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"本当にありがとうございましたー!"

作り込まれたステージ、演出。ここにいる誰もが待ち望んだものの、想像以上だったんだと思う。会場の熱量がそれを物語る。


OM「岩ちゃん、挨拶行くって」

GN「あ、はい」


関係者席を見渡すと、残っているのは三代目のメンバーだけになっていた。まだぼーっとしていた俺に声を掛けてくれた臣さんと出口に向かう。

既に会場は次の日の準備が始まっていて、スタッフさんたちが慌ただしく動き回っていた。


EL「あれ?直人さんは?」

KR「控え室の様子見に行くって。今行ったら人多そうやしな」

GN「関係者席、埋まってましたね」

OM「そりゃー、菜子だし」



菜子のアンコールで歌ったバラードを静かに口ずさむ臣さんも、まだ余韻に浸っているようで。

LDHに所属している菜子は、つい半年前までイギリスで活動していたアーティスト。イギリスに行く前は日本でも女優として活躍していたし、EXILEさんのツアーにもバックダンサーとして出演していた実力がある。
イギリスで人気のエミリーと組んだワールドツアーはどれもSOULD OUT。

菜子がファンの前にライブで出るのは初めてだった。東名阪で2日ずつ行われるツアーはどれもやはりSOLD OUT。初日の今日は関係者席に多くの人が訪れていた。大物俳優さんなんかも来ていて、様々な年齢層で埋め尽くされていた。
悔しい事実だけれど、俺たちより人気があるのではと言われているだけある。


GN「臣さんと隆二さんは、直人さんたちと菜子のライブ観に行ったんですよね?」

RY「うん!めっちゃすごかった。今日のライブ見たらまたいいもん見せてもらえた感じする」



興奮気味の隆二さんと、横で頷く臣さん。
あの頃は2人がスランプでどうにもならなかった時、HIROさんが2人を菜子のワールドツアーに連れていった。
帰ってきた2人はスランプなんてなかったかのように歌っていて、その後のレコーディングは過去最高だ、と絶賛されていた。
2人をそこまで変えたライブは、どんなものだったんだろう。今日のライブが良かっただけに、そちらも気になってしまう。


_____あ、岩田さん!はじめまして
_____初めまして、菜子さん、ですよね
_____はい!エリーからここにいるって聞いて!同い年ですよね?仲良くしてくださいね
_____いやいや、こっちこそ!大人気じゃないですか!
_____あー…そう、ですね、有難いことに


謙遜ではない。伏せられた瞳にどきりと胸が音をたてた。その後変な空気が流れそうになったところにエリーが来て、何もなかったかのように振舞っていた彼女。岩ちゃんって呼んでいいの?と言う声は、もういつもの山田菜子だった。



しばらくして控え室に行っていた直人さんが戻ってきたけれど、浮かない顔をしていた。


NT「事務所外の招待した人の対応とメディアの対応で手一杯らしくて。俺らまで行ったらあいつの休む時間なくなるから、事務所の人間は遠慮してくれって」


まぁ俺たちは事務所で会えるしその時にね。
直人さんはそう言うけれども、みんなのテンションは落ち着かないまま。健二郎さんは早速メッセージを送っているらしく、俺たちもそれに倣った。

全然解散しない俺たちに声を掛けてくれたのはEXILEのメンバーの皆さんで、この後飲みにでも行くか、ということになった。こんな機会でもないと行けないし、この機会にずっと燻っていたことを聞けるかもしれない。

ついて行こうとすると、輪の中から抜け出す直人さんの姿。側にいた直己さんに聞くと、事務所に寄ってから参加するらしい。

特に何も不自然ではない。でも菜子のライブの後だから、直人さんが菜子を気にかけているのを知っていたから。

気づいたら直人さんの後を追いかけて、一緒のタクシーに乗り込んでいた。


GN「直人さん!俺も乗ってっていいですか?」

NT「あれ、岩ちゃんも事務所?」

GN「あー、はい。ちょっと取りに行くものあって」

NT「ふうん」


直人さんはそれ以上何も言わず、タクシーの車内に訪れる沈黙。俺は直人さんに聞いてどうするんだろう。ぼんやり考えながら今日のライブを思い出す。

かっこよかった。菜子のライブ。
エミリーとのライブだけでなく、海外で人気アーティストのバックダンサーをしていたこともあって、華やかなステージ。そこに菜子がいるのが、相応しいと思わざるを得ない。


_____山田さんの噂、聞いた?
_____え〜?なになに?
_____元々は三代目のパフォーマンス候補だったって。しかも、ヒロさんが推してたらしいよ


何日か前、事務所で新しいスタッフが話していたこと。やけに耳につく内容で、素通りができないでいた。


_____ほら、あの週刊誌で…
_____急いで新しいメンバー探すの大変だっただろうね


事務所に着くと、当然用事のない俺は行く場所もない。なんとなく直人さんに着いていくと、会議室にたどり着いた。


NT「で、俺のストーカーしたいの?」


お断りですけど、と言いながらも直人さんは会議室の椅子に座り、俺も横に座る。聞くなら、今しかない。


GN「直人さん、俺聞きたいことがあるんです」

NT「うん」

GN「菜子は…」


息が苦しい。
ずっとそうだ。菜子を見ると、息ができなくなる。


「3代目に本当は菜子がいたって、本当なんですか?」


ねえ菜子、本当のことを教えて欲しいんだ


____岩ちゃん、ダンスのオーディション受けて見る気、ない?
____受けてみたいけど、何かあるの?
____急いでメンバー探さなきゃいけないみたいでさ、良い奴いないかって言われたんだ



「岩ちゃんが聞きたいのは、そっちじゃないっしょ」

「どういう、」

「菜子の代わりが俺ですか?って、ことだろ?」


俺は、君の代わりに選ばれたメンバーなのか、
だからあの時、あんなに苦しそうな顔をしたの?


それなら、俺は________