冬島隊 狙撃手






 私の名前は、苗字名前。烏滸がましくも " 界境防衛機関ボーダー " A級2位部隊である冬島隊の狙撃手を任されている。それだけ聞いたのであれば『 凄い 』と。素敵な感想を抱いて頂けるのかもしれないけれど、私を客観的に評価するのであれば、A級最弱。私はあまりにも実力不足だったのである。謙遜はない。実際にA級部隊の10人に9人の隊員が私のことを「苗字、弱いよなあ」と、答えるであろう。10人に10人と、断言しないのは、誰かしら私をフォローしてくれると信じているからであって、実際にはおおむね100%の隊員が私をそのように評価していることだろう。そんな自他共に最弱を認めている私が何故A級2位と謳われる部隊に所属できたのかというと。それはあまりにも有能な '' 副作用サイドエフェクト '' のお陰であった。その途轍もなく強く、反則級の副作用サイドエフェクト が、現在私の所属している『 冬島隊 』 の冬島さん並びに当真先輩のお眼鏡に叶ったという運びである。今となってはとんでもなく浅はかな決断をしたと後悔する案件がこれであった。もはや滅茶苦茶進行形の黒歴史である。そして入隊わずか数ヶ月目で迎えた歓迎会だったのか、激励だったのか。あまり覚えてはいないけれど、A級部隊との部隊戦が行われ、プライドと共に見事に惨敗したのが私である。実に鮮やかな瞬殺であった。あの日から私は身の丈に合わない部隊所属に大変コンプレックスを抱えている。

 丁度その頃中学3年生だった私は親の都合で引っ越した後に通い始めた中学がこれがまた散々だった。大前提として、三門市は狭くもないが広くもないので、嫌でも同じ学年に私含め、最低でもひとりのボーダー隊員がいた。その人物こそ、『 烏丸京介 』である。今でこそ『 とりお 』なんて愉快な名前で呼んでいるけれど、初対面の時は大変失礼極まりない男であった。その頃の烏丸京介といえば『 玉狛に転属した 』とかで時の人だった筈だ。しかも、この男。とんでもなく顔が広かった。そうして、この辺りの時期に嵐山隊のエースとして華々しく活躍をし始めた木虎藍ちゃんなんて烏丸京介くんが大好きだった筈である。最近は顔を合わせることがあまりにも少ないものだから、どうなっているのかはわからないけれど、そんな凄い人間、烏丸京介は当時中学3年生の幼い私に出水公平を紹介してきた。もうそこからが事件である。毎日毎日、出水先輩に雑魚雑魚言われ続けた私は出水先輩の部隊である太刀川隊に全く勝てる気がしなくなったのである。

 けれど私はこの時点では全く諦めてなどいなかった。なんといっても私には大きな味方、当真先輩と冬島隊長がいたのである。後輩の精神サポートは先輩の務めであると判断した私は当真先輩に相談を持ちかけた。「太刀川隊に勝てる気がしません、A級部隊の全てが怖いです」と。しかし、当真勇はカラカラと愉快そうに「お前はウチのひよっこ隊員だからな」と、笑い飛ばし、私の人生最大の悩み事を笑い飛ばした挙句に会話をバッサリと切り捨て終了させた。今でこそ『 ラーメン同盟 』なんて愉快な同盟を組む仲ではあるがコイツには絶対に相談なんて馬鹿な真似はしないと決意した瞬間でもあった。あれから、当真先輩には未だに重要案件の相談事はしたことがない。それでは、冬島隊長はどうだろう。そう。簡単な話だ。人選ミスだったのである。私はその日まで冬島隊に希望を持っていた。しかし、隊長は私の相談に何度か瞬きをさせると「大丈夫」とお父さんのように優しい手つきで頭を撫でてくれた後に「お前は強くならなくても良いよ」と笑うのだ。当真先輩の後だっただけに『 大丈夫 』という言葉に浮かれた私が悪かったのだろうか。天国まで上げて地獄にぶん投げられたくらいの衝撃があった。以来私は冬島隊をもう味方だと思っていない。同じエンブレムを背負う敵である。間違いない。冬島さんはまだしも、当真先輩に関しては私で幾度となく遊んでくる酷い男なので、もう『 個人的ボーダー関わりたくないランキング 』唯一の殿堂入りを果たす快挙を達成している。

 それからというもの、私は誰かに相談を持ちかける事をやめた。A級とは私みたいな隊員が相談を持ちかけるには些かレベルの高い集団だったに違いない。当時の私はそう考えていたが、いま思えば風間さんや嵐山さんなど頼れる先輩はまだいた。しかし、嵐山さんは私が話しかけて良いような人ではなかった。なんていえばいいのか。世界が違う人間には話しかけられなかった。では、風間さんはどうだろう。検討してみたけれど、風間さんは怖すぎたのだ。風間さん自身も怖いのだけれど、横に常について回る菊地原士郎が途轍もなく怖かった。目が物語っているのだ。『 お前みたいな雑魚が風間さんに話しかける? 良い度胸してるじゃない 』と。本当に、震え上がりそうになる程冷たい目をしていた。今となっては菊地原士郎も私の数少ないA級フレンズのひとりで烏滸がましくも「きくっちー」と親しみを込めて呼ばせて頂いているが。









 このように、数多の災難という災難に可能性を潰された私は最弱の位置に留まるべくして留まっている。この話を当真先輩や出水先輩に話したのであれば、ゲラゲラと下品に笑いながら私を滅茶苦茶にディスり始めるだろうから、このような発言は彼等の前では控えている。何故ならば、私はA級の固定給を手放すわけにはいかなかった。力不足で特別な個性も持ち合わせていない私が唯一誇れるところといえば、まあまあ可愛い見た目しかない。けれど、私はもうそのあたりの事柄を考える事を放棄して、無敵メンタルに切り替えたのである。これ以上マイナス思考に陥ってしまうのはあまりにも失策である。今でも偶に辞めようかなと思うことはあるのだ。その思考はあまりにもよくなかった。それに事実として、ボーダーは授業はサボれるし、お金は貰えるし、とてもじゃないけれど、手放すには大変惜しかった。手放すなんて、私には出来なかったのである。




「ーーー苗字」
「!とっきー、どうしたの?」
「今日はボーダーに行くの?」
「残念ながら行きますよ〜〜」
「それなら おれ達も行くから一緒に行こう」




 彼はボーダーの数少ない私の味方。嵐山隊の時枝充くんである。初対面の時から私に親切にしてくれた希少価値の高い友人である。

 因みに、彼の部隊の佐鳥ちゃんも同じように仲良くしてくれたという理由から親しくさせて頂いている。偶に駅で寄り道したりするし、佐鳥ちゃんとは高校生っぽい事を考えて実行するという変わった友好関係を築いている。所謂マブダチというやつである。




「最近仕事が立て込んでて苗字に会えてないって佐鳥が騒いでたよ」
「苗字みたいな雑魚で馬鹿な奴とも仲良くしてくれる佐鳥ちゃんととっきー本当に好き…」
「別に苗字は弱くないでしょ」
「うーん、なんでだろう。お世辞は言わせているという現実があまりにもつらい……」
「佐鳥も苗字が弱いなんて思ってないと思うよ。苗字って褒め言葉は素直に受け取らないよね」




 そりゃあそうなるでしょうという愚痴は、希少価値の高い友人には絶対にいえない。当然だけれど、嫌われたくなかった。とっきーたちに限ってではあったけれど、蔑まれるような目で見られたら、今世は終了である。潔く自害する所存である。

 冗談はさておき。月日は流れ、現在の私は高校1年生になった。幸いな事に時枝充くんとは同じクラスに所属している。時枝充という人間は一般的にみてもそれはそれは真面目で模範的な学校生活を送っている素晴らしい生徒であり、私は同じボーダー隊員として比べられる事が少なくなかった。けれど私は『とっきー=聖人』という素晴らしい結論に数ヶ月ほど前に辿り着いており、クラスメイトに何を言われようとも気にしてはいない。しかし、もうひとりのクラスメイトである烏丸京介ーーとりおーーーの待遇は如何なものか。確かに授業にも出ているし、真面目な生徒だとも思うけれど、あんな顔して結構何も聞いてない男である。しかも、サラリと酷い事をいう。それなのに、毎日毎日可愛い女の子に囲まれて、学校生活はウキウキワクワクのようだった。羨ましいのなんの。まだとっきーがあの対応をされるならわかる。しかし、烏丸京介くんがああいう対応をされているのはいかがなものだろうか。




「苗字〜!!!!」
「佐鳥ちゃ〜〜ん!!!」
「はいはい、佐鳥ですよ〜〜」
「ふたりはその下りをやらないと死ぬ病気にでもかかってるの?」
「馬鹿限定で死ぬんじゃないか?」




 『馬鹿限定で』という言葉に

 佐鳥ちゃんがとりおに反抗しているけれど
 私には言ってやりたいことがある。




「佐鳥ちゃんはバカじゃないし!!」
「その上をいく苗字から見たらだろ」
「え? 苗字、勉強出来るじゃん」
「佐鳥が頭が良いって事は、苗字が言っているのは人間的に頭が良いって事だろ」
「なるほど」
「今の言葉で苗字も佐鳥も貶されてるよ」




 その言葉を引き金に小さな空間の中でプチ戦争が始まり、烏丸京介あらため『 とりお 』を追いかけまわす佐藤ちゃんと私をとっきーはただただ暖かい目で見守ってくれたことは言うまでもないため、以降割愛とする。

 




「そういえば、冬島隊に馴染んできたよね」
「なんか嫌な思い出多くて嬉しくない」
「冬島さん達も苗字には嫌な思い出が多いんじゃないか? 初戦で瞬殺緊急脱出ベイルアウトとか」
「とりおは分かっていたけど嫌な奴だよね」
「苗字にだけな」
「それはもしかしなくても私の事嫌いじゃん……。私がとりおを嫌う事はあっても、その逆はないと思っていたのに」




 泣き真似を披露する私に佐鳥ちゃんととっきーが「仲良いね」と笑っているけれど、一度冷静に考えていただきたい。どのあたりに仲良しを感じるのだろうか。当事者を除いたすべての人間に私達の今のやり取りがコントのように見えてしまうとかそういうとても通常の様子だけでは説明月k内事象が発生しているとしかもはや考えられない。

 もしくはこの隣にいる男。実は人智を超越した不可解な副作用サイドエフェクトをもっていて、それが当事者以外の人間の感情を揺さぶりコミカルに見せているのだとかしかもう説明がつかない。




「私。とりおとは中高一緒だし、無駄に女の子を侍らせているから私いつか人生の標的になりそうで怖い……」
「まあ苗字とは親友ーー」
「えっ、や、やだ! もうとりおったら!!」
「ーーーと、見せかけて顔見知りだからな」
「烏丸って本当に苗字揶揄うの好きだよね」




 違うんだよ、とっきー。
 コイツは絶対本心で言ってるよ。

 そうでなかったとしたら酷い。上げて下げてを中高付き合うなんて私のこの立ち位置がほしいという女の子に喜んでプレゼントしたい。




「とりおの後に佐鳥ちゃんととっきー見ると本当に心が洗われる気がする」
「苗字の心は汚そうだからな」
「こいつほんとなんとかならないのかな!! 私への人権侵害が凄い気がしてきた!!!」
「それ、多分烏丸の愛情表現だよ」
「そんなことある!? 私もうすぐ遠征いくから会えなくなるんだよ!?」




 冬島隊に所属してから早1年強。まもなく、何度目かの遠征に赴くこととなる。今回こそ死んでしまうかもしれないけれど、そういうことを心の中で俯瞰視して考えられる程度には危機感を持ってない私がいる。ーーーそして、そんなわたしの目の前でわかりやすく3人の顔色が悪くなっていくのを見て思う。3人の中では私は死ぬことが確定しているのだろうか。

 死亡フラグが目の前でリアルタイムに構築されているのをこんなにも最前線で見れることってあるんだ。だってその表情。それ、死ぬ人を看取る時の顔だよ。縁起でもないな、この人達。どうして、こういう時だけ一致団結をするのだろう。チームワークの発揮の仕方がエゲツないな。




「苗字も遠征とか行くんだね」
「苗字も一応A級2位だったな」
「苗字、強く生きて!!」
「自分達がリアルタイムで私の精神削っている事に気付いて欲しいかな!」




 そうして駄弁りながら学校を出て。

 そうして、途中の道で玉狛支部のとりおだけが別れたその道で佐鳥賢が「あーあ」と声をあげた。




「折角仕事落ち着いたのに、今度は苗字が遠征に行っちゃうとか……オレもう泣きそう」
「え、やっぱり私が死ぬ前提なの!?」
「大丈夫だよ。苗字は強いから」
「とっきーは私の評価すごく高いよね……」
「おれは苗字が弱いと思ったことはないから」













「おー、エース」
「……当真先輩」
「わかりやすく嫌な顔するじゃねーの。
 相変わらず顔以外何も可愛くねーな」
「ひとつも可愛くない先輩よりマシですけれどね」
「いうようになったじゃねーの。とっきー、うちの馬鹿のお守りご苦労さん」
「当真先輩、佐鳥もいまーす」




 わかりやすく不満がな表情を見せた苗字名前の頭を当真勇はくしゃくしゃにかき回して、持ち前のコミュニュケーション能力を生かして容易く会話の輪の中へと参入した当真勇の顔を苗字名前はじとりとした瞳で見上げた。そう、これが殿堂入り級の身内型の敵にして、ボーダーきっての変態狙撃手である。

 時枝充は当真勇と苗字名前をふたりの後ろからみつめる。あれであまり仲が良くない、と表現するとは。わかりやすく自分と佐鳥賢の輪の中から苗字名前を引き剥がした あの行動の真意が本人にわかる日が来るのだろうか。通常なら来そうなものだけれど、苗字は『 こうである 』と決めた事柄をひっくり返すことをあまり行わない頑固なところがあるから気が付くのはずっと先の未来になりそうである。




「今日は塩ラーメンだってよ」
「それなら私、駅前の味噌バターバターが食べたいです。ていうかもう味噌バターバターバターラーメンが食べたいです」
「お前いくつバタートッピングする気だよ。只のバターじゃねーか」
「ち、違いますから!! こうレンゲに乗せたバターをジワジワ溶かしてバターと汁を飲む最強に美味しいんですよ!!!」
「麺を楽しみにしてる要素がひとつもねーよ」
「麺が美味しいのは大前提なので」




 因みに、私と当真先輩の『 味噌VS豚骨 』の果てしない弁論大会は半年間にかけて行われており、現在は52回にわたり引き分けており、未だに決着がついていなかった。進行中である。まあ、バターを信仰している私としてはバターが合うラーメン=味噌という方程式を確立させているうえに信仰しているので豚骨に靡くことはない。

 しかし、当真先輩も中々強情で『 漢といえばトンコツ 』。あのコッテリを愛している当真先輩もまた譲らなかった。つまり両者譲る事のない戦いは決着など着くはずもなく、最近では弁論大会というよりは、かみ合う事のない、好きな所を惜しみなく一方的に話す会になっている。意外だと思うかもわからないが、これが結構盛り上がる。私達は好みが似ている事もあり敵とはいえ良く共に行動する。防衛任務帰りなんて冬島さんにラーメンを奢ってもらっている。よく「お前ら本当に安上がりだな」といわれるけれど、私も当真先輩もとても満足しているので問題ない。




「…………塩も美味しいですよね」
「ボーダーの食堂は塩ラーメンだけは極上って有名なんだと。確かに結構イケるな」
「いやどんだけ贅沢なんですか。塩ラーメンでこのレベルは珍しいなんてもんじゃないですよ。当真先輩今まで巡ったラーメン屋で豚骨ばっかり食べているから違いがわからないんですよ、可哀想」
「違いならわかるね。このアッサリすぎない仕上がりに合わせた魚介系特有の旨味と麺の絶妙な歯ごたえだろ」
「……ま、まあ、このラーメンの1番いいところは魚臭さが全くないところですけれど」
 



 しかもボーダーの食堂は替え玉が無料!!

 それは私達のようなラーメン好きには、途轍もなく有難いことで、2杯3杯といくらでも食べ進めることができる革新的なスペシャルサービスである。




「相変わらずスゲー食べますね、当真さん」
「まーな」
「うわ、名前ちゃん先輩それ3杯も良く食べれるよね。そんなんだから動けないんだよ」
「緑川くんが酷いです、当真先輩」
「事実じゃねーか」
「やっぱりお前殿堂入りだわ」
「当真先輩だろーが。何生意気にもお前呼ばわりしてんだ、お前。ブースにぶち込むぞ」
「なんで先輩そんなに心狭いんですか……」
「お前みたいな可愛くねー後輩を相手にして今日まできちまったからじゃねーの」
「いや私くらい育て甲斐ある子いませんよ」
「寝言は寝ていえ、ひょっこ隊員」




 出水先輩と緑川くんは、どうやら米屋先輩を待っているようで米屋先輩が来るまで共にここで待つ事となった。ああもう、米屋先輩まで来たら割と嫌いで面倒くさい先輩を代表する人が集合するというカオスな状況になるじゃあないか。本当に当真先輩は顔が地味に広いから本当に勘弁してほしい。

 しかし、待つこと十分強。米屋先輩は全く姿を現さなかった。結構待たせるな。それだけ待たされてしまうと、私は寧ろ1周回って遅いとかじゃあなくて、普通に心配になってしまうのだけれど。




「流石に私お腹いっぱいなんで、そろそろ席をたってもいいですか? 当真先輩がいるんだから私がいなくても大丈夫ですよね?」
「そういや この間苗字が喜びそうなラーメン屋見つけたんだけど、まあ苗字も忙しいみたいだし、それなら仕方ねえな、緑川」
「名前ちゃん先輩が喜びそうだと思ってトッピング無料券まで持ち帰って来たのにねー」
「止めろよ、緑川。苗字忙しいらしいし」
「……先輩達って本当いい性格してるよね」




 ため息をついて頬杖をついた苗字名前の隣で当真勇は興味なさそうにラーメンを啜りながらその光景を見つめて、そうして一言物申した。




「お前ら、あんまりウチのひょっこイジメると冬島さんが喧嘩売りに来るぞ」
「やっぱりその噂ってガチなんすか?」
「おー、太刀川さんがシメられてた」




 その言葉にわかりやすく顔を明るくした苗字名前は心の中で「( なんでそんなにも評価上がる事を先に言ってくれなかったの )」と、わかりやすく頬を緩ませて視線を泳がせる。

 まあ、貴方の評価は全く上がらなかったけれど、でも、隊長の評価は私の中でうなぎ登りだよ。もう隊長がそんなにも良い人だったというのならば、いってくれればよかったのに。控えめに言っても好き。まさか、私にそんな大きな後ろ盾があったなんて、もう涙が溢れてしまいそう。




「冬島さんには苗字が可愛く見えるんすかねー。マジで気をつけて行動しよ」
「だから俺も気になって聞いてみたのよ」
「聞いたんすか!?」
「おまえらは、こいつの顔以外に
 可愛いところがあると思うか?」
「当真先輩なんでそんなに失礼なの!?」
「確かに、名前ちゃん先輩って本当に可愛いよねー。今は全然パッとしてないけど」




 上がりきった冬島さんの好感度は、当真先輩の「冬島さん曰く昔飼ってた猫に似ている」という発言により大幅に減少したけれど、それでも昨日よりは全然好感度は高いままだった。

 しかしまあ……。
 " 顔は " 可愛い、とは聞き捨てならない。




「私の何がダメなんですか!! とりおの事を見ていて分かったんですけれど、人生顔じゃないんですか!?」
「お前のそういうとこマジでブス」
「ハッキリ言ったなー、当真さん。いやでもほら、苗字には愛嬌があるから」
「出水先輩にフォローされるなんて……」
「…………お前やっぱブスだわ」
「だろ?」
「フォローしてやったのに恩を仇で返された気分になりました」
「名前ちゃん先輩って、いつも本当周りから凄いズタボロに言われてるよねー」
「雑魚でブスだからじゃないかな……」
「うわっ、面倒くさ!!!」




 私の返しに緑川くんが顔を顰めたのを見て、自分が後輩にも酷い扱いされているという現実に普通に絶望していると大きな手が私の頭を鷲掴みにした。誰だかわからないけれど、そのあまりにもシュールすぎる光景にまわりからの視線が集まるのをひどく感じた。




「おお、苗字。良いところにいたな。今日もウチの唯我と一戦やってくれ」
「太刀川さん、流石に舐めすぎですよ。コイツ一応すげえサイドエフェクト持ってるわけだし」
「そうなのか?」
「知らなかったんすか? アイビスの弾速でスゲェ話題になったじゃないですか」
「名前ちゃん先輩って意外と凄い人?」
「…………お前も知らなかったのかよ」
「オレ入隊したの割と最近だし、名前ちゃん先輩が凄いっていうのは知ってるけど、それだって風間さん撃ち抜いたから再認識しただけで、ぶっちゃけ雑魚って情報の方が多いじゃん。でも、凄いって噂が流れてるんだ?」




 それはマグレで起きた一撃の話である。

 部隊が上手く機能していたのと、最近ようやくサイドエフェクトを上手く切り替える事が出来るようになった事と太刀川さんが達A級部隊が風間さんの動きを鈍らせたから出来た技であって通常なら瞬殺だった筈だ。




「あれお前じゃなかったのか、当真」
「いやいや、太刀川さん。流石の俺もアイビスの弾速変換なんて出来ねーよ」




 やられても困る。それはわたしの専売特許なのだから。私の副作用サイドエフェクトは簡単にいうのならば、( 正確には大きく違うけれど、部隊外の認識としては ) 時間の流れを変えることができるというものである。それ故に冬島隊とは相性が良いし、ある特定の条件下(例えばランク戦とか大規模な侵攻があった時とか)にのみ他の戦闘員に副作用サイドエフェクトを共有できる。

 つまりやろうと思えば、当真先輩の弾速も上げられるし( あげられるという言い方は少し違うけれど )、他の部隊よりも少しだけ有利な条件で戦える訳なのだけれど、それでも冬島隊がA級2位止まりだったのは言わずもがな私のせいである。その話は、またの機会にお話ししようと思う。




「そうそう、あれ。前に冬島隊と当たった時、太刀川さんの腕ブチ抜いた とんでもアイビスの狙撃手ですよ、こいつ」
「おお……!! あれ、お前だったのか!」
「そうそう、あれ!! おれマジでビビりましたもん。一瞬滅茶苦茶トリオンある奴が撃ったライトニングかと思ったし」
「こんなでもウチの隊長が目に掛ける位には実力のある特攻隊長っすからねー」
「急に褒め殺しにかかるの辞めてください」




 私は嫌味を込めてとびっきり笑顔で言ったところ、太刀川さんは「当真先輩と冬島さんは割といつもお前を褒め殺ししている」と、全く信憑性のないことを宣ってきたので、「そういうの良いですから」と、席を立った。

 きっと私の後ろ姿を見て『 マジで可愛くない 』とか言っているのだろう。




「あんまり揶揄うと嫌われるぞ、当真」
「可愛がってるんすよ」
「当真さんのはわかりづらいからな〜」
「ていうか、いずみん先輩達は本当に名前ちゃん先輩の可愛がり方間違えてると思うよ」




















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Espoir