着替えを返しに行こう4

すぐに会えるでしょ、なんて言ってから二週間。あれから全く音沙汰がなかった。

普通とは言えない付き合い方をしてから、一日〜三日に一度の頻度で会っていたので何かあったのではとほんの少しだけ心配になる。でも噂に聞く彼はろくでもない男みたいだったからこのままフェードアウトという線もあるのかもしれない。

「既読は、なしか」

『服、返したいんだけど』とPeChatで送るも既読がつかない。事実上このまま別れても問題ないけれど、この服だけは捨てるわけにはいかないし返しておきたい。……どうしたものか。

「あ、大学なら」

流石に返信はしなくとも大学には行っているだろう。大体の帰宅時間は予測できるしと、とりあえず行ってみることにした。

「うわあ……なんか通ってたのがずっと前に感じる」

今自分の見える範囲で歩いている人の中に添くんは見当たらない。簡単に会えるとは思っていなかったし、少し待ってみよう。
そう思ってベンチに座ってスマホをいじっていると目の前をテレビでよく見る人が通り過ぎた。

「……あ、3区長の練牙だ」
「っ、なに!? や、やっぱりオーラは隠しきれないのか……」

つい口に出て、失言、と思ったが時すでに遅し。本人の耳に届いてしまっていた。……でも丁度いい、同じ区長でここにいるということは仲がいいのだろう。着替えを渡してもらえればそれで済む。どこか寂しい気もするけれど、私はそのまま「あの、」と続けた。

「呼び捨てにしてしまってごめんなさい。西園さんは添くんと会うことがありますか? 渡してもらいたいものと伝言があって」
「な、なんだ添の友達か! ……いや彼女か?」
「一応、彼女らしいですけど」
「そうか! ……でもそれなら自分で渡せばいいんじゃないか?」

ごもっともなその言葉が、小さく胸に刺さる。
世間一般でいう普通の恋人ではないし、ただそれを今説明していいのかもわからない。言い淀んでいると彼は「そうか!」と笑みを浮かべた。

「喧嘩したのか!? それなら俺が上手くちゅーかん、してやるからな!」
「……仲裁のこと?」
「そ、そうだ! 俺も近くに来たから大学に寄ったけど、添の友達に聞いたらもう帰ったみたいだ。だからついて来てくれ」

なんだか可愛い、いつぞや話題になったのは彼のこういう面のことだったのだろう。……ではなく、勝手に話が進んでしまって断るタイミングを失ってしまった。意気揚々と進む西園さんの隣をできるだけ目立たないように歩いた。

…

私の意見を挟む暇もなく、あっという間に大きな建物の前に着いてしまった。……ここ、どこ。

「あ、おかえり練牙くん。……って、隣の方は?」
「主任、この人は添の彼女だ! 喧嘩してるらしくて、俺がちゅーさいしてあげようと思って」
「えっ」
「……すみません、行きずりでこうなってしまって」
「あ、いえ。主任の浜咲です」

主任と呼ばれるこの人は笑顔のままだけど、彼女と聞いた時の反応はあまりよくなくて。もしかしたらここは区長たちの職場か何かなのかもしれない。
そんなところに押しかける彼女だなんて、ろくな人間にうつらないだろうと思うと恥ずかしくなる。今すぐにでも帰りたい。

「あの、添くんとなかなか連絡が取れなくて」
「あ一確かに最近忙しそうにしてるよな」
「まあ……そうだね」
「いえ、元気ならいいんです。会いたいとかではなく、この服だけ返してもらえたら」
「え、それだけですか?」
「それだけ……とは? あ、あと着て行った服は処分しても大丈夫とも伝えてください」
「あ……はい、確かに承りました」

浜咲さんと名乗るその人は、少し驚いたような表情で持ってきた服を受け取ってくれた。特別おかしなことは言っていないと思うけれど。

「じゃあ、」とおじぎをすれば、西園さんが「待ってくれ」と私の腕を掴んだ。

「でもそれじゃ仲直りできないだろ!?」
「や、連絡取れないだけでそんなんじゃ……」

もう他に誰も来ないうちにフェードアウトさせてほしい。そう思っていると「何してるんです?」と聞き覚えのある声が上から降ってきた。