僕は帝光中バスケ部の三軍。勉強は真ん中より少し上くらい。スペックは所謂男子学生Aである。
夏休みまであと数日という今日も第四体育館で練習に励んでいた。まだ二軍への道のりは遠いけど、それでも今までより体力がついた気がするし、苦手だったドリブルもだいぶコツを掴んできた。
練習も半ば。一旦休憩という頃に控えめにガラガラと開くドア。その隙間からこっそりといった様子で中を覗くのはオレンジな美少年。
「あの、テッちゃん……えっと黒子くんいますか?」
ドアに1番近い所にいた僕に美少年は話しかけてきた。あ、この子橙田って子だ。クラスの女子が黄瀬か橙田かでよく騒いでる。
男の僕から見ても、ぱっちりした目とか、ふわふわ揺れる毛先とか、制服の青がよく映えるような白肌とか、まさに「美少年」って言葉が似合うよな、なんて思ってしまう。
「黒子なら……」
と指をさした先にいつも通り床に突っ伏している彼。僕の指の先を見るなり「テッちゃん?!」と、大きい声を上げて僕を通り過ぎて駆けていく。
「テッちゃん大丈夫?!お水飲む?」
「……橙田くん、どうして、ここに……?」
「先生に頼まれて届け物。ねぇ本当に大丈夫?」
目尻を下げて黒子を心配している橙田。逆に部員達は黒子があぁなのはいつも通りだから全く気にも止めていなかった。
「黒子、いい加減諦めねぇのかな」
「全然上手くならないしな」
「俺だったら無理だ〜」
ひそひそと、でもぎりぎり聞こえる程度の音量で話されるそれ。あいつがすごく頑張ってるのは知ってるけど、どうしても実力が伴ってない感じはあるよな……
音もなくスッと立ち上がった橙田。部員の中に1人そうではない人がいて、ましてや学校でも目立つ人物。嫌でも彼に視線が集まっている訳で、その様子を体育館の中のほとんど全員が見ている状態だ。
そんな中で彼は近くに転がるボールを慣れた手付きで拾い上げ、2回ドリブルをしたと思ったら、そのまま片手でぶん投げた。まさに「ぶん投げた」という表現がぴったりなくらい思いっきりである。
意味がわからないと思いながらもボールの行く末を目で追えば、その先にはゴールがあって、まさかと思った時には吸い込まれるようにネットをくぐっていた。
静まり返る体育館。先程のボールがバウンドする音だけが響く。
「一生懸命やってる人に対して、悪口だか陰口だか知らないですけどそんなこと言う権利ないと思います」
橙田は目元を吊り上げながらも落ち着いた声色でそう発した。それに反応し、対抗したのは二軍も間近な先輩だった。
「お前、黒子の何だか知らねぇけど、勝手に入ってきて何言いたい放題言ってんだ」
まさに今殴りかかってしまうのではないかという勢いで橙田に近付こうとする先輩を周りが抑える。それでもおさまりそうにない先輩に向かって、橙田は怒りを抑えた様子で静かに言った。
「喧嘩はお互いのためではありません。俺を殴ったらあなたは部活禁止になるでしょう。だから、バスケでなら受けて立ちますよ」
怖いもの知らずにも程があるだろう。いくら気に食わないことを言われたからって、強豪帝光中の二軍間近の先輩にバスケ部でもない1年生が勝負を仕掛けてどうするつもりだ。