君の思いと伝わる温もり


俺達は白鳥沢に負けた。結局、中学3年間ずっと勝てなかった。北川第一中でのバレーは終わった。

大会後の学校は、あんなに打ち込んでいた部活に一区切りついてしまったんだ、という喪失感で身体が重く感じた。いつも通りに振る舞ったって、悔しさが消える訳じゃない。

午前中の授業が終わって昼ご飯を食べようかとしているところに現れたのは、名前。


「徹、昼一緒に食べよう」
「うん、じゃあ岩ちゃん達も呼んで、」
「今日はふたりにしない?」
「え?」


有無を言わさず、とはまさにこのことか、と勝手に腑に落ちる。
さっさと歩いて行ってしまった名前の背中を追いかけるように付いていく。どこまで行くのだろうかと思いながらも聞くのはやめた。多分これ、聞いてもはぐらかされるだけだし。

たどり着いたのは、校舎の端にある空き教室。滅多に使わないからあまり人も通らない。そんな所。


「勝手に入っていいの?」
「んー、まぁいいんじゃない?」
「適当……」


そのまま足を止めずに教室の中央あたりの椅子に迷いなく座って弁当を広げ始めた名前に、変なとこでマイペースだよなぁ、と小さくため息をつきながら俺も隣に座る。
いただきまーす、としばらく食べ進めながらも余計なことは話さない。普段よりもお互い口数が少ない。けど、今更気を使う仲でもないので状況は変わらない。
と、思っていたんだけど。


「徹、大丈夫?」
「え?大丈夫、だよ」


何の脈絡もなく問いかけられた質問に言葉を詰まらせてしまった。名前はいつもより少しだけ眉毛を下げて、俺の目を見つめる。心の暗いところを見透かされそうで、思わず目を逸した。


「今日さ、休み時間に見かけた徹が、なんか辛そうというか、寂しそうな顔してた」


そんな気はなかった。普段通りにしていたつもりだし、塞ぎ込むほど落ち込んでいる訳ではない。もちろん悔しさはあったけど、まだ“ 俺のバレー ”が終わった訳じゃない。なのに、


「主将の顔も、先輩の顔も、俺の前ではしなくていいよ」


俺のこの喪失感をあっという間に見抜いた名前。かけられたその言葉に思わず涙腺が緩むのを感じて。それと同時に名前は立ち上がって俺の目の前へ。そしてふわりと頭を撫でる。


「大丈夫、我慢しなくてもいいよ」
「名前……っ、俺」
「うん」
「勝ちたかった……!」


涙が溢れた瞬間に、気付けば俺の身体はぬくもりで覆われていて、名前の香りが俺を包む。抱きしめられているとわかって、その華奢な身体に腕を回して、顔を胸に埋める。その体温に酷く安心した。そう思えば感情は止まらなくて、次々に溢れる。


「俺、もっと……みんな、と」
「うん」
「バレー、したいんだよ……!」
「俺もだよ。俺も徹とバレーしたい」


感情のままに言葉と涙を零すと、名前は優しい声色で答えてくれる。受け入れてくれる。俺を抱きしめる手が、まるであやすように背中をさする。
しばらく涙が止まらなくて、時々思いを口に出して、それでもずっと投げ出さずに甘えさせてくれた。

少しずつ感情の高ぶりがおさまるのを感じて、それとは反対に頭の痛みが増す。涙はいつしか出なくなって、乱れた呼吸も整ってくる。抱きついていた名前の身体から、回した腕はそのままに少し離れてみれば、そこには罪悪感が。

「……ごめん、制服濡れちゃった」
「ん、落ち着いた?」
「うん、だいぶ」

その間も頭を撫で続ける名前に何だか急に恥ずかしくなってきた。名前の前でこんなに号泣するのも、縋り付くのも、多分初めてだ。


「甘えたな徹がまた我慢出来なくなったらおいで」
「……!バッカじゃないの」


よくもそんな恥ずかしいこと口に出来るよね……!妙に照れて顔に熱が集まるのを感じて、必死に隠そうともこの体勢ではどうにも出来ず、そうなったら。と、もう一度抱きついて顔を埋めた。やっぱり名前はあったかかった。

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