必要とされるには
俺がセッターをやり始めたきっかけは、小学生で入ったバレーのクラブチームで、オーバーハンドパスが得意だったことと、熱くなりすぎずに比較的ずっと同じテンションで試合に挑めるところをかわれたからだ。当時は気付いてなかったけど、その時から割りと味方の好不調に敏感な方だったんだと思う。
自分のトスをスパイカーが気持ち良さそうに打って、それで点が入ることが楽しかった。フォームが綺麗ならよりトスが上がる場所を特定しづらい、ということを知って、いかに美しいフォームを身に付けるか、に重点を置いて練習した。どうせやるならと、トスだけでなくサーブもスパイクもブロックも、全て癖をなくそうと努めた。その結果が今のフォーム。あの時しっかり直しててよかったと思ってる。
話は逸れたけど……その後北川第一中に進学して出会ったのが及川徹。もちろんセッター。
最初はいいライバルが出来たと思っていたし、そのお陰でより練習に熱が入った。
でもある時、監督やコーチの会話を聞いてしまった。そして悟ってしまった。
「セッターは及川ですかね」
「光川もいい選手なんだが、セッターとしては正直及川の方がいいと思う」
「となると光川は、」
「ベンチだな……」
「勿体ないけど仕方ないことですよね」
「こればかりはな」
わかっていたんだ。徹の方がセッターとしてのセンスがあることくらい、気付いていたんだ。やはり他人の目から見てもそうなのかとわかった瞬間に、俺は怖くなった。試合に出たい。このままではいけない。俺の最善は何だろう。
それからはとにかく自分の長所を活かすにはどうしたら良いかをひたすら考えた。
身長はそこそこ伸びた。周りを見る冷静な目はセッターで培った。スパイクの打ち分けもフォームにこだわるにつれてスムーズに出来るし読まれづらくなったと思う。
「はじめ、スパイクを打ってほしい」
「トス上げてくれんのか。助かる」
「いや、ブロックがしたい」
「……?おぉ、わかった」
うん。やっぱりどのコースに打つかよく見える。
「徹、トス上げてくれないか?」
「綾人ってばめずらしい〜。いいよ」
「速攻が打ちたい」
「わかった」
うん。パワーはまだまだだけど、きちんと打ててる。ブロックも見えてる。
わかったことはそれだけじゃない。及川徹のセッターとしての実力。そして、このチームに必要なセッターは俺ではないということ。
「監督。俺、ミドルブロッカーがやりたいです」