天国の門をこえて











「勇者達に幸運あれ!!!」



 空の騎士と名乗る男は、なんとも奇妙なーーー『 』にして『 ウマウマの実 』の能力者というーーー鳥の相棒のピエールに跨ると瞬く間に去っていった。ウマウマの実の能力者。故に翼を持った馬になれるらしい。変化した姿をおいておけば、移動手段としては使い勝手のいい大変素晴らしい能力である。

 もちろん、そこはピエールの体力によって左右するところではあるが。




「……結局何も教えてくれなかったわ」
「ねえ、名前は占い師じゃない? こういう時に効果的な占いとかないの!? 例えば……そう! 未来予知みたいな、ねっ!?」
「未来を予知するものはある。でも、ずっと先の未来の予知だからあまり意味はないと思う。それに、進行方向に関しては全て航海士さんに任せていたからやったことがない」
「お、おお……これでフリダシに戻ったぞ」




 名前はルフィ達が話している間に辺りを見渡す。先程、占った時。最悪のカードが出た。だから、この島には財宝の他にもっと厄介な " なにか " があるとしか考えられない。しかし、ルフィは名前が何を言ったとしても、空島へ行くことを諦めたりはしないだろう。

 死相が見えていないうちは、何をするのも止める必要はないだろうけれど……。




「名前〜!!こっち来てみろよ!
 面白いぞォ〜〜!!!」




 雲の上で飛び跳ねるルフィ達を見て、クスッと笑っている名前さんにサンジが「あんなのに付き合わなくても大丈夫だ」と声をかけてくれる。しかし、こんな体験は滅多に出来ることではない。「折角だから」。声をかけてくれたサンジに答えた名前は船から雲の上へと飛び乗る。雲の上は、想像していたよりも、ずっと柔らかい。




「船長さんの船は優秀で信頼関係があつい。占いばかりの私には馴染めそうにない」
「おれは名前も馴染めると思うぞ!」
「……ありがとう。可愛いお医者さん」




 いつの間にかルフィを除け者にしてチョッパーの頭を撫でている名前は、なにを思ったのか。突然、目を丸めて、チョッパーの頭をそれはもう幸せそうに撫で回し始める。

 珍しく年相応の顔をしている。
 新しいオモチャを見つけた子供のようだ。




「ハッ、!楽園かと思った……」




 頭おかしいのかコイツ。サンジの名前とチョッパーの戯れ合いをとんでもなく幸せそうに見つめて、だらしなく緩ませて見ている男を横目に、悲惨な顔だな、とゾロは思ったが、また面倒な事になりそうだからという理由から、あえて口にはしなかった。

 暫くして、船に戻ったルフィ、ウソップ、チョッパー、名前は先程の時間の延長なのか未だに4人で仲良しそうに会話をしており、一番先に会話をしたのはオレなのにとサンジによって理不尽に睨みつけられているのだが、それに気がつくことはないだろう。




「名前!! おれも!」




 自らの頭を差し出したルフィに名前が「どうして?」と首を傾げる その光景を当然目撃したサンジは、そのとんでもなく羨ましい提案を平気な顔をして口にしている自らの船長にちょっとした殺意が湧くが、名前ちゃんの可愛さに免じて許してやるか。

 そう思っていたーーーが、数秒もしないうちに、発言を撤回することになる。




「仲間だろ!!」
「「「おいそれ、関係ねェだろ!!」」」




 船長による滅茶苦茶な発言に思わずツッコミを入れたゾロ、サンジ、ウソップの3人は顔を見合わせると、大きく溜息を零した。

 ウソップは名前の背中を押して、ルフィから遠い位置へと移動させていたし、ゾロは右手を額にそえながら、一度名前に関しての一切をシャットアウトする事を心に決めた。その一方でサンジはルフィに対して、それなりにしっかりと蹴りを入れて、それから名前と仲睦まじく会話をしているチョッパーに視線だけ向けた。その瞳には、隠す事なく浮かび上がる『 負 』のオーラがあった。恐らく、名前がチョッパーを気に入っていなかったのならば、殴っていただろう。




「みて、お医者さん」




 名前が膝を床につけて、チョッパーの瞳を見つめた。呼びかけられたチョッパーは首を傾げて、名前の瞳を見つめ返す。その光景を遠目からみていたサンジもまた同様に不思議そうな顔をして2人を見つめていた。

 名前が斜め上を見上げた時には、もうすでに視認出来るだけのエネルギーがそこにあった。キラキラと眩しいくらいの金を鱗粉のように散らしながら、ゆっくりと輪郭を作っていくそれを見つめながらチョッパーは期待に目を輝かせた。光達が自分を輝かせている そのエネルギーを集めて鳥を形成した頃には、もうすでにチョッパーの周りを飛び回っていた。すごいすごい。光の鳥を追いかけ回しながら、そういう風な声を上げているチョッパーの声に船員の視線が集まるのは当然の流れだっただろう。光で作られた鳥の大きさはピエールには遠く及ばないほどに小さく、小鳥くらいの大きさしかなかったけれど、名前により、1匹、また1匹と数を増やしていくそれは、それはもう幻想的だった。




「すっごい……」




 その言葉の後に「見せ物にしたら、どれくらいかしら」と続けるナミは恐ろしく現金な女だったが、たしかにと同意したウソップも中々である。

 お金が困った時には、これしかないわ……。そういって、ウソップと共にお金の計算を始めるナミの隣でロビンは、もう少し小さなサイズを操作できるなら情報集めにもってこいなのではないかと思考していたし、サンジはチョッパーの周りに集まる光の生命体と戯れる2人を微笑ましいなと口元に笑みを浮かべながら見守る。なんて微笑ましい。女神だ……。









「島だ…!! 空島だァア〜〜〜!!!!」
「うほーっ!!!
 この島地面がフカフカ雲だ!!」




 われ先にと地面に降り立ったルフィに続くようにしてウソップが船から降りた。その様子をみて名前と共に談笑をしていたチョッパーが目をキラキラと輝かせて名前を見上げ、そして袖を引っ張る。




「名前! おれたちも行こう!!」




 チョッパーからの誘いに「お医者さんが行くなら着いていこう」と応えた名前は少しだけ嬉しそうに目を細めて先をゆくチョッパーに笑顔を送る。船から降りた2人は暫く地面の感触を楽しんだ後にルフィ、ウソップと合流して座ってみたり寝転んでみたりと中々自由に空島を満喫していた。

 遠方から楽しそうに動き回る とんでもなく能天気な4人を見つめて声を上げる。




「おい 錨はどうすんだ!?
 海底がねェんだろ! ここは!!!?」
「んなモン いいだろどうでも。早く来てみろ フカフカだぞ!! この浜辺は!!!」
「どうでもってお前……」




 適当な奴だな……。そういう風な感想を抱きながらも、まあそうだろうなとルフィに視線を向けるついでに浜辺で遊んでいる他の3人にも視線を投げたゾロは意外そうに名前をみた。まさか、こんなに早い段階で馴染むとは。素直に意外だった。チョッパーに懐いたという事実も意外だったが、なによりも『 最強 』なんて謳われている占い師。そんな人間がこんなーーーいい意味で能天気なーーー奴だったことが、だ。

 ゾロはいい意味でも、悪い意味でも、少なからず『 最強 』と謳われる占い師に興味があった。その通り名である『 嘘見抜き 』という名から どういう意味で最強なのかと疑っていた。実戦を見たことがあるわけではないが、ジャヤに滞在していた事実と先程の防壁を見る限り、守り特化なのかもしれない。守りが強力で、その他に何かしらの能力があるから故に最強。こんなところか。しかし、引っかかる。あの『 瞳 』だ。あれは、何人も殺してきたやつの瞳だった。名前とゾロには長い時間、同じ空間にいたという経験があまりにも少なかったが、それでも、モンブラン・クリケットの病状を知った名前が部屋を出ていく時の名前の瞳は、いつでもお前達を殺せる。そういう瞳だったのだ。




「…………しかし たまげたな。
 この風景にゃ…まるで夢だ……」
「全くだ……それにアイツらのハシャギ様ときたら…ハハ しょうがねェな。ハッ、あんな所に女神が!! ひゃっほ〜〜う!!! 名前ちゅわ〜〜ん! 貴方のコックが今行くよ〜!」
「おめェもだよ」




 目をハートの形に変えて、華麗に船から降り立ったサンジにゾロはコイツは本当に『 こういう奴だよな 』と、口には出さなかったものの、しっかりと青筋を浮かべていた。浜辺に出て行ったサンジの向かう先には、まあ当然名前の姿がある。何を浮かれているんだ、アイツは。

 雲の上という未知の経験ということ。ロビンと名前という新たな船員の搭乗。このあたりも一味のおかしなテンションの理由かもしれない。ゾロは恐らくこの島の基盤であるフカフカの雲に錨を刺して、再度、サンジの加わった能天気組に視線を向けるのだった。









「名前さん、貴方のコックサンジが貴方の為にパラソルと飲み物を用意しました」
「……ありがとう」
「!……ああっ♡ 名前ちゃん!! 飲み物になさる? それともおれになさる!!?」
「丁度喉がかわいてた。助かる」




 名前は、どこから出したのかもわからない飲み物をサンジから受け取って、口の中に飲み物を流した。正直に言おう。名前はサンジが苦手だった。その理由を本人である名前自身もよくわかってはいなかったけれど、簡単な話だった。名前という人間は生きてきた環境が、それはもう、すこぶる悪かった。思い返す人生の中に両親はいないうえ、それなりに物心がつき始めた頃には既に通常一般家庭と呼ばれるような場所とは程遠い場所にいた。『 海軍学校 』。年齢はいくつだったろう。10にも満たなかった記憶がある。そういう時代からあらゆる殺人拳を叩き込まれた。それは、彼女の持つ『 特殊能力 』を奪われない為の誰かの仕組んだ人生だった。自己防衛が出来るだけで良い。そういう扱いをされていた かつての彼女が所謂『 きらきらの実 』を食したのは、ただの偶然だったと信じたい。

 兎にも角にも、それはもう散々な扱いを受けてきた彼女は『 女 』として扱われたことがただの一度もなかった。故に、サンジの対応は名前にはあまりにもくすぐったい。優しくされるくらいならば、いい加減な扱いをされる方が気持ちが楽だった。こういった理由から名前はサンジが兎に角苦手であった。なんというか、サンジを相手にしていると疲れてしまうのだ。




「美味そうだな! それ!!」
「おお!! うまそォ〜〜!!!」




 だからこそ、名前は自分達の元へと駆け寄るルフィとチョッパーの存在が兎に角ありがたかった。自分は他の船員のようによく口の回るタイプでもないから余計にそうだった。名前の見るからに和らいだ空気感をみて、先は長そうだと息を吐いたサンジは駆け寄ってきたルフィとチョッパーに視線を動かす。有難いような、そうでもないような。気持ちの悪い気分だ。

 その気持ちの悪い気分がどうにもムシャクシャして、名前の持つ自分お手製のドリンクに群がるルフィとチョッパーに塵を見るかのような視線を投げたサンジは「お前らの分はない」と口にしたのだけれど、名前の方はそうでもなかったようで、少し飲み物を胃の中に入れるとチョッパーになんの迷いもなくドリンクを渡した。見るからに肩を落としたサンジに対して、遠方から眺めていたゾロは「散々だな、あいつ」と感想を述べる。これがまた名前本人に全く悪気がないところが悪質である。実際に、勿論悪気はなかった。







 皆が船から降りた頃から何故だかずっと感じていた違和感の正体に漸く気がつく。体内にエネルギーが溜まりすぎている。間違いない。いくら空島が地上と比べて太陽からの距離が近いとしても、太陽のエネルギーだけじゃあ溜まらない量の筈だ。いや、しかし断言はできないのも事実であった。何故ならば、名前が雲の上に来たのは流石に初めてなのだから。

 とはいえ、この量はーーー。




「ーーー……異常値だ」
「なんて顔してんのよっ!
 折角の雲の上なんだから、もうちょっと楽しそうな顔するもんでしょうよ。ほら、これ。アンタの大好きなチョッパーあげるから」
「ナミ! おれはモノじゃないぞ!!」
「はいはい、わかったから」




 名前にチョッパーを手渡したナミは素直にソレを受け取り口元を緩ませ、わかりやすく嬉しそうな顔をする名前の表情を見て面食らった。

 本当にチョッパーに懐いたのか。

 先程ゾロと話していた内容を思い出し、肩を落とす。悪く言うとナミは1番に仲良くなって、最強の占い師を手懐けるつもりだったのだ。




「おい 彼処に誰かいるぞ!!!」
「また…!! ゲリラか!?」
「笛!! 笛は!?」
「待て 違う!! ……天使だ!!!」







 『 天使 』。その単語を耳に入れた名前とチョッパーは興味深そうにサンジの方へと顔をむけて、その視線の先にいる女を視界にとらえる。

 その間、名前の腕が緩んだ隙を見てチョッパーが雲の上へと見事に着陸し、腕が自由になった名前の方はそれはもう興味津々と言った様子で『 天使 』の元へとジリジリと詰め寄る。具体的に何をどうして『 天使 』とするのか。どうして否定をしないのか。それはもう疑問は尽きないし、なによりも天使と呼ばれた女の背にある羽根には大変興味があった。アクセサリーのようにこじんまりとしていて、とても人間の身体を浮かせるだけの力があるとは思えないソレで果たして空を飛ぶことはできるのだろうか。




「青海からいらしたんですか? ここは"スカイピア"のエンジェルビーチです。私はコニス。何かお困りでしたら力にならせてください」




 ルフィ等と出会う前の名前は想像の出来る限り、おおよそ全てのことをひとりでこなしてきた為に何か困っていたらというコニスの話にそもそも困っていることなんて何ひとつないという結論に達し、盛り上がる麦わら海賊団を横目にただただ観察を続けていたが、特別重要そうなものはなく、この先のためになりそうな情報も手に入れられなかった。しかし、珍しい個体である。このあたりに住む人間には羽が生えてるのだろうか。名前は自分達の横を通り過ぎた何者かの背中にある羽を眺めて思考を再開する。

 名前はコニスの父を名乗る男ーーーパガヤというらしいーーーを眺めて、首を傾げた。空を飛べるのであれば、あの変な機械は使わなくてもいいのではないか。それとも、背中にある羽根は飾りでやはり空は飛べないのか。もしくは、飛べる距離に制限があるのかもしれない。いずれにしろ、機械に頼るような生活をしている時点で、長距離移動向きではないのだろうけれど。




「名前〜〜!!
 ちょっと一緒にドライブしましょっ!」
「私もエネルギーを発散しないといけなかったから丁度よかった。私は後ろを浮いてるから気にしないでほしい」
「浮くのか!? すっげェ〜〜!!?」
「……" 飛ぶ " の方が良かった?」
「…………アレは気にしなくていいわ」




 ナミがウェイバーに乗り、海を走り回る その後ろを名前が追いかける。そのスピードは中々のもので、遠方からその様子を眺める一同は過去の名前の発言を思い出して、全然2秒じゃないじゃねえか、と。心の中でしっかりと意見していたけれど、普段は本当に2秒程度しか飛ぶことが出来ないため、名前の発言はあながち間違いではない。




「それにしてもアンタ凄いわね〜。全然空飛べてるじゃない。もしかして、さっきのは私達に遠慮しての2秒?」
「……寧ろ、飛ぶ事ができている今がおかしいだけ。この島にいると通常よりも早くエネルギーが溜まる。何かあるのかもしれない」
「つまりそれが財宝でしょ? 燃えてきた!!
 ガンガン稼ぐわよ〜〜!!!」















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Espoir