危機感はないわけ?

「お前には危機感ってものがないわけ?」
「恋だけには言われたくないんだけど!」

#brmyプラス

『すみません』
「え、あ、私ですか」

仕事の帰り、住宅街の脇道に入ったところで声をかけられて。なんだか怪しいと距離をとったが「これ落としましたか?」と口にしたため、それを確認するため疑うことなく近づいてしまった。

「──違いますね」
「そうでしたか、ではこれは交番にでも届けておきます」
「はい。では……っ」

振り返りざまに手首を掴まれ、思わぬことに身を捩る。しかし相手は男、敵うはずもなくそのまま引き寄せられた。
これを狙っていたんだとわかっても、今更遅い。口角を上げる男の表情にゾッとした。

「……やだっ、」
「大人しく……ってぇ」

抵抗したその瞬間、掴まれていたはずの手が解放された。それと同時に、男性の呻き声が聞こえてくる。
顔を上げればその人の腕を捻り上げてる樋宮さんがいて。見知った顔で安心からか視界が滲んだ。

「おじさん、乱暴はあかんよなあ。どうしよ? このまま警察呼ぶ?」

私に視線を向けそう口にする樋宮さんに、私は首を横に振った。これで逆みされる方が怖い。

「じゃあ身分証と名刺、出してもらおか」

にっこりとそう口にした彼から逃げられるわけもなく、目の前の男は僅かに震える手つきで鞄から身分証と名刺を取り出し樋宮さんへと渡した。
慣れた手つきでそれを写真に収め「さっきのことは動画にも撮っとるし、次はないと思うてな」と解放すれば慌ててこの場から去っていき、ようやく肩の力が抜けた。

「……で、大丈夫なん? なんもされとらん?」




彼は呆れたようにそう口にしたが、付き合い始めた当初聞いた話を私は忘れていない。危機感がないというならそっちも同じことだと思うけど。
対して私は不可抗力。確かにあのとき樋宮さんが通りかからなければセクハラくらいはされていたのかもしれないけれど、ただの善意だと思っていたのだから仕方ないと思っている。

「だからって、見えないところに虫ついてるなんて言われて取らせる? 女性ならまだしも」
「虫だよ虫! そんなの取ってってなるじゃん」