to be, or not to be


(何度か書き直すうちに力尽きたので冒頭だけ)
(そのゴッドイーターのはじまり)

 最初の異変は、部屋を片付けているとき。わたしは、あるゲームを紛失していることに気付いた。一度クリアしたきり放置していたが、一時はかなり楽しんでプレイした思い入れのあるものだったから、部屋をひっくり返して探すくらいにはショックだった。それでも見つからなかった。
 次の異変は、失くしたゲームを中古でもいいから買おうと中古ゲームショップを訪れたとき。一つもそのタイトルが見当たらなかった。その場では偶然だろうと思い気にしなかった。
 続いての異変は、家でネット検索をして探そうとしたとき。中古ソフトどころか、そもそも作品名が存在していなかった。不思議なことを言っている自覚があるが、ブラウザは『そんな名前のゲームなんて無いよ』と淡々と告げてくるのである。
 ここまでくると"本当にあのソフトは無かったのではないか"と疑心暗鬼に陥る。わたしの妄想が盛り上がりすぎた結果、一本のゲームをクリアした気になっているのではないかと。
 この世に存在しないゲームを探し始めておよそ一月後、今度は、わたしが存在しない者になった。

「いや……いやさあ……」

 わたしは廃墟街に立っていた。高校からの帰り道だったはずが、身一つで立ち尽くしている。反射的に携帯を取り出そうとしたが、携帯は鞄の中であり、残念ながら鞄は所持していなかった。
 街に人の気配はなく、戦争があったのではと思うほど荒れていた。目に入る看板が日本語ではないので、未来の荒廃した日本にタイムスリップ、なんてことでもないらしい。
 幸いだったのは、すぐ他の人間に会えたことだ。当然日本語ではなく、何を言っているのか分からなかったけれど、彼らはわたしを保護してくれた。
 わたしが彼らにホイホイついて行ったのには、実は理由がある。身の丈以上の巨大な武器を持った彼らに、既視感を覚えたからだ。
 わたしは、初対面の彼らがゴッドイーターという職業であると知っていた。同時に、ここが世界からなくなったゲームの世界であると気付いたのだ。


 その日の内にメディカルチェックを受け、新型適合候補者に選出されたのは予想外だった。



 わたしが保護されたのは、フェンリルのロシア支部だった。道理で日本語ではないはずである。怪しい治療を受けて英語とロシア語を脳に叩き込まれ、読み書きをあっという間にマスター出来たのは僥倖だ。言葉が分からない間に新型適合試験の話が進んでいたこともあって、話せるようになった頃にはすっかり"記憶喪失の新型"として周知されていた。外部居住区――フェンリルの支部を中心として形成されたアーコロジーで、アラガミ防壁内ではあるが支部外の居住地域をそう呼ぶ――の外にも生活している人間はいるので、そこからはぐれたと判断されたのだろう。
 そして本日、新型神機の適合試験があった。わたしは無事にそれをクリアし、赤く分厚く大きな腕輪を手に入れた。

「ヒノ、調子はどう?」

 支部のロビーで右手首に装着された腕輪を眺めていると、声をかけられた。わたしを保護したゴッドイーターの一人であり、色々と不便だろうからとファミリーネームを与えてくれた人だ。戸籍情報が崩壊しているので養子になったわけではないが、彼はわたしを"妹"だの"娘"だのと言って可愛がってくれている。名前は、イヴァン・アンドレーヴィン・エリセーエフ。ゴッドイーター歴七年、旧型近距離神機使い。端的に彼を表現するなら、気のいい兄ちゃんである。

「なんともないけど、腕輪つけるときは予想以上に痛かった」
「あー分かる分かる。痛いよな」
「これでわたしもゴッドイーターか」
「気張れよ、新型」

 命を賭けることに尻込みはするけれど、嫌ではなかった。自分に出来ることがある、と示されているからだ。人類を守るゴッドイーターは人員不足で、新型適合者は世界的にもまだまだ少数。ロシア支部ではわたしで二人目だ。一人目は言わずもがな、アリサである。
 アリサ……なんだったか。一度クリアしただけのゲームだ、覚えていることもあるがかなり記憶は曖昧である。アリサという銀髪の美人が、ロシア支部から極東支部に転属することは覚えている。
 そういえば、今は"どのあたり"なのだろう。西暦は知っていても、生憎、ゲームでの西暦を覚えていない。"ロシアでの新型は二人目"だと聞いたからアリサの存在を勝手に認めただけで、実際に極東支部で何が起こっているのかは知らないのだった。
 わたしは何気ない風を装ってイヴァンに問いかける。

「一人目の新型ってどんな人?」
「そういやあ、会ったことないのか。仕方ないか。新型一号は、上層部の命令か知らんが大事に大事にされてるし」
「そうなの?」
「俺も会ったことねーもん。演習の成績は抜群に良いらしいけど、実戦にはあんま出てないらしい。期待が大きい分、無暗に死なせられんってことなんだろーけど……ヒノは会わないままかもな」
「え、なんで?」
「来月、極東支部に移るんだとさ。優秀な人材は全部極東に行くんだもんなあ」

 「ヒノも極東に取られちゃったりしてな」とイヴァンが笑う。わたしも軽く笑う。
 アリサがもうすぐ極東支部に転属ということは、ゲームで言う所の序盤にあたるのだろう。わたしとアリサ(新型同士)で顔合わせでもあるのかと思いきや、イヴァンの様子を見るにそれもなさそうである。
 しかし、アリサはそんなに箱入り娘だっただろうか。優秀なゴッドイーターで服装が危うい、という印象が強い。なにか忘れているのかもしれない。ううん、下乳しか出てこない。

「ヒノは明日から演習だろ?」
「すんごい予定詰められてるらしいんだよ。来週からは実戦だって」
「はあ?マジで」
「実戦演習の様子を見てではあるけど、理想スケジュールはそうらしい」
「さすが、期待の新型。アリサが取られちまうから、ヒノを鍛えようってことだろ」
「アリサ?」
「例の一人目な。アリサ・イリーニチナ・アミエーラ」

 なるほど、これが彼女のフルネームだったか。横文字の名前は覚えにくい上、ロシアの名前は長くていけない。イヴァンもしかり。わたしもイヴァンから名前をもらったので、ヒノ・イヴァーノヴナ・エリセーエヴァなどというお洒落ネームであるのだが。
 アリサ・イリーニチナ・アミエーラ、アリサ・イリーニチナ・アミエーラ。ゆっくりと名前を復唱していると、イヴァンが前のめりになって問いかけてきた。

「ところで、使う神機の構成は決めてんの?」

 わたしは考えるポーズをとった。
 新型神機は近距離、遠距離の両方の武器を操れる可変式神機だ。よってわたしは、近距離/刀身でショートブレード、ロングブレード、バスターブレードのどれかを選び、遠距離/銃身でスナイパー、アサルト、ブラストのどれを選ぶか、選択肢がある。さらに装甲もバックラー、シールド、タワーから選ぶ。固定する必要はないが、それぞれの武器によって特性が異なるため、武器種を決めてしまっているゴッドイーターは多い。例えば、イヴァンはロングブレード使いだ。ロングブレードに分類される神機を複数持ち、アラガミによって持ち変えているらしいが、ロングは固定している。
 ゴッドイーターとしては悩み所だが、実は、わたしはもう決めている。馴染んだものがいいだろうと、"以前"使っていた組み合わせにしようと決めていた。

「バスターと、スナイパーかな。あとタワー」
「へえ、ショートかと思ってたのに。なんでそれにしたんだ?」
「持ったときに、一番しっくりきたからさ。ロングは、場合によっては使うかもね」

 嘘である。どれを持っても変わらなかった。
 ショートやロングは"喰い裂く"感覚だが、バスターは"叩き裂く"感覚があり、それを生で体験したくなったのだ。スナイパーにしたのには"以前"以外の理由はない。"以前"、何故スナイパーを持っていたのかも正直憶えていない。消費するオラクルポイント量が少ないと言われていた気がする。

「あとは、バレッド作りたいな」
「ああ、それは俺手伝えないわ。ロタに頼め」

 わたしを保護した、もう一人のゴッドイーターの名が上がる。カルロッタと言い、イヴァンと同部隊の旧型遠距離神機使いである。落ち着いていて優しいお姉さんだ。

「そうする。でも、そもそもバレッド組むだけの資金がないから、しばらくは支給の初期バレッド使うかな」
「バレッド、全属性で組もうと思ったら結構金かかるんだってな。どういうバレッド作りたいか、構想でもあんのか?」

 イエスである。しかし、攻略サイトを見てバレッドを作っていたわたしがそれを暗記しているわけがないので、ロタ頼みだ。内臓破壊弾や脳天直撃弾に類似したレシピがあることは確認済みだ。出撃してお金をためて、ロタに頼んでレシピを手に入れてもらい、組むのが目標である。

「張り付いて爆裂する系とか、頭から降り注ぐ系がほしい」
「嫌に具体的だな……しかもエゲつない」
「全属性で二種類ずつ作ろうと思ったら、かなりお金いるなあ」
「だからって、回復錠をケチるなよ」
「もちろん」

 ゴッドイーターの給料は歩合なので、任務に出れば出るほどお金も素材も手に入る。わたしはこれからしばらく、人類を守るためと言うよりは、スムーズに仕事をするために出撃しなければならない。



 どのくらいの頻度で任務に出るようになるのかなあ――なんて呑気に考えていたわたしへ告げる。心配しなくとも、馬車馬のように働かされている、と。

 座学と演習を詰め込まれたわたしは、さっさと実戦に放り出された。初任務のコクーンメイデン戦が滞りなく終了して安堵したのも束の間、次の任務で悲劇が起こった。散開して索敵している最中、わたしはお散歩中のヴァジュラと遭遇してしまったのである。
 背筋が凍った。本来の討伐目標はザイゴートだったのだ。

「こちらヒノ。Cブロックでヴァジュラを発見」
『は!?クソ、俺らが合流するまでじっとして、』
「無理だ気付かれた、交戦に入る」

 言い切らない内に装甲を展開し、飛んできた雷球に耐える。
 ヴァジュラの戦い方は知っている。知っているが、それは画面上での話である。今は違う。ヴァジュラはわたしの何倍もの大きな体を誇り、動くたびに地響きがわたしにも伝わって来る。二階建ての民家が動いているような感覚だ。
 ヴァジュラが赤いタテガミを揺らして吼えた。空気を震わせる咆哮に思わず足がすくむ。作りものではない、本物の化け物が目の前にいる。
 巨体に似合わぬ跳躍を、横に転がって避ける。真横にヴァジュラがいる。大きいしこわい。踏みつけられたら、いくら一般人より丈夫で身体能力が高いゴッドイーターといえどひとたまりもない。ここは、ゲームではないのだから。
 距離を保ちつつ遠距離で攻撃を仕掛けたいが、この跳躍だ。おまけにわたしは攻撃力の高いバレッドを持っていないし、囮になってくれるような仲間も居ない。自分でどうにかするしかない。
 いずれは、戦う敵なのだ。怖気づいてばかりもいられない。

「戦え、戦え、お前がゴッドイーターなんだから!」

 わたしに向き直ったヴァジュラの顔面目掛けて、バスターブレードを振り下ろす。重量のあるもの同士がぶつかり、骨に響くような鈍い衝撃がわたしにも伝わる。手ごたえがあった。メキ、とヴァジュラの顔面を覆う仮面にひびが入る。
 すぐにバックステップで離れる。足が絡まってたたらを踏んだ。
 顔面の強固なオラクル細胞結合を傷つけられたヴァジュラが怒る。空気が電気を帯びているのが分かり、わたしはさらに距離を取った。途端、ヴァジュラを中心として電撃が走る。危なかった、一人で戦っているのにスタンさせられたらひとたまりもない。そもそもスタン程度で済むのかも分からない。ゴッドイーターの身体能力について、詳しくイヴァンに聞いておかねば。 
 強烈な電撃波を見ながら、ふと思う。極東支部ではヴァジュラの目撃情報は珍しくないものの、他支部ではヴァジュラの目撃は少ないのではなかったか。わたしが知っている他の大型アラガミも、もしかしたら少ないのかもしれない。通信でイヴァンの声が上ずったのは、彼自身もヴァジュラとの交戦経験が少ないからではないだろうか。

「これから増えていくんだろうな。多分な」

 アラガミの生息地域の変化や新種の出現がこれから増えていくのだろう。
 考察している場合ではない。
 先ほどよりも俊敏な動きでヴァジュラが距離を詰めてくる。ステップでは回避しきれないと判断し、タワーシールドを展開する。受け止めきれず後方に吹き飛ばされたが、転倒は免れた。
 ヴァジュラが小雷球の放電に入る。
 またとないチャンスに、わたしは弾かれたように駆けだした。小雷球の放電中、ヴァジュラの動きは鈍るはずなのだ。どこまでわたしの知識が通ずるか分からないけれど。走りながらバスターブレードを構え、その勢いのまま後ろ脚に叩きつける。鈍い衝撃の後、暴れたヴァジュラの蹴りを喰らう。装甲の展開が間に合わなかった。大ぶりな攻撃の後に隙が出来てしまうのは、バスターブレードの弱点だ。
 脇腹が痛い。痛いが、思ったほど痛くはない。意識はしっかりしており、ちゃんと両足で立てる。丈夫な繊維で出来ている服のお陰か、わたしがとっさに身をよじったお陰か。

「よし、よし、まだ戦える――」

 上手くやればきっと倒せる。そんな予感がし始めたのだが、手負いのヴァジュラは戦闘続行ではなく撤退を選択したらしい。敵(わたし)に向かって咆哮すると、後ろ足をやや引きずりながらエリアから走り去った。
 おしい、とは思わなかった。わたしは助かったのだ。
 神機を地面に突き刺して脱力していると、ちょうど背中側にイヴァンとロタがいることに気付いた。
 なぜ黙っている。来てたなら言ってよ。

「イヴァン!ロタも!いつ来たの、助けてよ!」
「無茶言うな、さっきロタと合流して今来たんだよ。つか通信無視したのヒノだろう!死んだかと思っただろ!」
「えっ気付かなかった……」
「ヴァジュラの見送りに来たようなものになっちゃったけど、ヒノ、あなた……あのヴァジュラの傷、あなたがやったのよね?」

 ロタがパヒュンと回復弾を撃ってくれる。初めて浴びる緑色の弾丸に感嘆しながら頷いた。
 脇腹の痛みが少し引いた。動きやすくなって始めて、回復錠という手段を忘れていたことに気付く。本当に切羽詰まると、回復手段さえ頭から抜け落ちてしまうらしい。

「顔と後ろ足だけ。二撃しか入れられなかったけど」
「生きてただけでもすごいのに、攻撃できたなんて……!ヒノがあいつを追いつめたのよ。本当にすごいわ」
「えへへ」

 褒められると嬉しい。わたしは単純なので、先ほどまでの緊張も忘れて後頭部をかいた。
 
 などということがあり。隊長であるイヴァンがありのままに報告したところ、あらゆる任務にアサインされまくる日々が始まった。わたしはまだ所属部隊が決まっていないということもあり、大して数もない全部隊を歩き回ることになった。
 防衛任務でザイゴートを駆除したり、見回りでオウガテイルやシユウを倒したり、沸いたコクーンメイデンを一掃したり、ヴァジュラを討伐する機会もあった。クアドリガやボルグ・カムランとも戦ったし、水辺ではグボロ・グボロと戦った。
 メジャーどころとは一通り戦った。二人のゴッドイーターが死んだ。わたしは死ななかった。
 人死にの悲しみ方が分からず、イヴァンやロタのお世話になったりした。
 そうして猛スピードで、戦うことと失うことに馴染み始めた頃。お給料と一緒に、何故かわたしに辞令が出た。

「イヴァン!ロタ!」

 わたしは混乱が落ち着かないまま、エントランスのターミナル前で駄弁っている二人のもとに走った。お給料が出たので、ターミナルからバレッドを発注する方法をロタに聞いている最中、支部長から呼び出されたのだった。
 二人は「遅かったな」「長い呼び出しね」と声をかけてきた後、わたしの慌てようを見て不思議そうな顔をした。

「キョッ極東支部への転属と、第一部隊隊長就任の辞令が出たと同時に、隊長就任のために少尉への昇格だって……意味わかんなくない?少尉だから隊長になるんじゃなくて、隊長になるために少尉に昇格だよ?元々が製薬企業とはいえ、軍っぽいことやってるのにこんなガバガバでいいの?」

 身振り手振りを多めにつけて話す。二人は目を見張った後、二人で顔を見合わせ、ため息を吐きながら項垂れた。
 どういう反応なのだそれは。

「今ね、イヴァンとその話をしていたの。『もしかしたらヒノが極東に呼ばれるんじゃないか』って」
「なん、なんで、なんでよ」
「極東の雨宮リンドウが、MIA(作戦行動中行方不明)認定されたのよ」
「ヒッファ」

 息を吸うのと吐くのとで奇妙な声が出た。
 雨宮リンドウは、極東支部第一部隊の隊長で、アラガミ最前線と呼ばれる極東支部にて要とも言える凄腕ゴッドイーターだ。片目が隠れる長めの髪と飄々とした態度、煙草がトレードマークの強くてカッコイイお兄さんである。
 彼が任務中の事故で行方不明処理をされ、死亡処理もされたものの実は生存しており、主人公が死に物狂いで連れ戻す――そんなイベントがあったことは覚えている。物語のメインの流れは、いくらなんでも覚えている。
 従って、わたしが驚いたのはリンドウさんの行方不明に対してではない。リンドウさんの行方不明が、わたしの転属に関係している、という意味での衝撃なのだ。

「ヒノは知らないかもしれねーけど、雨宮リンドウって、他支部でも名前が知られてるくらい有名人なんだよ。ウロヴォロス単騎討伐っていう嘘かホントか分からない話もあるし、武勇伝に尽きない人でさ」
「ウン」
「そんな人がMIA認定だぞ?極東支部の損失はとてつもない。補充しようとするのは当然だろ?で、急成長を遂げてる新型を穴埋めに使おうとするのも、分からんでもないだろ」
「……わたし、はじめてのお給料日を迎えたところなのに……」
「はあ……雨宮リンドウの穴埋めとはいえ、ロシア支部の損失も大きいわよ?新型を二人も極東に取られちゃうんだもの」
「支部長も何考えてんだか……」

 ほんとそれである。わたしも信じられず、かなりねばった。そのせいで時間がかかったのだ。わたしが駄々をこねたところで、決定事項は覆らなかったのだけれども。駄々のコネ損だった。
 極東支部が嫌いなのではなく、邪魔をしたくないのだ。あちらはあちらで進むだろうから、部外者が入らない方がいいだろうと。しかもただの転属ではなく、第一部隊隊長への就任ときた。"この先"をざっくり把握している者として、関わらない様にと思うのは当然のことだろう。

「じゃあ、これから極東で活躍するためにも、気合入れてバレッド作りましょうか」

 ロタはあっさりそんなことを言う。

「切り替え早いよぉ……超ベテランの穴埋めに新人をあてがうことへの不安とかないの?」
「あなた、"新人詐欺"って呼ばれているの知ってる?」
「初耳ですけど」
「何事も経験だろ、気合入れて行ってこいよ」
「イヴァンまで……」
「昇格祝いもかねて、バレッド編集代金、一部カンパしてやるから元気出せ」

 ロタに肩を叩かれ、イヴァンには背中を強めに叩かれる。
 そう簡単な話ではないのだ。ただ転属するだけではない。わたしが、"この先"の全てを壊してしまう可能性だってある。わたしのせいでバッドエンドなんて展開になったら、どう償えばいいというのか――いや、もう昇格と転属は決定しているのだ、うじうじ考えている暇はない。
 二戦目のヴァジュラ戦でもそうだった。考えている暇はない。わたしはゴッドイーターなのだ。武器を持って戦い、人類を守るのが仕事。ゴッドイーターとして生きることは、適合試験の合格を受けて覚悟している。
 極東に行かねばならぬのなら、そこで出来る限りのことをやってやろう。ろくに覚えていないけれど、一ゴッドイーターとしての働きは出来るだろう。

「――よし。ロタ、バレッド編集の方法教えて!イヴァンはお金ちょーだい!」
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