「なんや具合でも悪いんか」
「……や、ちょっと人に酔って」
社会人二年目にもなって電車で人酔い。顔も上げられずベンチで俯いていると、声の主の足音は遠ざかった。気にしなくていいのに、とそのまま動けずにいるとまた先程の足音が近づく。
「冷たい水、飲めます?」
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視界に入ったペットボトルの水を受け取り、ようやく顔を上げて顔を見る。学生らしき男の子で、私も二年前までは着ていた既に懐かしくも感じる赤色のジャージ。色素の薄い髪に髪の先だけ少し黒色が入っている落ち着いた印象の子。
「あ、ありがとう」
お言葉に甘えて冷えたペットボトルの水を口にすると、少しだけ胃がすっきりしたような気がした。