こえをわすれるときが
おめでとう、と言った、そんな何気ないどうでもいいような声が世界で一番欲しいものだったなんてそんなはずはないと思っていた。
五月だというのに妙に冷える夜空の下で、薄着をしてきた自分を恨みながら群青色を見上げる。あの日と違って空は澄みきって、きらきらと星のひかりが冴える。
19歳。
あの日から時間が止まればいいと願い続けているはずなのに、犬飼澄晴はまたひとつ年を取ってしまった。
「『おめでとう』」
あの日の声を辿るように、このうえなくむなしい言葉が夜空に溶けていく。
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