夢を見た。あまりにも現実味があり、起きているかと錯覚するぐらいのリアリティーに倫理は吐き気がした。夢ならもっと最高な悪夢がいいと期待していたのにこれはないぜ、と一人呟いていた。
だがあまりにも現実味を帯びているのに一つだけ現実とは違う事があった。
目の前で何度もイーターに殺される毬子を何度も見ているからだ。だから倫理はこれは夢だと分かった。分かっていても目の前で無抵抗に殺される毬子をずっと見ていた。否、見ることしかできなかった。
「やめろ」と叫んでも無駄だった。「助けるから」と手を差し伸ばしても無意味だった。だから倫理は見ることしかできなかった。ギリッ、と噛み締めると同時に口の中から鉄の味が広がる。
なんて無力で何も救えないんだと自分を恨む。助けたい相手が目の前にいるのに助けられない。
「うそつき」
どろり、と何かが倫理の前に現れる。ぽたっ、ぽたりと何かが滴る。それを理解するのにほんの数秒後、倫理は理解した。それは、そこにいたのは血塗れの毬子だ。
白い彼女は今では赤く染め上げられ長い前髪から見える虚な瞳は倫理を的確に射抜いていた。
「ひっ…」
恐怖で一歩後ろに下がる。目が離せない。逸らしたいのに毬子の瞳がそれを許してくれなかった。
動けなかった、動くことができずにただ立ちすくんでいた。
「どうせ救えはしないのに。その手で救えた?私すらも救えないくせに」
「違う!ボクは…っ!」
ドン、と押されて落ちる。深い深い底なしかのように。これだけは夢とわかった。
「救えはしないよ誰も…」
そこで視界が暗くなっていた。
「北村くん?」
次に目が覚めたら毬子が目の前に立っていた。きょとんとしている倫理に毬子はクスクスと笑ってた。
「まり…ちゃん?」
「こんな異質な見た目をしている人、私以外にいるかしら?」
少し不満そうに笑う。これは自分が知っている毬子だ。夢ではなかった、これは現実だ。本物だと安心してほっとした。
「そうだね!本物のまりちゃんだね」
「なにそれ、皮肉?」
呆れたように毬子はため息をついた。話をするだけ無駄だと。思い無言で立ち去ろうとした時だった。さっきの夢がフラッシュバックする。無意識に毬子を引き止めていた。
きょとんとする毬子と自分でもなぜ引き止めたのか理解するのに時間がかかった倫理。
数十秒間。はぁ、と深くため息をして引き止めた倫理を振り払った。
「どうしたの?変な北村くん」
「なんでもないよ、まりちゃんごめんね」
「……そう」
そのごめんはなにに対しての謝罪なのか毬子は理解してないが今の事に関してではないのはわかっていた。少し申し訳ないような顔、彼らしくないなと思ったがこれ以上追求をしても意味ないないと「またね」と言い立ち去ろうとした。
「ねえ、まりちゃん。ボクはヒーローだ。まりちゃんが嫌いな色のね」
「それがなに?おかしな北村くん」
「ボクにしか救えない人達を救ってみせるよ」
なにに対しての決意表明なのかはわからないが「それでいいんじゃない?」と呆れたように毬子は立ち去った。
「その中にもまりちゃんは入ってるんだけどね」
とぽつり倫理は呟き毬子と反対方向へと消えるように立ち去った。
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