」
「ランスロットです。よろしく、メノウさん」

 小さな手を、がっしりとした男の手が軽く握り、離れる。言葉もオイゲンと同様だった。なんてことないように挨拶を終えたが、メノウの空いた手は自身の太ももを抓っていた。
 グランはそのままテーブルにとどまるつもりだった様だが、ランスロットとともに他の団員に呼ばれ、テーブルを離れる。
 再び笑い出すオイゲン。アンナも肩を震わせている。
 メノウは唸りながら顔を覆い、ずるずると椅子からずり落ちた。

「うああ……ほんと駄目だって駄目だ。もう無理。不意打ちは駄目」
「メノウ、さっきの真顔なんだよ。急にテンション戻しやがるし」
「一周回って真顔なの心の中では嵐なの……手、ううう」
「こんなメノウ初めて見た……」
「わたしも初めてなってるもん」
「傑作だったな!」
「おだまりカシマール!」



 しばらくすると料理が減り、宴は落ち着きを見せる。街での出来事や戦略についてなど、思い思いに語り合っていた。
 ランスロットは全員と言葉を交わすことが出来ており、また騎士団長を務めていたとあってか、名を覚えるのに苦労はなかった。四十人近くいる団員は、グランと出会って加入を決めたらしく、グランの人たらしっぷりには驚かされた。
 ランスロットは、ノイシュ、ラカム、ボレミア、イオの席に落ち着いていた。ずっと団員を紹介していたグランは、別のテーブルで話し込んでいる。

「三人って、正統派騎士って感じよね」

 イオがフルーツの盛り合わせをつつきながら言った。その隣では、ラカムが頷いて同意している。

「なんかこう、芯があるよな。騎士道ってのか?」
「立ち振る舞いが上品ー」
「それは関係……あるか、そういう環境だろうからな」
「悪く言っちゃえば頑固で堅物っぽいけど、真っ直ぐしてて頼り甲斐があるって感じ」

 三人は少し照れたように顔を見合わせた。酒が入っているために既にほんのりと顔が赤い。

「上品……というのは確かに」
「ランスロットは戦場で人を率いているイメージが強いな。慕われる人柄をしている」
「そんな人望あるランスロットも、グランには敵わなかったと」

 ボレミアの言葉に、確かにと笑う。
 グランに惹かれたのは何も騎士だけではない。ランスロットは甲板を見渡して、その多様さに感心していた。

「老若男女、ドラフもヒューマンもエルーンもハーヴィンいれば、俺たちのような騎士から薬草士や踊り子……グランが言っていた、大家族という言葉にも頷ける」
「上下関係があってないようなものだから、新鮮だと思うぞ。私もそうだった」

 ボレミアが苦笑する。ノイシュも思い当たることがあるようで同意していた。
 気楽でいいんじゃない、と軽い反応をしたのはイオとラカムだ。
 グランにとっては兄が一人増えたようなものだろう、とはラカムの言だ。団長はグランなのでこの騎空団のヒエラルキーの頂点のはずだが、グランは団員を部下だと思っていない。頼り頼られる家族なのである。

「あとは、そうね。水属性パーティーが安定するって喜んでるかも」
「少ないのか?水属性を得意とする者は」
「少ない方ね。それに水属性に回復魔法持ちが多くて、パーティー組むときに悩んでるみたい。あたしもだけど、カタリナとエジェリー。他の属性にもいるんだけど……風はエルタとペトラ、土はジャスミンと、ボレミアも入るかしら。あと闇でメノウ?けどペトラとジャスミンは、あんまり戦い向きじゃないから」(Rの意)
「火属性は多いけど回復スキル持ちいねえな……俺も使えねぇし」
「属性でいえば、一番少ないのは闇だな。ゼヘクとメノウだけだ」
「四十人中二人だけなのか……」
「グランを入れて三人にはなるな」

 パーティーが基本四人から六人だと思うと、少ない。一つの属性だけで固めた方が無難な場合に苦労することになる。
 つい最近、そういったことがあった。火、風、光の星晶獣と殴り合って仲良くなろうという試みがあったのだ。騎空団の水属性は回復魔法を使える者が多く長期戦でも戦えるため、火属性星晶獣とは歩み寄れたのだが、他は駄目だった。粘れば風属性星晶獣とは仲良くなれそうだったが、厳しいだろうと早々に諦めていた。
 あたし大活躍だったのよ、とイオが胸を張る。一方、ノイシュは苦笑だった。光属性のノイシュは、光属性星晶獣を殴るパーティーに組まれていたのだ。

「グランとゼヘクとメノウの闇三人に、光三人で向かったんだが……やはり火力がどうしてもな。何度かメンバーを変えて赴いたんだが、とても」
「グランは色々なスキルを扱えるとしても、ゼヘクのスキルは自己犠牲的で、メノウは一発逆転みたいな感じだからな……メノウの回復魔法は単体相手だし、長丁場になると厳しい」

 初期メンバー故、メノウと組むことも多かったラカムが言うと、同じく経験のあるイオが頷く。ボレミアは未だメノウとパーティーを共にしたことがないので、相槌をうつにとどまった。
 そういえば、グランは全属性扱える上に武器も選ばないあたりとんでもないハイスペックだ、と騎空団ではお馴染みの話題に代わる。本人に聞いたこともあるが、笑って誤魔化されて終わりなのだ。初めこそ、何か秘密があるのではと勘ぐったが、今は分かる。これ本人も分かってないぞ、と。

「あ、ランスロットさーん」

 ルリアが、やっとたどり着きました、と笑っていた。両手で大事そうに持っていたカメラを構えるので、五人は自然と体を寄せ合う。

「はい、おっけーです!」
「ルリアまた食べ物に走っちゃったのね」
「うっ。お、お腹いっぱいですからもう迷いません!」

 イオとルリアのやりとりの意味を分かっていないのはランスロットだけだ。察したノイシュがルリアのカメラを指差した。

「歓迎会の写真を撮ろうとしても、料理に目がいって主役のもとに来るのは中盤ってことだ。初めは撮っているのだが」
「ははは、なるほど。ルリアは写真係なのか?」
「はい!旅の記録をつけるようにってカタリナに言われて、そしたらグランが買ってくれたんです!」

 私のカメラですよ!とルリアは笑顔で自慢する。小さい傷はあるが綺麗に保たれており、ルリアの扱いからも大事にしていることが伝わった。
 カメラのような高価なものをプレゼントとは、グランも太っ腹だ。

「写真が出来上がったらお見せしますね。欲しい写真があったら言ってください!」
「ああ、楽しみにしているよ」

 写真の管理もルリアが行っている。ルリアに言えば、騎空団結成当初からの歴史を辿ることができるのだ。たかだか一年程度だが、その内容は濃い。そしてランスロットも、騎空団の歴史の一部となったのだった。

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