きみと夏祭り

角名
約束の時間ギリギリになってしまい、慣れない下駄を履きながら小走りで駆け寄る。「ごめん、おまたせ」「大丈夫、まだ時間前じゃん」無言で彼の視線が上下し、まじまじと見られているようでなんだか恥ずかしい。でもその割に何も言ってくれなくて、彼の言葉を待てば「……写真撮ろうよ」と一言。何か言ってくれてもいいじゃんと少しの不満を抱えながらも倫太郎の方へと引き寄せられる。「みんなに送るなら可愛く撮ってよね」そう言って倫太郎へ寄りかかった瞬間にカメラの音。「え?こんな可愛い姿、俺が独り占めするに決まってるじゃん」なんて不意打ちで笑うものだから、ぎゅっと心臓が掴まれる。


研磨
「じゃ、行こうか」そう言って差し出された研磨の手に、自分の手を乗せ絡める。じっとりとしたこの暑さと人混みだから、てっきり断られるだろうと思っていた。「それにしてもよく出て来てくれる気になったね」「そりゃこんな暑い中、出来れば涼しい部屋でゲームしてたいよ。でも夏の思い出もまた一興かと思って」「研磨がそんなこと言うなんて珍しい」「だって今日浴衣で来るって言ったでしょ」「……?それがどうかしたの」「だって――」「……ばか!」わざと私の耳元に顔を寄せ、伝えられたその言葉。まだ始まったばかりだというのに、帰宅後のことを考えてしまいじわりと顔に熱が集まった。
『だって、浴衣は脱がすまでがセットでしょ?』



「あ、りんご飴といちご飴食べたい」「買いに行こか」治はりんご飴、私はいちご飴と冷やして食べる用にりんご飴を買った。すぐ近くの店沿いに置かれているベンチへと腰をおろし、飴を口にする。「いちご飴可愛くて美味しいなんて優秀すぎる……!」「ほんまやな、俺やったら一口で食べてしまいそうやけど」「あっはは、治はそうかもね」じっと私の顔を見つめる治。これはもしや……。「いちご飴、食べたい?」「……おん、味見させて」「す、少しだけだよ!」「じゃあ遠慮なく」いちご飴を差し出した手首を掴み引き寄せられ、ついばむように重なる唇。「ほんまに美味しいわ」そう言ってにたりと笑う彼を見て、時間差で顔に熱が集まった。



「チョコバナナ……」「子供っぽ……いや、ええんちゃう?」今絶対子供っぽいって言おうとしたでしょと言えば、そんなわけないやろと言い返される。「ふーん、じゃ、買ってくる」チョコスプレーが散らばっているカラフルなチョコバナナにテンションが上がる。カットされているのもあるんだ……これなら最後まで落とす心配はなささそうだ。お目当てのものを一つ買って侑の元へと戻る。「おまたせ」「おん……って、そこは切られてない方のチョコバナナやろ!」帰るなり形について文句を言われ、何様だ!と思ったけれど、一呼吸おいてその意味を理解した。「……侑、変態」「んな……ちょっとしたロマンやろ!」なんて、図星を突かれたようで慌てる侑に思わず笑ってしまった。


及川
「徹見て。お面だ、懐かしいね」「ほんとだー、まだ売ってるんだ」ぷらりと屋台を見て回っていると、ふと目についたお面屋さん。小さい頃はよく欲しいって我儘を言っていたのを思い出す。「なんかお祭りテンションで買いたくなっちゃうね」「ふっ、買っちゃおっか」私はウサギ、徹はネコのキャラクターのお面を買い、道の端へ寄り頭に付けた。「ふふっ、なんか子供に戻ったみたい。可愛いね」「その言葉、そのままそっくり君に返すよ」「ノリで買ったけど、全然使い道ないよね」「……使い方教えてあげようか?」徹はお面を頭から外して、顔の横に添えると同時に詰められる距離。「……っ!と、る……」「ふっ、これは大人の使い方です」触れた唇が熱くて、思わず自分のお面で顔を隠した。


黒尾
慣れない下駄を履いたからだろう、鼻緒が擦れて足の指が痛い。でもあと三十分もすれば花火の時間だからもう少しの我慢だ。「なぁ」「ん?」「背中乗って、おんぶするから」「えっ!?」突然鉄朗が私の前にしゃがんだと思ったら、まさかのおんぶ。こんな人混みでなんて恥ずかしすぎる。そう思って躊躇していると「おんぶが嫌ならお姫様抱っこでもしましょうか?」したり顔の彼に適う筈もなく、訳も分からないまま彼の背中に身体を預けた。「ねぇ、なんで急におんぶ?」「……お前、さっきから足痛そうにしてただろ」「……!気づいてたの?」「まぁな。見たところベンチもないし、外でも密着できるなんて役得だろ?」気を遣わせないように笑ってくれる鉄朗の優しさがじんわりと胸に沁みて、言葉のかわりにぎゅうと後ろから抱きしめた。


灰羽
少し早めに会場に着いたから、花火を見るにはいい位置取りができた。「ドキドキするな!」「もう少しだね」そんなことを話しているうちに音楽が流れる。ヒュルル、と音がしたと思った次の瞬間、大きな花火が夜空に咲き一気に会場は盛り上がる。そこから立て続けに花火が上がってみんなが夢中になった。「リエーフすごいね、大きかったよ最初の一発目」「見た見た!この沢山上がってる小さいのも可愛いな」「うん、私もこれ好き」なんて花火を眺めていれば、何故か視線が突き刺さる。「……どうしたの」「花火もキレイだけどきみの方が可愛いから見てただけ」「……!」こんな歯の浮くようなセリフでも、リエーフが言うと様になる。「もしかして照れてる?」そうにやにやと揶揄う彼のみぞおちにパンチをし、顔の赤みを誤魔化すように顔を背けた。


菅原
「すごかったなー花火」「うん、屋台も沢山見れたし楽しかった!」「ははっ、あれは食いすぎだべ」「そうかなぁ……」からんころんと下駄を鳴らし、手を絡めて会場を後にした。ひとつの楽しみが終わってしまい、少し寂しくもあるけれど今はその余韻に浸る。「来年もまた一緒に来れるといいね」「そうだなー、来年と言わずその先もずっと」「……へへ、嬉しい」「いつか俺たちの子供も一緒に来れたら……なんて」「そ、それって……」その言葉に含まれた意味を読み取り、彼を見上げれば茶化すような感じではなくて。「その……本番はもう少しちゃんとさせて。でもそう思ってるのは嘘じゃないから」目を細めて優しく笑う彼に髪を梳くように撫でられ、じわりと顔に熱が集まった。