気付くのが遅すぎた


「な‥んで、そんなこというの、」





おれがこんなにも必死になる日がくるなんて思いもしなかった。彼女に依存していたなんて、考えたこともなかった。
おれの問いかけも虚しく人通りの少ない廊下に響き渡るだけで、問いかけた本人から返事はなかった。




事の発端は数分前。




仕事中からなんだか##name_1##の様子がおかしかった。いつもの自分を取り繕っているような、そんな感じ。
仕事が終わったと同時に、ちょっといい?なんて遠慮がちに言われ、不思議に思って着いてきた。人通りの少ない、且つ死角になるところ。
くるりとこちらを向いた##name_1##は、いつもの無邪気な笑顔でも、ふざけているような表情でもなく、切羽詰まっているように見えた。



いつもの##name_1##じゃない。なにか、あるんだと手の平にじんわりと汗が滲む。







「ねぇ、研磨、私たち別れ‥よ」






ドキン、と心臓が大きく脈打ったのがわかった。
一瞬、自分の中のトキが止まったような気さえして。
あまつさえ、世界に二人きりしかいないような感覚に陥った。

いつものように、頭の回転が追い付かない。






「なに、それ‥。‥なんて、冗談‥?」






一気に水分を持っていかれて、カラカラになった口からやっとの事で紡がれたのはそんな言葉。信じられなかった、否、信じたくなかった。彼女の口からそんな言葉が発せられたとおいう事実を。

しかし、彼女は更に表情をカタクしてゆっくり首を左右に振った。それはさっきの言葉を否定するものであり、冗談ではないということを指し示している。





「な‥んで、そんなこというの、」





そして、今に至る。





「ねぇ##name_1##、嘘だって、いつもみたいに笑ってよ」

「‥」

「冗談だって、言ってよ‥」

「‥」




おれは##name_1##のその小さな肩を両手で掴む。
しかし##name_1##から一向に返事が返ってくる様子はなく、それどころか目も合わせようとしない。





「‥理由くらいは、聞く権利‥あるよね?」

「‥になったから」

「‥え?」

「研磨のこと、嫌いになったから、」





鈍器で殴られたような衝撃がおれを襲う。
視界が揺らいで、上手く言葉を発することができない。

泣いていると自覚するまで、そう時間はかからなかった。

何故か、嫌いと言った##name_1##の顔が辛そうに見えた。





「‥そういう、ことだからっ」





彼女はそう一言言い残すと、踵を返して走って行ってしまった。
コツコツと、ヒールの音だけが誰も居ない廊下へ響いた。

淡い期待をしていたんだ。
最後にはきっと、冗談だよ、ごめんねって言ってくれることを。

でも彼女はそんなことを言わず行ってしまった。

俺は顔をあげることすらできなくて、その場に立ち尽くした。



皮肉にも、こうなってから彼女の存在の大きさに気づかされた。
##name_1##が隣にいるのは当たり前で。おれから離れるなんて、想像したことなんかない。


いつも支えられていたこと、彼女の笑顔で安心していたこと。
##name_1##がいたから嫌な仕事も頑張れたこと。


頬を伝った涙が床に落ちた。


彼女の辛そうな顔が、脳裏にこびりついて離れなかった。







(もう、どうにもならない)