秒針が子守唄


 入浴も歯磨きも終えて凌の布団で横になり、無言で端から端まで転がる。ゴロゴロゴロ、ゴロゴロゴロ、と何度か往復し、目が回り始めて止まった。

「ほこりが舞うだろ。はい、端に寄ってください」
「電話は終わったの?」
「おー」
「電気の消し忘れはないかしら」
「まるで母お……母さんだ」
「ふふ、お母さんよ」

 端に寄ってスペースを作ると、凌が言葉にならない声を発しながら入って来る。転がる錦を注意したにも関わらず、おもむろに錦を持ち上げると、仰向けに寝転んだ自分のスネに乗せた。
 錦は腹部の圧迫感にぐうとうめき、強制的に飛行機ごっこに参加する。

「おお、体幹いいな」
「眠くないの?」
「眠かったんだけど、電話で目が覚めた。明日、ブライダル休みだって。同時間に別会場で披露宴はあるけど、そっちの人は足りてるらしいし」
「結婚式が中止になることってあるの?」
「俺は初めてだけど、たまにあるって。他に恋人がいて駆け落ちとか、直前の大喧嘩とか。今回は、新婦が亡くなったんだと」
「お気の毒ね」
「事故かなあ。とんだ悲劇だよなあ」

 凌の膝をペチペチと叩いて下ろすよう訴える。布団に下ろされると、凌の隣に寝転んだ。
 凌は先の言葉通り目がさえてしまったようで、何度も枕に頭を置き直している。中々、力の抜けるポジションに落ち着かないらしい。凌が隣で動いているので、錦も落ち着かない。
 錦は、不快そうな凌を暗闇でもはっきり確認しつつ、寝ころんだままで挙手をした。
 
「どうぞ、錦さん」
「気を失ったように眠れる方法なら知っているわよ」
「遠慮する。あれだろ、ホテルにいた時にやったやつだろ?」
「じゃあ、目に蒸しタオルを当てるとか、耳を温めるとか」
「そのまま寝たら枕濡れるし、耳を温める手段は思いつかない」
「タオルはわたくしが回収するわ。耳も、凌が眠るまでわたくしが塞いでいてあげるわよ」
「錦も寝るんだぞー」

 おもむろに凌が体を起こし、タオルケットで錦をくるむ。みのむし状態になった錦を抱き枕よろしく抱え、自分の腕を枕に目を閉じた。
 錦が身動きできないままクスクス笑っていると、あやすように背中を優しく叩かれた。
- 83 -

prevブラックダイヤに口づけnext
ALICE+