からっぽ


今日も学校のどこかで先生が「天馬!神代!」と大きな声で怒鳴っているのを聞いていた。次はなにをやらかしたんだ?と呆れながらも緋透は次のショーの台詞を頭に入れるために黙読していた。今回はなにで怒られたんだろう、後で2人に聞いてみればいいか、また先生が自分の所に止めてくれと頼みにくるとは思うが彼がたのしいと思うことを止めることはない。
「今日はここで台本を読んでたのかい?」
「あ、おつかれー」
ひょこりと現れた類と目を合わせる。この様子だと先生から逃げ切れたんだと察することができた。何も言わずに隣に座る。緋透の台本を見ると類はボソリと「さすがだね」と呟いた。
そこに書かれてたのはびっちりと緋透が書いたメモと付箋が付いていた。一つ一つのセリフに事細かに気をつける点やどう言った表現を細かく書かれていた。
「そう?普通だと思うけど…役になりきるためならこのぐらい当たり前じゃない?」
「その役にのめり込みすぎてこの前自分を見失ったのは気をつけて欲しいかな」
そう困ったように笑う類に苦笑いしながら台本で顔を隠す緋透。
役にのめり込みすぎてその役がいかにも自分かのように振る舞うことがたまにある、その度に類が気付き元に戻してくれるのだが、それも最近は頻繁に起きていた。空っぽな自分がその形にハマり戻れなくなる。緋透もそれは危ないとわかっているがなかなか自分でも制御できないことが今の悩みの一つでもある。
「この事は司くん達はまだ知られてないけど頻繁になるんだったら流石の僕でも隠し切れないからね」
「わかってるけど…うまく制御?できないんだよなぁ…」
どうしたものかと悩むそぶりをするが今のところちゃんとした解決策が見つかってはいなかった。幸いな事なのか、その事に関しては類以外知る人はいなかった。ただそれは緋透が絶対に隠したい事だ、類以外の人にはあまり知られたくないのも類自身もわかっておりなんとかごまかす事はしていた。
気をつける努力はしているし、類も異変を感じたらすかさずフォローはしてくれるがそれは根本的な解決ではないのはわかっている。
「まあ、わかるんだけど…うまくはいかないんだよな…空っぽなんだからそれを埋めたら完成しちゃうって」
そんな事はない、と口に出して言いたかったがそれは単なる気休めだ。その言葉は逆に彼女を傷つけるのも知っている。だから答えが見つからない正解を未だに探しているのだ。
パタリと台本を閉じる。今頭に台詞を入れるのは得策とはないと思い台本をしまう。
「けどさ、空っぽでも類が一緒に探してくれるならいいかなって」
その言葉は本音だ。それに気づいた類は少し照れ臭そうにそっぽを向く。
「類が諦めてくれなかったから俺はまだ舞台に立ち上がれたからそこは感謝してるよ」
「僕は緋透くんの演技が好きだからね、だからここで終わらせるのは嫌だって言う僕のわがままでもあるんだ」
「そのわがままを貫いたから今ここにいるんだろ?」
「さて、そろそろ行こう?」と緋透はこの場から離れるように歩くと類もそれを後を追うようについていった。

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