炎の痛み


炎は苦手だ。全てを飲み込んで灰に変えて残ることなんてないから。一瞬で何もかも無くなったから今でも苦手だ。昔よりまだマシになったけどそれでも近くで見るのはまだ抵抗がある。
中学の頃なんて見るだけで死にたくなるしカッターを持つ手が震えてうまく自傷なんてできなかったぐらいだ。いやだ、怖い、だから切って落ち着きたいのにうまく切れないと嘆いていた。
「ちょっとだけ火の番していてくれ、焦げない様に見ていろよ」
蓮に頼まれた火の番。カレーを作る途中で蓮は用事があったかの様にその場から離れる。あとはじっくりと煮込んだら終わり、アリアはそんな彼が作ったカレーを焦がさない様におたまでゆっくりとかき混ぜていた。
グツグツと煮込まれてる鍋の下で揺らめく炎、強くもないし弱くもない火力でゆらめいている。青く燃えるそれは過去の赤く燃えた炎ではない、そんなのはわかっているがそれでも少し苦手だ。汗が頬を伝いこぼれ落ちる。きゅうと心臓が縮む感触が気持ち悪い。
掻き回す手はいつのまにか止まりアリアは右手を伸ばす。その先はまだ燃えて鍋を温めて煮込む炎に向かっていた。次の衝撃はわかってるはずなのに、後悔するのは目に見えてるのにそれでも、自分の意思に反して動くあと少し、触れるまで刹那。
中指がジュッと焼ける音と同時に駆け巡る激痛。熱い、痛い、痛すぎてすぐ離れたい、けど離れたくない、だってこの痛みを全身で受けて何もできずに死んでしまったあの子は一体どれだけの激痛に耐えて死んだんだろう。兄である僕も同じ痛みを解りたい、だからそのまま手を差し出そうとした。
「アリアッ!!」
後ろから聞こえてくる名前を呼んでくる声。アリアが理解する前に手首を強く握られ引っ張られ、流し台に連れて行かれか水浸しになるぐらい蛇口から水を出す。その中にアリアが火傷している場所を冷やす。
アリアもやっと理解する。自分が炎に手を突っ込んでるのを驚き急いで手当てしたことを、蓮と目が合い怒ってる顔と本気で心配してる顔でこちらを見ていた。
言葉を交わすことはない。静寂の中カレーが煮込む音と蛇口から勢いよく出てる水の音しか聞こえなかった。
「言い訳は後で聞く、火傷したところまだ水につけてろ、氷持ってくるから」
「ぁ……うん…」
凄い怒ってる事しかわからなかった。言い訳は聞いてくれるんだ、とアリアはどんな言い訳をしようかと考えはじめた。
今更となって焼けた指は痛みが走る。これ、手首の痛みより最悪じゃん。もう二度とやるもんかと強く決心してると蓮はコンロを止め、アリアにビニール袋に入った氷水を渡した。それを素直に受け取り火傷した所に当てる。
「ごめんね、二度としないから……多分」
「アリアのそれは信用できない」
だよねーとあはは、と乾いた声で笑うしかない。これ以外にも前科はあるからだ。やれやれと呆れながらもそれでも心配してくれる蓮を見てると少しだけ嬉しくなる。こんなに僕を思ってくれる人がいて幸せだなぁ…心配はさせたくない、だけどそれでも止まらない自分に嫌悪し手首が疼いた。
なんでこんな事をしたのか蓮は問うがアリアは頑なに答えは出さなかった。わからないからではなく、これ以上彼に迷惑をかけたくなかったからだ。
火傷の手当てが終わり指にはガーゼが貼られていた。右手だから何日かは動きにくいと言われたが両利きだからあまり問題ないと答えたら呆れてため息をつかれた。
「火傷はもういいかなぁ…」
ピリピリとするがこの痛みも数日経てばなくなる。後に残っちゃうかな、まあ、それでもいいけどと自分の体の事なんて他人事のようになる。
「それで、なんで手を出したんだ?」
「えーまだ聞くの…まあ、強いて言えば…知りたかったのかな」
と悲しそうな顔してアリアは笑った。知りたい?何を?そんな事を知って何になる?蓮はそれを聞いてわからなかったが、アリアがそっぽを向いてぽそりと無意識に口を動かした。
「あの子も逃げられずに燃えてしまったんだ…そんな痛みはこれ以上の苦痛だったんだね…」
ぽそりと呟かれた言葉に息が詰まった。こいつはそう言うことか、蓮はどう答えていいかわからずアリアの方を見つめているとそれに気づいた彼は目を合わせるにこりと笑った。

- 3 -
←前 次→