どういうこと?5

「添、やっぱり戻ってたのか!」
「騒々しいなーと思って下りてきてみれば……」

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彼はだるそうに頭を掻きながら奥から出てきて「なんとなく状況は把握しましたけど」なんて呟いた。……気のせいかもしれないけれど、久しぶりに見た彼の隈は一層濃く見えた。寝ているところを邪魔してしまっただろうか。

「ほら、仲直りしないといけないと思って連れて来た!」

いいことをしたと思っている子供のように、西園さんは彼に向かってそう口にする。なんかセレブのセの字も見当たらなくて……本当に純粋な人なのかもしれない。

「あーありがとうございまーす。でも彼女、練牙さんみたいな有名人に腕掴まれてびっくりしてるんで一旦離してもらえます?」
「あ、わ、悪い……痛かったか?」
「いえ全然、大丈夫なので気にしないでください」

西園さんはそう指摘され、しょんぼりとしながら慌てて手を離してくれた。自由になったものの、もうこの場から逃げることはできない。

「添くんこの服、今彼女さんから預かって……」
「ありがとうございます主任。……練牙さーん、オレ練牙さんの言う通り仲直りしないとなんで、この服部屋に置いてもらってもいいです?」
「そ、そうか! これは任せとけ」
「ありがとうございまーす。じゃ、行きますか」
「え、いや、このままひとりで帰……」
「いーから」
「……す、すみません、失礼します」

ようやく解放されたと思ったのに。今度は添くんに腕を引かれながら、慌てて西園さんと浜咲さんにお辞儀をしてその場を後にした。

「……なんか、今まで会った添くんの彼女とは雰囲気が違ったね」
「そうだったか? まあ、ギラギラした感じではなかった気がするな」
「うん。だから、この場所を知られても大丈夫そうだなって少し安心した」

…

さっきの場所を離れてから一言も話していなくて、すごく気まずい。無表情の彼からは何の感情も見て取れなくて。とりあえず自分の意志で職場に乗り込んだわけではないことを弁解しようと、思い切って口を開いた。

「……あの、会いたいってお願いしたわけじゃなくて」
「どうせあの犬が思いこみで連れて来たんでしょ」

どきりとした。冷めた口調の彼は久しぶりで、思わず息をのむ。
……犬、とは。あの流れから察するに西園さんのことなのだろうけど。なんとなく肯定するのも憚られ、答えないまま彼についていく。

「どこ、行くの」
「お前の家。それともホテルかひとけのないとこにしましょーか」

自分の家も遠慮したいところだけど、その他の二択がホテルか人のいないところとなれば私の命が安全なのは……。

「……いえ、私のうちでいいです」

選択肢なんかあってないようなものだ。
家に着くまで軽い方の添くんに戻ってくれないかな、なんて彼の横顔を見つめながら。自宅までの間、大人しく腕を引かれて歩いた。

「……どうぞ」
「おじゃましまーす」

ここには一度しか来ていないはずなのに、何度も来ているかのように我が物顔で部屋に入っていく。すごい図々しいじゃんなんて思うも、先ほどの冷ややかな表情を思い出すと口にすることができない。
何も言わずに突っ立っていると、不意に腕を引かれベッドへと放り投げられた。

「うわっ」

ベッドへと沈む私は呆気にとられたまま無言で見下ろす彼に視線を向けた。相も変わらず温度のない表情からは何を考えているのか読み取れない。
肘を立てて上半身を軽く起こすと、彼はギシ、とベッドへ膝を乗せ「もっとそっち」と呟いた。言われた通り壁側に寄れば、彼はごろりと空いたスペースへと横になる。

「……てん、くん?」
「うるさ」
「ちょっ、」
「黙って」

黙れと言われても。彼は何の説明もせずに私を抱きかかえるように腕へと閉じ込めた。こんなに密着したのは初めてで、心臓がいつもよりせわしなく動いている。
抱き枕のような状態で一体どうしたら。しかしこれ以上何かを聞いても暴言しか飛んで来ないような気がするし、大人しくした方がいいのかもしれない。
だんまりしていると、何気ない換気扇の音や街の喧騒がいつもよりも耳に届く。
間もなくして寝息のようなものが聞こえてきて。寝たのだろうかと彼の頬を軽く摘まむと後頭部を引っぱたかれた。
「ごめんなさい」と呟くも何も返ってこなくて、またすぐに小さな息遣いが部屋に溶け込んだ。