もし零が熱を出したら



「ぜーろ」
「……」
「零ー重いー」
「……」

どうしてこうなったんだろうかと、身動き出来ないまま考える。

今日、零は学校に来なかったんだ。優姫ちゃんに聞いても分からなくて、まあサボりかな程度に思ってた。心配はあまりしてなかったけど、昨日、どこかぼうっとしていた事を思い出したのだ。
まさか零に限ってそれは無いだろうと思いつつ、放課後男子寮に忍び込んだ。見つかるとやばいのでさっさと部屋に入れて貰おうと、扉をノックして呼び掛けたーーそう、それまでは良かったのだが。

「零ー、寝てる?」

ドアが開いたと思ったらあっという間に部屋に引き込まれ、訳もわからぬままベッドに雪崩込んだ。
無論、私は敷き布団と化してしまっている。

「熱あるんじゃないのかな、っていうかあるよね錐生くん」
「うるせぇ……」
「何だ、起きてたか」

私の肩口で、もぞもぞと首の位置を直す零。くすぐったいんだけど。
というかそろそろ起きてくれないと、私が危ない。重さもあるけど……何よりもまず近すぎる。乙女として、この距離は心臓に悪い。

「……私潰れるんだけどマジで」
「ああ……」

ああって何よああって。
そろそろ三途の川が見えるんじゃないかと不安に思っていると、零はようやく体を退けてくれた。やっと解放されたと思ったけれど、今度は抱き枕にされる。
風邪が移るかもしれないが、珍しいものを見られている気分になったので、今度は私から腕を回した。
熱のある体は暖かい。

「……お前、冷たくて気持ちいいな」
「零が熱いんだよ」

いつもと違って力の入っていない声。可愛いなあと思いながらも口には出さない。

目の前には零の胸板。少し顔を上げると、眉間に皺を刻んで目を閉じている彼の顔。風紀委員も大変だし、疲れが出てしまったのだろうか。

何かお粥でも作ろうかなあ、と思いはするのだが、拘束力の強さに諦めざるを得ない。

「零ー」

ま、いっか。色々と。

私は、ぎゅうと彼に擦り寄って、自然と目を閉じた。零の匂いがしてひどく落ち着くし、零が暖かいせいで眠気も自然とやってくる。

「早く元気になってねー」

私はそう呟いて、睡魔に身を任せた。
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