苗木
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「苗木」
いや見ればわかるだろ、みたいな顔で彼は緋透の方を見た。緋透のマイルームに置かれた小さな植木鉢に目を引く青い小さな苗木。机にちょこんと置かれたそれを心底意味がわからない顔で見ていた。
青い苗木。本来葉というものは緑が一般的だ。空のように、海のように、それは青かった。緋透は物珍しいようにツンツンと葉をいじるように触っていた。
「それでお前はなんの様で俺の部屋に来た?」
「別に、深い意味はないしただの気まぐれ」
ドガッと大きな音を立てながら緋透のベッドに遠慮なく横たわる。誰の部屋だと思ってるんだと呆れつつも彼のことを好き勝手にさせてるからつけあがるんだろうなぁ…と思いつつ好きにさせてた。
「それで、それってなんの意味があるの?」
苗木のことを聞く。どうせ暇だからとりあえず聞いて暇つぶしにはなるだろうと軽い考えで緋透に問う。彼女もうーんとどうやって説明しようかと悩みながら「見て貰えばわかりやすいかなぁ…」と答える。
何をするのだろうとじっと見つめていると緋透は鉢植えを両手で包み込む様に触れる。小さな鉢植えは緋透の両手で簡単に覆いかぶさる。目を閉じ、ふぅと息を吐きながら魔力を送る。
すると苗木はそこから一つの青い林檎ができた。本来の色とは全くの別物。そんな林檎は重力に抵抗することもなくゴトリと机に落ち転がる。
と同時に緋透もドサリと支えがなくなったかの様に倒れる。一瞬何が起きたか察することができなかった彼は倒れるところをただ見ることしかできなかった。
「何してんだよ!」
「実践」
いや、そんな事聞いてるんじゃない。と呆れながらも彼女の元に近づく。めんどくさいのと心配な気持ちでぐちゃぐちゃになる感情を抱えながら緋透を抱え持ち上げる。乱暴でもあり、それでもどこか優しくしてくれる彼に少しだけ嬉しそうにしてると「やめて」という声が聞こえた。
先程彼が占領していたベッドが空き、今は持ち主の緋透が横たわる。フラフラとする緋透を気にせずに早く説明しろと目で訴える。
「うーんようは苗木に魔力を注いで備蓄する?みたいな?で必要な時に使う…とか?」
曖昧な答えで彼女は答える。それを聞いた彼は心底呆れを通り越して苛立ちを覚える。
一人分の魔力は高いが、それはあくまで一人分の話だ。双子で二人で分ければ一人分より少ない彼女がその分を苗木に注いだせいで倒れていい理由にはならない。
「怒ってる?」そう聞く彼女にも嫌気が差す。そう思わせてるのをわかってるなら聞くな、やるなと素直に言えない。その言葉を飲み込み、代わりにため息が吐き出される。
「きみをさ、そんなふうに扱う奴らに心底呆れるよ」
「それでも俺が役に立つならいいんじゃない?」
それは本音だ。心の中では嫌だとか辛いとかそんな感情は一切ない本音。本気でそう思ってるの?許さない、そんなのは俺が許さない。彼の顔はさらに不機嫌になる。
きょとんと彼の顔を見てるとそれに気づいた彼は右手で緋透の手を握る。
「ふざけるな、こんなものできみが倒れていいはずがない。きみの終わりは俺の手で終わらせてやるんだから…」
そう言って強く握る。爪が皮膚を抉り痛みがあるがそれでも緋透は離すこともなく握り返した。
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