出会いは突然に


北川第一中に入学して数日。放課後にさっき授業で使った実験器具を理科室まで運んでおいて欲しいと先生にお願いされた。これから部活見学に行こうと思っていたのについてない……
当の本人は今から職員会議らしく、簡単に理科室への道のりを教えてもらい、鍵を受け取ってから歩き出す。


「……理科室ない」


言われた通りに来たはずなのに、あると思ったところには全く別の教室。きょろきょろと辺りを見渡しても「理科室」だなんてどこにも書いてないじゃねぇか。


「何か探してる?」


突然声をかけられてびくりと肩を揺らす。振り向いた先にいた声の主は、袖の青いジャージを着た赤髪で背の高い綺麗な人。


「えっと、理科室に、」
「あぁ、迷っちゃったんだ。おいで」


ふわりと微笑んで歩き出す、北川第一と書かれた背中を追いかける。目的地へ辿り着くまでの間、その先輩は俺に色々話しかけてくれた。1年?学校どう?とかそんな他愛もない話。


「着いた」
「あ、ありがとうございます」
「いいえ。この後ひとりで帰れる?」
「はい、大丈夫です」
「ん、気を付けてね」


また柔らかく笑って先輩は背を向けて歩いていった。優しくて綺麗な人だったな、と少しドキドキしながら理科室の扉を開けて、適当なところへ実験器具を置く。
時計に目をやりながら、もうきっと部活始まっちゃってるよなぁ。と肩を落として、それでもさっきの人との出会いに心は少しぽかぽかとしていた。

そのおかげかいつもより軽い足取りで廊下を歩く。一先ず職員室に理科室の鍵を返しに行って、頼まれた先生に目とジェスチャーでお礼を言われ、会議中の何とも言えない空気感の気まずさにさっさと扉を閉めて体育館へ向かう。体育館は大丈夫なんだよ。場所わかる。入学式とか授業とかで何回か行ったことあるから。


体育館に近付くと聞こえるボールの弾む音、シューズのスキール音。わくわくして体温が上がるのを感じた。


ゆっくりと扉を開けて中を覗くと、目に飛び込んで来たのは先程の赤髪の先輩。セッターが上げたトスを打ち抜くその瞬間だった。「宙を舞う」っていう表現があるけど、まさにそれだと思った。そのあまりの美しさに見惚れて息を呑んだ。


「あ、さっきの」


入口で固まってしまった俺に気付いて、ばちりと目が合う。嬉しそうにこちらに駆け寄ってきた赤髪の先輩に緊張する。


「バレー部入りたいの?」
「はい!」
「そっかそっか。俺、苗字名前。よろしくね」
「えっと、影山飛雄です!よろしくお願いします!」


何故か顔に熱が集まって、その意味はよくわからなくて、でもきっとここでこれからバレーをするんだってわくわくしてるからだって自分を納得させて。うん、きっとそうだ。きっと。

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