実はお互いに思ってた

監督もコーチもミドルブロッカーへ転向することに賛成してくれた。セッターで培った冷静な目での分析、それを元に作戦を組み立てて、空中で戦う。もちろん悔しいけど、これが今の俺のベストの戦い方のはずだ。

セッターとしてすごした時間は俺にとって確実に大事な経験と力になっている。その自覚はあった。セッターというポジションに未練がないと言えば嘘になる。でも、それでも、俺の中の試合に出たいという気持ちが勝ったのだ。


それからの俺に迷いはなかったんだ。試合に出たい、勝ちたい、チームで戦いたい。その一心で俺はミドルブロッカーとしての道を突き進んだ。

いつしか俺は「ブロックの要」だと言われるようになり、レギュラーとして北川第一でプレーしていた。



「そんな経緯。だから俺はさ、孝支がすごいなって思ってて、尊敬してて、」
「え?」
「俺はセッターとしてのポジション争いから、逃げた。今となってはミドルブロッカーやっててよかったし、合ってると思うけど、逃げたことに変わりはない」
「俺は綾人がすごいと思うよ」


この話をしてまさか「すごい」だなんて言われるとは思わなくて、何の反応も示すことなく孝支の言葉をただ待つことしか出来なくて。


「セッターからミドルブロッカーにポジション変えたのも、怪我で選手としての日本代表が厳しくなったからコーチとしてそれを目指すのも。どっちも綾人にとっては苦渋の選択かもしれないけど、でもそれっていつも自分の最善を見極めてるってことでしょ?試合に出たいとかチームの力になりたいっていうその貪欲さも綾人のいいところだと俺は思うよ」


孝支のその言葉がすっと心に染み渡って、考えすぎてはじめに決めたことを貫けない自分が今まで好きではなかったけど、そんな考え方もあるのかと俺の中の暗い部分に光が差す感覚があって、少し気持ちが楽になった。


「セッターもミドルブロッカーもやれるってすげぇ!やっぱハイスペック綾人さん!」
「龍、」
「なんか綾人さんって!落ち着いてるのにブロックになるとグワッて感じでかっこいいです!セッターの綾人さんもきっとシュッてトスしてバンッてなってきっと凄いと思うんですけど、えっと!」
「言葉のチョイスが馬鹿すぎて伝わらないと思うケド」
「月島うるせー!」
「……みんな、ありがとうな」


過去の俺も受け入れてくれる烏野。俺は、このチームのために。もう一度心に誓って、笑顔を返した。