美麗一家、改め


 コナンは自分の分のパスタを食べながら、背後の会話に耳をそばだてた。
 好きな作家の新刊読破を楽しみに帰宅すれば、関西人二人組がおり、コナンの意見は一切聞き入れられないまま外食に出た。コナンは、新刊を読めないことにへそを曲げていたが、錦との遭遇でそんな不機嫌も吹き飛んだ。
 錦に対する不信感や警戒心は、もうほとんど残っていない。が、謎は多い。己のテーブルの会話より、遥かに興味をそそられた。

「モッツァレラチーズ、というのかしら。美味しいわね」
「うん!凌さんのパスタも美味しいわ。さすが手打ちパスタね」
「たまには外食もいいな……」
「錦ちゃんと凌さんも、リゾットつまむ?」
「いただくわ」
「つまむー」

 注意して聞くことが無駄な気がしていた。橙茉家はいたって普通の、他愛ないことを話すばかりだ。
 というか本当に両親だよな?とコナンは眉を寄せる。父親らしき男性も母親らしき女性も、驚くほど錦と似ていないのだ。うまい具合に遺伝子がかみ合ったのだろうか。
 男性も女性も、いたって平凡だ。どこにでもいる通行人Aである。これといった特徴がなく、似顔絵を描くのに苦労しそうである。
 三人でそれぞれの料理を味見しあっているのは、蘭と和葉がしているそれと同じ。仲がいいなあと思うだけだ。
 隣のテーブルに聞き耳を立てるという褒められたものではない行為も、錦らの食事と同時に終了した。先に入店していたのは錦らなので、食べ終わるのも店を出るのもあちらが先だ。
 挨拶くらいはしておくか、とコナンは口元を拭きながら振り返る。丁度、錦もコナンを見ていた。

「また明日、江戸川君」
「ああ、また明日」
「……ところで」

 椅子を降りた錦は、視線を平次に向ける。コナンの耳元に口を寄せ、こそこそと問いかけてきた。

「彼の言葉は、何?」
「言葉?関西弁か?はっと……平次兄ちゃんと和葉姉ちゃんは、大阪に住んでるんだ」
「かんさいべん……」
「どうかしたか?」
「いいえ、何も。ありがとう」

 錦は不思議そうな顔をしつつ、レジにいる両親(仮)の所へと向かった。
 コナンは、大して意味を感じない問いかけをすぐに忘れた。なにせ、食事を終えると、甲子園か宝塚かという平次と和葉の痴話げんかに巻き込まれたのである。

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