幼馴染トリオ


 隣のクラスの江戸川コナンが、見知らぬ女子高生二人と歩いていた。わいわいと楽しそうに会話をしているが、カチューシャをした女子高生の手から何かが滑り落ちる。
 錦は音もなく近づいて、成人男性の拳ほどはありそうなそれを片手でキャッチした。形状と材質から、どうやら湯呑であるらしい。
 三対の視線を受けて、笑みを深める。

「危なかったわよ」
「よ、よ、良かった!!割れてない!!」

 カチューシャの女子高生が興奮気味に湯呑に手を伸ばす。事情は知らないが、特別なものなのだろう。
 錦は小さな手には不釣り合いな力で湯呑を持ったまま、呆けるコナンに顔を向けた。

「奇遇ね、江戸川君」
「お、おう……。橙茉さん、家こっちじゃなかったよな……?」
「家の鍵を忘れていたの。開けられるけれど、せっかくだから、米花の探索をしようと思って」
「開けられるの!?セキュリティ大丈夫かよ……」
「コナン君、お友達?」
「あ、うん。隣のクラスの橙茉錦さんだよ」
「錦ちゃんか。私は毛利蘭、コナン君と一緒に住んでるの。こっちは鈴木園子」
「蘭さんと園子さんね」
「ちょっとちょっと、ほのぼのしてんじゃないわよ!か、え、し、な、さ、い!」

 園子が肩で息をしながら、錦の握る湯呑を指さす。

「園子姉ちゃんこそ、何遊んでるの?」
「遊んでないわよガキンチョ!この子どんな握力してるわけ!?」
「園子、こんな小さな子相手に大人げないわよ。湯呑を拾ってくれたのに」

 蘭が眉を寄せて園子をたしなめる。
 一方、錦はコナンに非難の目を向けられていた。返してやってくれと視線で訴えるコナンに、小さく肩をすくめる。
 錦は湯呑を持ち直すと、鼻息を荒げる園子に差し出した。
 
「まずお礼を述べるべきだと、わたくしは思うわ」
「っ……受け止めてくれて、ありがと」
「どういたしまして」

 "園子"という文字が入った湯呑が、園子の手に戻る。大きな湯呑は大事そうに仕舞われた。
 錦は湯呑の様子を見守ってから、蘭を見上げた。癖のない黒髪を長く伸ばした可愛らしい印象の女の子で、青子と似ている顔立ちだが別人らしい。
 以前、サッカーをしている男の子と一緒にいるのを見たことがある。あの時は遠目なので気付かなかったが、なんとなく鍛えているように見えた。
 心身ともに健康的で、太陽の香りが強く、錦らにとってはとても魅力的な人だった。
 
「えっと、私の顔に何かついてる?」
「いいえ、なんでもないわ」
「そう……?錦ちゃん、一人で歩くのは危ないから、おうちの人が帰ってくる時間までウチに来る?」
「ご一緒させてもらうわ。いいかしら、江戸川君?」
「い、いいよ……」

 ぎこちなく頷くコナンの頭を、園子が乱暴にかきまぜる。

「ガキンチョの癖に、モテモテじゃない」
「やめてよ園子姉ちゃん!」
「歩美ちゃんに、哀ちゃんに、錦ちゃんかあ。可愛い子揃いだね、コナン君」
「蘭姉ちゃんまで……歩美ちゃんも灰原も橙茉さんも、そんなんじゃないってば」
「あれ?みんな呼び方違うんだ」
「ま、まあね」

 じゃれている様子を微笑ましく眺めていると、女子高生二人にいじられているコナンからじとりと睨まれる。だが若干頬が染まっているので、迫力や威圧感とは無縁だった。

- 62 -

prevブラックダイヤに口づけnext
ALICE+