橙田は緊張しているのかいつもより動きが硬い。門から部屋につくまでの間、「お手伝いさんって本当にいるんだ」「デカイ」「広い」「すげぇ」「絨毯かよ……」「部屋何個あるんだ」等の感想をずっと述べていた。
部屋に入ってからもソファに腰掛けてはいるが背筋はぴんと伸びたままだ。
それも勉強を始めてしまえばそちらに気が向いているようで、いつも通りの橙田に戻っていった。この部屋に慣れてきたというのもあるのだろう。
しばらく問題を解くのを繰り返していると、ふと集中が途切れてしまっているように書き間違いが増えてきた。
「一度休憩しようか」
そう声をかければシャーペンを放り出して「うぉー」と声を出しながら伸びをしている。
「ちょっと待っていてくれ」
部屋を出て使用人へと声を掛ける。休憩用にと用意してくれていたケーキとコーヒーを受け取り、橙田の前に置けば目を輝かせる。甘いものが好きなようでよかった。幸せそうに頬張る姿に自然と口元が緩んだ。
「学校はどうだい?」
オレの問い掛けに、橙田は次々とエピソードを楽しそうに話してくれる。その中でも名前がよくあがる人がいて。
「その“テッちゃん”と仲が良いんだね」
「うん、テッちゃんとは帝光中で1番最初に友達になったんだ」
「へぇ、愛称で呼び合うぐらいの仲なんだね」
「まぁ俺のことは“橙田君”ってしか呼んでくれないけど……」
「“テッちゃん”か、なんだか妬けるよ」
オレの言葉に驚いて、大きな目を更に見開いて2回瞬く。初めて見る表情だ。思わず彼に微笑むと、つられたようにふわりと微笑み返してくる。
「じゃあ、征ちゃん?」
「悪くない……が、少し照れ臭いね」
「こうやって呼ぶ人いる?」
「いないよ」
「特別な感じでいいね、征ちゃん」
悪戯に笑う橙田に不覚にも体温が上がるのを感じた。