scene2 攻撃力UP


 騎空団には規律というものがない。各人の常識に頼っているのだ。
 細かいことは言わないから――失踪するなだとか、犯罪を犯すなだとか、トイレットペーパーは気付いた人が補充しろだとかーーマナーは守ってくれということである。
 ただ、二つだけ、厳守することとしてグランが言っていることがある。
 まず"艇内での武器を用いた私闘厳禁"。
 洒落にならないからである。武器を用いなければ私闘になってもいいのか、陸地であれば武器を用いていいのかという事だが、それは良いのだ。口喧嘩にしろ殴り合いにしろ、艇内で己の得物を用いないのであれば。グランは「こんだけ人数いればケンカもするだろうけど、そこはジャンケンで」と平和的解決を推奨している。
 二つ目は"艇内での攻撃魔法厳禁"。
 理由は一つ目に同じだ。発動理由が私闘であれ、酔った勢いであれ、"闇の狭間より出でし漆黒の弾丸"との遭遇であれ、禁止である。
 要は、騎空艇(グランサイファー)を大事に扱えということだ。ちなみにどちらとも"応戦する必要がある場合は例外"がつく。
 一方で、艇内での鍛錬を禁じているわけでは無い。島々の移動で時間を要する時は、甲板が鍛錬場になる。魔法を主に使う者は、鈍らないようにと日常の中で小さく魔力を動かしている。
 甲板での鍛錬は、剣や拳を使う団員による。年齢や剣術が入り乱れており、実践さながらの鍛錬だ。手加減は必須として。
 ヘリヤやボレミアやゼヘクやヘルナルなど、基本飛び道具を使わない団員が手合わせをしている。もちろん、全団員でないとはいえ一斉に手合わせをすることは出来ないので、譲り合い交代しながら体を動かすのだ。
 メノウは、甲板の片隅で風に当たっていた。
 部屋に引きこもって本を読んでいたが、気分転換にと外の空気を吸いに来ていた。用もなく甲板に出るのは決して珍しいことではなく、現にメノウと共にロゼッタの姿があった。
 空を眺めるロゼッタに対して、メノウは手合わせを眺めていた。
 呆然と、けれどもじっと見つめているのは、ランスロットとノイシュの手合わせである。実力は拮抗しているのだが、経験の差なのかノイシュの方が優勢である。
 この騎空団に入団した者皆がそうだが、入団してから日が経てば経つほど強くなっていくのだ。まだ入団してから日が浅いランスロットでは、ノイシュを負かすことは難しい。
 ランスロットもノイシュも稽古のしがいがあるらしく、白熱していた。鎧を装備し、刃を潰してある剣と槍であるとはいえ、当たれば痣になることもある。外野から、ほどほどにしろよ、と声が飛んだ。

「流石騎士団長さんってことかしら。ノイシュと互角だなんて」
「うん。強いよね」

 ノイシュは光属性の魔力、ランスロットは水属性ーーどちらかというと氷だがーーの魔力だ。そのためか、先ほどから二人の周りがキラキラとして見える。よほど楽しいらしい。

「……貴女、遠目で見る分には平気なのね」
「何が?」
「ランスロット」
「んっふ」

 ロゼッタが言った途端、メノウは手合わせから目を逸らしてどこか遠くを見る。ロゼッタは口元に手を当てて笑っていた。

「ふふふ、可愛いわねえ。遠くにいる時は目で追っちゃうって感じかしら。近いと緊張しちゃうのね?」
「冷静な分析やめてください……」
「だって、ふふっ。いざ近くにいるとすごく素っ気ないのに、離れると見つめてるんだもの」
「ばれておる……ばれておるぅ……。その通りです。構えてたら話すのも大丈夫なんだけど」
「お近づきになりたい訳じゃないの?」
「いや……うん……」
「やっぱりメノウ、ランスロットのこと好きなんじゃない」

 微笑ましいとばかりにロゼッタが言う。当のメノウは、静かにしゃがみこむと膝を抱えて顔を伏せた。
 エルーンのメノウは耳まで赤くなるということはないが、獣の耳にはどことなく力が入っていない。
 ノイシュとランスロットが手合わせを止め、休憩に入っていた。二人とも笑顔で汗をぬぐっている。鎧を着ているので見ている方が熱いが、特にランスロットは涼し気だ。水属性の恩恵だろう。
 入れ替わりで手合わせを開始したのは、グランとクラウディアだ。クラウディアは拳を使う。グランは青い民族衣装を着ており、この衣装の時は拳で戦うのだ。

「アタックしなきゃ。他の団員か、行った先の島の女にとられちゃうかも」
「うう……」
「メノウが新入りに近付かないから、何かあったのかと思ったけど。こんなに可愛らしい理由だなんて」

 メノウは動かない。ロゼッタはメノウに代わってランスロットを見つめていた。

「メノウがいつも他の団員にしていることをすればいいのよ。挨拶とか、いらないアイテムをあげるとか、オススメのお店を教えるとか。それだけでも十分、素敵な女性として写るはずよ?メノウは世話を焼くのが上手いもの」
「この話やめない?」
「放っておくと、見てるだけで終わりそうなんだもの。団内恋愛を禁止している訳でもないし、ヘルナルとガイーヌに続いちゃいなさいな。それに、恋話って楽しいから」
「本音が漏れてる」

 メノウが耳をピンと立てて立ち上がる。うなりながら、立てかけていた弓を持つと、おもむろに甲板の開けた方へと歩き出した。

「格好つけてらっしゃい」
「おうよー」



『操縦室のラカム。艇前方に魔物を確認。数多いけど、甲板にいる団員で対応出来るか?』

 騎空艇にアナウンスが響く。手合わせに出ていた団員が空を見ると、確かに魔物の群れがあった。こちらを敵と認識しているようで、まっすぐ騎空艇に向かってきている。
 たまに有る出来事なので、特に慌てもしない。甲板に出る際は武器必携、とはこのためなのだ。
 ランスロットも他の団員にならって、双剣を握る。
 最初に動いたのはフェリだった。迷いなく【ゲシュペンスト】をかける。相手の攻撃力と防御力の低下だ。ただし単体にしか行えないので、一番体の大きい魔物を狙ってかけていた。その傍らで、グランが拡声機を握る。

『あー甲板よりグラン。メノウもいるし平気だわ』
『そうか。頼んだ』
「頼まれた」

 ランスロットが声のした方を見ると、甲板の隅でロゼッタと共にいたメノウが、開けた場所に立っていた。
 片手には弓を握っており、遠距離攻撃ののちに、剣士や闘士が魔物を倒すという流れなのだろう。
 重量感のある大きな弓を左手で軽々と持ち上げ、右手で弦を引き絞る。狙いは上空だ。だが、その手に矢はない。
 と思いきや、いつの間にか黒色の矢が番えられていた。

「逃がさ、ない」

 放たれた矢は魔物の上空へ。空中で細分化された無数の矢が、雨となって魔物に降り注ぐ。弱い魔物はそれメノウの【闇雨】で討たれ、半分程度には減っていた。
 残った魔物も、一部様子がおかしい。どうやら暗闇効果で、視界が狭くなっているようだった。

「グラーン、あとは任せるよ」
「おう。行くぜー野郎ども。魔術はダメだぞー」

 感心していたランスロットだが、魔物を前に双剣を握り直した。





 昼を過ぎてしばらく、目的地に到着した。島では騎空団は万屋となる。シェロカルテを仲介して入ってきた依頼や、直接騎空団に持ち込まれた仕事にあたる。
 騎空艇には大きな黒板が設置されており、外せない個人の予定や、パーティーで動く必要のある仕事の予定が記入される。仕事を振り分けるのはグランで、少人数で十分な仕事は当人と打ち合わせる。団員は仕事と私用とをやりくりするのだ。基本的には騎空艇で生活するが、仕事内容によっては宿を取る。
 この度、講演と教育支援の依頼があり、十人程度が街で宿をとっていた。
 ただの座学教育ではなく、剣や弓や魔術の教育だ。
 実力ある者からの指導や他の島の話は、とても人気があり、一般人も多く参加する。特にこの島は気流の関係で騎空士の出入りが少ない。グランたちが訪れるのは二度目で、一度目も大盛況だった。
 剣士として二人(ランスロットとロザミア)、魔導士として二人(メノウとエルモート)、弓使いとして一人(ミラオル)、銃使いとして一人(スカル)、風祷師として一人(ペトラ)、さらにグランは闘士として参加し、グランと共に動くビィとルリアも参加することになっていた。
 九人と一匹は、島について早々、他の仲間に騎空艇を任せて街へ向かった。宿に着いたのは夕方で、隣接する食堂で晩御飯となった。グランたちを覚えている人からは気さくに話しかけられ、夜まで話し込むことになった。
 宿は大きな部屋を二つとり、男女に分かれて宿泊する。夕飯後は軽く打ち合わせをし、部屋の風呂で入浴を済ませ、翌日に備えて寝るのみだ。

「うー緊張します……」
「ルリアちゃん、そんなに身構えていたら眠れなくなりますよ」

 ルリアは、明日を思って表情がかたい。ルリアはビィと共に、騎空団についての簡単な話をすることになっていた。前回の訪問ではグランが行った部分である。
 ペトラが緊張をほぐすように言うが、ルリアは頷くだけだ。弓の手入れをしていたミラオルが、心底不思議だと呟く。

「星昌獣を前にも怯まないのにな……」
「むしろ突っ込んで行くわよね」

 ロザミアが苦笑して同意する。
 言われたルリアは、それとこれとは別なんです、と主張する。命の危険があるのは明らかに星昌獣だが、慣れも多少はあるのだろう。恐ろしいものである。
 明日への緊張と睡魔が拮抗するルリアは、とりあえずベッドに入ってしまえば良いのではと思いつく。横になっていれば眠れるはずだ。
 皆がまだ寝ないので部屋は明るいが、ルリアは暗闇で眠ることの方に抵抗があるので、明るさが気にはならなかった。
 もぞもぞと寝やすいポジションを探し、いつの間にやらメノウも横になっていることに気付く。疲れたのだろうかと心配になるが、仲間がいたように思えて嬉しくなった。

「メノウも、寝る体勢になる作戦ですね!」
「ううん、メノウは悶えているだけよ」

 ロザミアが呆れ半分で首を振る。ルリアは意味が分からず首をかしげ、ミラオルとペトラにも理由は思い当たらない。
 メノウが枕に埋めていた顔を上げ、ちらりとロザミアを見る。騎空団結成初期からの付き合いだ。ロザミアはメノウの態度から察していた。

「良かったわね」
「そうですね……」

 メノウは投げやりに、しかしどこか嬉しそうに肯定して枕に顔を埋める。
 食堂にて偶然、ランスロットと席が隣になっただけだった。





 会場である広場に人が集まる。主催の教育機関所属の生徒はもちろん、老若男女問わず多くの人が集まっていた。
 単に他の島の話に興味があるという者から、騎空士を目指す者、魔術の勉強のモチベーションをあげたい者まで様々である。予想以上の人出に、グランは騎空艇からの応援要請を少し考えた。
 グランの挨拶に始まり、続いてルリアとビィの講演だ。幼い少女と可愛らしいマスコットの話は微笑ましく、同時に、話の内容から確かに騎空士であることが分かる。空に憧れる者へのつかみは抜群だった。
 主催の進行で、参加者が六つのブースに分かれる。
 一番人が集まったのは、剣士のブースだった。困ったように笑うランスロットとロザミアを、グランが清々しい笑顔で送り出す。

「グラン、今からでもジョブチェンジすべきよ。三人でやりましょう」
「俺今日はクンフーだもん。闘士俺だけだもん」
「艇から応援を……」
「クラウディアは別件でいないから、呼ぶとしたらファスティバなんだ。巨漢のオネエはちょっと親しみやすさに欠けるだろ?あ、ランスロット、騎士志望も結構いるらしいから、時間あったら何か話してくれると嬉しい」
「時間……あるか……?」
「任せる。頑張れ」

 グランが剣士にジョブチェンジするのではなく、剣士の応援を呼べばいいのだが、その考えが浮かばない程度には彼らも動揺していた。戦闘では頼もしいのだが、不意打ちに弱いところは否定できない。
 逆に最も人が少ないのは風祷師のブースだ。そもそも風祷師自体がメジャーではなく、風祷師を志望する者がいない。騎空団という存在に興味がある者や、風祷師とは何か疑問を持った者が集まった。ペトラは、これを機に風祷師の役割を広めたいと意気込む。
 ルリアとビィは、もっと話が聞きたいという声に応えて、今までの騎空団の出来事を話していた。
 弓使いのブースは、ミラオルの特殊な戦い方に皆興味津々だった。ハーヴィンの小柄な体躯と器用さをいかした戦い方は、戦略の重要性を示している。弓そのものの扱い方や手入れの指導も丁寧で、武器職人の姿も見られた。
 銃使いのブースでは、スカルの他人に対する遠慮のなさが、逆に親しみやすく写っていた。身内を、特に下の者を大事にする性格なので、生徒への指導は見かけによらず熱心だった。
 魔導士ブースは、人当たりのいいメノウと面倒見のいいエルモートの担当だ。メノウは、魔力のコントロールについて主に指導をしていた。力の乗せ方についてはエルモートが担当している。臨機応変に質問に答えるが、大抵の質問がこの二つに分けられるからだ。
 闘士のブースはグランの担当で、人たらしと言われる実力を遺憾なく発揮していた。青の民族衣装を纏って、今日はクンフーだもんと言っているが、グランは剣士であり魔導士であり、弓も使えば銃も使い、全属性魔術を行使できるので、どんな質問にも真面目に向き合った。
 一時間半が経ち、休憩に入る。後半は同じブースにいてもよし、移動しても良しだ。
 メノウはブースに置かれた椅子に座り、ドリンクを飲む。エルモートと互いに労いあった。ブースにいた人たちも休憩しつつ、楽しげに意見を交換していた。引き続き魔導士ブースにいるのか、動く様子のない人もいる。
 他の団員は、と広場を見渡すと、真っ先に目に入るのは剣士のブースだ。何せ人が多い。休憩に入っているので皆剣は握っていないが、ロザミアとランスロットが別々の場所で数人に囲まれている。
 ただの世間話にしては、二人とも表情が固いように見える。メノウは、ランスロットの方に女性、ロザミアの方に男性が言いよっていることの気付いた。
 よくよく広場を見ると、エルモートとミラオルとペトラも似た状況だった。スカルはどちらかというと同性に慕われているようだ。グランとルリアは子供だからか、大人から可愛がられているように見えた。
 メノウは一人苦笑しながら、ランスロットへ視線を戻す。
 騎空士は基本的に定住しないが、あわよくば、という思いがあるのだろう。島から島へ移動しているので様々な文化に理解があり、実戦経験もあり、腕がたち、気さくで、仲間思い。そこに容姿の端整さと騎士団長などといった肩書きが加われば尚更だ。
 格好いいことなど知っている。
 ランスロットに言い寄る女性陣に混ざりたいような混ざりたくないような心境でいると、ランスロットが視線に気付いたのかメノウの方を向く。メノウはすかさず視線を逸らして、子供に大人気なビィを見つめた。

「あの、メノウさん」
「はい?」
「今回はどの程度滞在されるのですか?街を案内しますよ」

 どうやら、メノウも例外ではなかったようだ。



 後半に入って三十分ほどした時、息を切らせた女性が広場へ走ってきた。「魔物が!」と叫ぶ声に、団員は素早く反応した。
 魔物のいる場所に向かうことが多いからか、グランに魔物を引き寄せる体質でもあるのか、グラン込みでの移動では高確率で魔物と遭遇する。
 しかし今回は、どうやら別のところに原因があるようだった。

「警備隊まで広場に?」
「らしい。それで、街中まで来ちゃったんだって」

 魔物が出れば騎空団の出番である。速やかに召集された九人は、避難誘導を警備隊に任せ、三組に分かれて討伐に向かった。

「パーティー分けは、俺、ルリア、ビィ、ミラオル。次。ロザミア、エルモート、スカル。次。ランスロット、メノウ、ペトラで」

 メノウは耳を疑った。頑張りましょうねとペトラが声をかけてきた上、ランスロット歩み寄ってきたのでどうやら聞き間違いではないらしい。ロザミアのハンズアップは見なかったことにした。
 近接戦闘型と遠距離戦闘型、騎空団所属日数(レベル)、得意属性。それらを加味すれば、おそらく最善のチーム分けだとも思え、メノウは悲鳴を心の中に留めた。

「ランスロットさんもメノウさんも、同じパーティーなの初めてです!」
「俺もだな」
「私もー。私、近くに来た魔物に対応するの難しいので、よろしくお願いします」

 メノウは主にランスロットに向けて頭を下げる。ランスロットはきょとんとしたが短く笑うと、任せてくれと頷いた。
 三人で、割り振られた区画を走る。住民は避難していたが、先程までの講演のためか、声援が多く魔物に対する恐怖が見られない。一種のパフォーマンスのような感覚だ。
 ヒューマンよりも五感の優れるエルーンであるメノウが、真っ先に魔物に気付く。魔法を使えるようなら使い、必要のない時は単体攻撃に勤める。接近した魔物にはランスロットが対応した。場合によってはランスロット自身が突っ込んでいく。魔物のレベルが高くなく苦労はしないが、要所要所でペトラが回復魔術を使用していた。
 警備隊がいないから、という理由だけでは説明できない程度には魔物がみられる。これやっぱりグラン効果かな、とメノウは密かに思っていた。
 割り振られた区画を二週し、魔物の目撃証言もなくなったところで、集合場所の広場へ向かうことになった。
 メノウ、ペトラ、ランスロットと横並びで街中を歩く。メノウはペトラと会話し、徹底的に青い鎧を視界に入れないようにしていた。ペトラとランスロットが広場での出来事について話している最中、メノウは聞き耳を立てながら正面を見据えていた。

「そういえば。俺はずっと、メノウは弓使いだと思ってたな」

 不意に、ランスロットに名を呼ばれ、メノウは頬を噛む。思わずランスロットに向けた視線は、一秒と経たずに逸らした。

「どちらかというと魔導士かな。普通に弓と矢でも使えるけど」
「私も、知った時は驚きました。矢の数を気にしなくていいから、とかですか?」

 ペトラが便乗して尋ねる。メノウは返答こそ冷静だが、ペトラの存在に心から感謝していた。

「それもあるけど、元々はお金なくて。矢もタダじゃないから、じゃあ魔力を矢の代わりに飛ばせばいいんじゃないかっていう発想だった」
「物理攻撃は効かなくても魔術は効く、という魔物には特に有効だろうな」
「そうそう。逆はあまりいないし、いたらいたで普通に矢を射ればおっけー」
「魔導士向けの弓じゃなく、弓としての弓なんですね」
「普通に矢を射ることに関しては、杖としての弓よりもはるかに攻撃力があるのだろう。重たそうだ」
「めちゃめちゃ重いよ。これ自体も、弦も」

 持ってみる?と成り行きで口にすると、ランスロットが興味を示した。両手を出すように言い、メノウは片手で持っていた弓を渡す。
 メノウの細腕が「重い」という重量を予想していたのだろう、ランスロットの腕が少し沈むように動く。
 メノウは目を見開いたランスロットに満足する反面、何をしているんだと叫んでいた。会話を終わらせないようにとした結果がこれである。
 ペトラも興味を持ったようだが、メノウとランスロット二人して首を横に振る。

「確かに重い。重すぎないか……?」
「ちょっとだけ魔力流してみて。魔力で重さを相殺出来るようにしてるんだよ。弦引く時も」
「軽い……!メノウは常に魔力を流しているということか。魔力の扱いが本当に上手いんだな」
「あ、りがとうございます」

 ランスロットから弓を受け取る。その際、指先がかすかにふれて内心でもんどり打っていた。表情は冷静そのものだったが。




 広場では、帰宅する方が危険だからと一部残っている人がいた。帰還した騎空士には拍手と尊敬の眼差しが向けられる。メノウらは最後だったようで、既に六人と一匹が集合していた。
 ハプニングはあったが、企画は再開することになった。グランは街の人々がいいならと再開を了承した。自分たちはこの程度で倒れるほど柔ではないのである。
 今日この日にこだわるのは、グランたちが次にいつ訪問出来るかの目処が立たないし、延期出来たとしても運営側の準備が追いつかないからだった。
 少しの休憩を挟んでブースに散らばる。広場にいる人は少なくなっているが、再開を知れば集まって来るだろう。
 街中を巻き込んでの企画は予定よりも大幅に延長し、閉会の時には月が昇っていた。

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