一部やや容赦ない描写があるため注意












 ウソップとサンジがロープを使って船を目指す中、名前は空を羽ばたいて船の装甲を確認して回りながら、力強く前を見据える。ナミが攫われたのは自分の過失。必ず、取り戻さなければならない。私が、絶対に。

 名前はその瞳に焼き付けた攻撃をある程度の水準のクオリティをもって実現することができるだけの実力と知識がある。エネルの全力……2億Vのダメージをその身をもって受け止めたのもまたその威力を正しく認識するためである。そして、それを記憶したいま。今後永久に発動できる大技ではないという欠点はあるものの、自分の中に空き容量を作るのは造作もないのである。




「ここから先は二手に分かれて一気に甲板を目指す!! ナミさんはそこにいる! 名前ちゃんは好きな方についてくれ。頼んだ・・・よ」
「わかった」
「何ィイ!!? バラバラに行くのか!? 名前! お前は勿論おれと来るよな!? ていうか、お願いします! 来てください!!!」




 勢いよく名前の腕にしがみついたウソップをサンジが思い切り引きはがした。

 その様子を横目に見ながら、先程の言葉を思い返す。サンジの言い回しを思い返すに最初からそのつもりで提案したのだろう。そうでなければ『 頼んだ 』という言葉は出てこない。そこまで考えて、特に深読みもせずにウソップの言葉にうなずいた名前はウソップに着いて行く選択に決めた。




「いいか ウソップ!!!
 おれはナミさんと名前さんの為なら
 お前が死んでも構わないと思ってる」
「それは心に留めとけよ!!
 本人に言うとか最悪だな お前!!!
 張り倒すぞ テメェ!!!!」
「さァ 行くぞ!! 待ってて ナミさん!!!」
「話済んでねェだろ!!!」




 サンジは名前の肩に手を置き、真剣な表情を名前に向けた。揺れる船の甲板の上で、サンジは名前の瞳を見つめる。通常の軽薄な雰囲気とは打って変わり、彼の心には重い決意が宿っていた。「アイツの事は任せた。名前さんも無事でいてくれ」と。自分の敗北を引きずっての言葉だろう言い回しに名前は困ったように眉をしかめて「船長さんが来るまでの時間稼ぎくらいはしよう」と大きくうなずいたが、サンジの心配はそこにはない。だって、開いていた腹の傷が完治しているはずがないのある。サンジはその傷を見ていたわけではなかったが、チョッパーの言葉を信じるのであればその傷はかなり大きかったのだろうことが想像できた。

 つまり、完治していないのに動いている。恐らく、ナミさんの為に無茶をして無理矢理体を動かしているのだ。エネルのエネルギーが自分の力になるとはいっても、ダメージが0なわけではないことを先程の戦いが示している。おれたちに心配をかけまいと、表面上だけは完治しているように見せているのだろう。…………使い捨ての『 道具 』だから、か。サンジは自分とは逆方向に進む名前の姿を見つめて、拳を強く握った。




「おーい! 名前!!! 扉あったぞ〜!」
「…………ウソップは愛されているね」
「は!? 気持ち悪ッ!!!? アイツになんか言われたのか!? このおれ様が強くて格好良いからってサンジの奴……怖ェわ!!!!」




 名前は前を進む実に男らしい後ろ姿のウソップに感動しながらその後ろをついて歩いていた。その間もウソップは、誰もいねェ。空飛ぶ船とか聞いた事ねェ。ホントに落ちないのか、など。いくつか小声でぶつぶつと小言を漏らしていた。その止まることのない不安の言葉の数々が次々と口から溢れてくる ウソップに名前首をかしげていたが、呑気な名前と違い、言葉をぽろぽろと漏らすたびに、つま先から頭の先まで、一層の緊張感が走り続けるのである。

 そんなウソップの緊張がピークに差し掛かろうとした時。名前がウソップの名前を呼んで上を指さした。




「……上が騒がしい。天井を壊そう」
「いやホントに勘弁してください」
「? わかった。それなら壁を壊そう。
 その方が近いかもしれない」




 ウソップは今この瞬間にも壁を破壊しようと振り上げられた名前の腕に力強くつかみかかり、必死に制止する。どこで体力つかってんだ、おれは。ウソップがそんな恐ろしく真っ当な感想を抱く中で「ナミが危険だったら大変」だとこちらも真っ当な意見を口にする名前にどっと疲れが押し寄せる。

 そうして壁に向けて渾身の一撃を放たんとする名前を見つめて、ウソップの顔には、焦りと決意が入り混じる。なんの圧なのか。気合を入れたら、人類は皆こんなことができるのだろうかとウソップが考えるのを放棄する最中も壁は大きく揺れ、嫌な音を立てている。ああ、多分これ。気合で壊れるやつだ。ウソップの心臓がドキリ波打つ中で視界に飛び込んできたソレにウソップは目を丸くして「ちょ、ちょっと待て!」と、慌てて声を上げた。





「あ、あああ! あんな所に扉がァア!?
 いやァ、良かった良かった!!!
 よォし、名前! 彼処を通って行くぞ!!」
「!……凄い、ウソップ」




 さあさあ、行こうじゃないか。一刻も早く。

 壁を壊すなんて天井壊すより船が落ちる可能性が高い。ネガティヴのウソップには堪らない恐ろしさだ。丸め込めて良かったというのがシンプルな本心である。ウソップは、さあさあ、と名前の背中をぐいぐい通して、その扉を潜り抜けた。












「私は忙しいんだ 消え去れ!!!」
「てめェが消えろ!!!」

 ーーー必殺!!! '' 火薬星 '' !!!!




 まさに間一髪。声と共に、放たれた火薬の玉が空気を切り裂きながらエネルに向かって突き進む。着弾と共に爆発音が響いたが、この程度でどうにかなる相手ではないことは理解している。そうして、ゆっくりとナミから視線を外したエネルはその音の方向に顔を動かし、瞬間的にこちらを振り向く。そうして、エネルの表情と外傷を見つめたウソップは名前の背後にすばやく移動して身を隠した。

 名前の姿を見つけて、顔を明るくさせたナミ同様にエネルもまたその姿を確認して笑みを浮かべる。この島に置いていくにはあまりにも惜しいと思っていた。向こうから来てくれたのならばそれはエネルにしてみても好都合だったのである。




「ーーー名前!!
 ……ウソップも!!!」
「おれはおまけかよ!!! 今助けたの おれだぞ!! あ、すいません。嘘です、名前でした」




 エネルの標的になりたくないが為に、ウソップは名前の背後で今の攻撃は名前ですと名前を攻撃の盾にと前へ出して自分に来るかもしれない攻撃への備えとした。もしもこの場所にサンジがいたのなら、あまりにも情けないその姿に蹴り飛ばされているだろうが幸運なことにこの場にサンジの姿はなかった。

 しかし、その一方でウソップはサンジによる追撃がいつまで経ってもやってこない事実に視線を泳がせる。




「貴様だったのか……船で会ったな」
「あ…あれ!? サンジは!!?」
「え!? サンジくん!? 来てるの!?」
「まだ来てねェのか!? ここにっ!!!」




 ナミの発言を耳にいれて、ウソップは恐ろしく居心地の悪くなったこの環境で顔を青くした。そうして名前の後ろで名前の肩に置いていた手を放して、決意を固める。そうして、ナミに再度視線を置いた後に名前と真後ろにある扉を交互に見つめた後に扉に手をかけて、一歩また一歩と後退しつつ名前の手を引っ張った。

 そうしてそのまま、名前の手を引っ張って「失礼しましたァ〜〜」と扉の向こう側に一度身をひそめる。扉の向こう側からはナミの怒号が聞こえていたが、戻ってどうする。おれにできる事なんてあるのか……!?




「ウソップ、私は何をすればいい」




 そうして、自分を見つめる名前と視線を合わせたとき。ウソップは息をのんだ。自分を信頼する瞳がそこにあるのだ。そうして、思い出す。名前から放たれた言葉を。自分にはどうにもこうにも不釣り合いに思える その言葉を目の前の少女だけは本気で信じている。それを思い出した。ウソップは名前の自分を信じるその瞳を見つめて、胸の痛みを感じながら後退する足を止めた。

 …………!!
 …逃げて…逃げてどうなる 男ウソップ!!!

 ウソップは勢いよく顔を上げて「仲間を守れ!! 全力で!」と。名前の手に込める力を強めた。そうして、ウソップの言葉に大きくうなずいた名前は「コックさんは私があいつを倒すことができないのを理解していたと思う」と、ウソップに告げる。そうしてその理由として自分には決定打がないのだと告げる名前にウソップは目を丸くした。




「つまり、コックさんが私に任せたことは '' 時間を稼ぐこと '' 。だから、ウソップとナミは私が時間を稼いでいる間に船長さんを呼んで来てほしい。いまの私じゃ、あれは倒せない」
「…………わかった…死ぬなよ…」




 船長さんが来るまでの時間くらいなら稼いでみせるよ。それは回答じゃねえんだよ。ウソップは神妙な面持ちで名前を見つめた後、ゆっくりと手を放して、再度扉に手をかける。神がなんだ!!! そんな言葉とともに扉を開けたウソップめがけて、飛んで来た雷を名前はウソップの背中をおもいきり押した後に全てを左手で跳ね返す。

 その光景を実に退屈そうに眺めたエネルに名前は背後にいくらか光の弾を形成して、ウソップ等を見つめた。




「ナミ!!!!」




 ウソップはナミのもとへと駆け寄って、エネルと名前の姿を見つめた後。深呼吸し、感情を整えながら、声を張り上げ、その名を呼んだ。その呼び声に自分は何をすればよいのかとナミが尋ね、ウソップは「ルフィは!?」と、己の船長の所在を確認した。ナミはウソップの質問に船の下に視線をうごかして「さっきまで此処にいたんだけど落とされちゃった。死んじゃいないわ!! アイツだもん!」と、力強く続けた。

 ウソップとナミの視線が合った瞬間、その瞳に宿る決意は一層強固なものになった。そうして、ウソップの語る言葉を受け止め、ナミは目を丸くする。自分が勝てる筈もない、と名前自身も解ってるというウソップの口振りにだ。それなら何故、ここまで命をかけて私達を守ってくれるのだ。




「……ナミ!! 名前はもうおれ達の仲間だろ!!!? なら、おれ達も約束を守らねェといけねェ!! そうだよな!!!?」




 ウソップがナミの肩に手を置いた。そうして、大きな声で語られるその力強い言葉に圧倒された。

 ナミが助けられたのは一度や二度ではない。あんなに助けて貰っていたのにも関わらず、1日や2日の付き合いの名前を '' 一味の '' 仲間だとまでは思えていなかった。




「ーーー……そうね、私達は仲間だもの」






 ウソップとナミがウェイバーに乗って行くという決断をしてすぐに名前はナミとウソップの方向に防御壁を張り巡らせ簡単には破られないものを形成した。エネルは名前がいる前で迂闊に雷は使わないはずだ。エネルギーが無駄になるだけだから。

 だとしたら肉弾戦に持ち込んで、
 名前を倒す方が圧倒的に楽なはずだ。




「貴様は…また私の邪魔をするか……何故そんな雑魚の為にそこまでする…? 貴様も貴様の '' 船長 '' とやらも確かに弱くはないのだろう。しかし、私には勝てない。解っているのだろう」
「船長はあなたに勝つよ。
 あの人は海賊王になる人だから」




 名前が、その言葉を口にした瞬間。明確に空気が凍るのをウソップは肌に感じていた。空気がピリついている。それが自分にすらわかる。発言の内容が。船長を信じるその心意気が。エネルの意図とは裏腹に、重く冷たい空気を放ったのだ。そうして、今までの興味深いというような愉快な表情が諦めだとか冷徹だとか、そういうマイナスの感情の表情に一変した。その場の凍りついた空気を感じ、心の中で後悔の念が渦巻いた。本当に任せて去っていいのか。

 ウソップの質問の回答をするかのように名前はウソップに笑みを浮かべて頷くのである。




「名前! 絶ッ対にルフィを連れて来るから!! それまで絶対に死ぬんじゃねェぞ!!!」




 涙目のウソップを見つめて、そんな顔をしなくても大丈夫なのに、と。エネルを見上げる。

 なんとなく雰囲気でわかるのだろう。これが如何に無謀なのか。私の能力は持久戦でしか役に立たず、目の前の男の能力は短期決戦向けのもの。その能力を表向きのハッタリで完封したとしても、あの肉体を見る限り、いざとなれば能力なしでも戦える肉体を持っていることは容易に想像できる。




「アレが逃げられたとして、お前はどうする…偏に '' 逃げる '' といっても相手が私では…容易くないぞ………!!!」




 名前はエネルの持つ金棒を見つめて「それ、必要なの?」と首をかしげる。その様子に顔が引きつった。青筋がピクリと浮かび上がり、怒りの感情がじわじわと湧き上がる。そのうちに目を細めて、まるで獲物を狙う猛獣のように、名前を見据えた。カラン。音を立てて、手に持っていた金棒が転がった。そして、恐ろしく気まずい沈黙が生まれた後に、ヤハハ、という笑い声が響く。声も雰囲気も、表情さえも笑ってはいないエネルの顔面には鮮明に青筋が浮かび上がっていた。

 これで対等だろうとでもいうように手のひらを左右に広げたエネルは名前の表情を見た後に「哀れな罪人よ」と、拳を作った。そうしてその拳で空気を割いた。名前は反射的に防御の姿勢をとったが、その刹那、その拳が体を貫く。まるで鉄の塊が衝突したかのような衝撃に言葉にならない悲鳴が喉の奥から漏れ出る。肋骨が軋む音が耳に響き、全身の力が抜けていく感覚が広がった。ダメージを受け流せずに周囲の景色がが急速に変わっていき、ついに壁にぶつかった名前の名をナミが大きな声で叫んだ。





「ーーーナミ!! 出せ!!!
 方向こっちで良いんだな!!!?」
「え!? 待ってよ! ウソップ!!
 名前が!!!」
「あの船にはサンジがいる!!! アイツが命を賭けてまでおれ達を逃してくれてんだ!! 仲間の覚悟を仲間が踏み躙ったら終わりだろォがァ!!!!」




 ウソップはナミのまたがるウェイバーを走らせて船から下へと落ちるように船体から脱出した。

 ぐらぐらと揺れるウェイバーの上でどんどん離れていくエネルの船を見上げて、ウソップはベルトのバックルからロープを射出した。まさか、このウソップアーアアーがここまで汎用性の高いものだとは思わなかった。額に汗をにじませながら、何とか船体に固定したそれを眺めた後に、ナミの名前を呼ぶ。




「ナミ、後は任せた」
「へ、ちょっと……!!?!??」
「仲間なら…約束、守ってやれよ……!!!」




 船体とつながるロープを眺めて、何をするきだと、言いたげな表情のナミにウソップは「仲間が命賭けてんだ。俺も賭けなきゃ、男じゃねェ」と。

 ウェイバーから手を離して、勢いよく飛び降りた。







「私とともに来るのなら助けてやろう。私は神であり寛大だ。お前が首を縦に振った瞬間に、お前の全てを許そう」




 エネルは壁にめり込んだ名前にの身体を囲うようにして集まる光の集合体をエネルは観察しながら、それはそれはいい笑顔で手を差し伸べた。

 エネルの身体は鍛え抜かれた男性のもの。対して名前は、肉弾戦が得意ではなかった。出来ない訳ではない。人並みかそれ以上には出来る。ただ、いかんせん。相手が悪い。自己回復にしたってこれはまた時間がかかりそうな傷であると腹をなでた名前は無理矢理身体を動かして、地面にフラフラの身体で着地した。




「私は…仲間を見捨てて、裏切ってまで助かりたいとは思わない。殺したいのなら殺せば良い。勝てない事くらい分かっていた。でもあなたに蘇生能力がなければ私が勝っていた」
「最期の言葉はそれだけか」
「これが最期になるといいね」
「面白い事を言う」




 エネルは名前の髪を掴んで「こんな結末を望むとは」と、言葉を吐き捨てた。実に残念だ。そう呟いたその言葉は疑う余地もなく、ただ本心であった。エネルは名前の耳で赤を主張するハートの形のピアスに視線を向けて、その耳から無理矢理引きちぎった。そうして髪から手を放して、転がった女の身体にそれを投げ捨てて「秘密兵器だったな」と悪い顔をして嗤った。それを見つめて、フ、と。笑みを浮かべた名前の周りから煩わしく散っていた光が消えたとき、その効果を理解する。

 目を細め、まるで何か悪巧みでも思いついたかのような『 悪い顔 』を浮かべたエネルは右の拳を振りかぶった。力強く振り下ろしては、また高い位置で拳を握りしめた。直撃するたび、鈍い音が鳴り響き、その衝撃がエネルを喜ばせた。目の前で苦しむその顔が愉快でならなかった。その顔が己の心を満足させた。全身を駆け巡る興奮に冷酷に笑いながら、容赦なく打撃を続ける。裁きを受けろ。私を拒んだ裁きを。ついに名前が気を失ったのを確認し、最後の一撃と言わんばかりに拳を振りかざした時。何かが、それを邪魔した。




「ーーー動けない レディに手をあげるなんて…正気か……!? テメェは……!!!!」
「……これは慈悲だ。神として罪人に裁きを与え救いの手を差し伸べてやったまでのこと」




 何かが割れる音が聞こえた。そしてその音と共に視界の隅に築かれてた壁が音を立てて崩れ始める。その壁は徐々にひび割れるように揺れ、粒子が散乱していく。大きな岩が砕けるようにしてガラガラと崩れ去るその壁面から微量の光を見たとき。サンジはそれが名前により形成されていたものであることに気が付き、愕然とした。

 そしてそれが崩れ去ったと言うことは、名前の完全なる敗北の証明でもあった。ナミの件で責任を感じているのはサンジの目から見ても明らかであった。任せたなんていう自分のセリフが良くなかったのか。名前の取った行動が容易に想像できる自分に自己嫌悪で一杯になる。道具。そんな言葉が出てくるような環境で生きてきた女性に向けていいセリフではなかった。サンジは拳を強く握って、エネルをにらみつける。




「レディに手を出す様な神なら おれは絶対に信仰しねェ…習わなかったのか? 女に手を挙げる事が罪なんだよ!!! こんな美しい女神の前で、一丁前に神なんて名乗ってんじゃねェ!! クソ野郎!!!」
「ソレは私の救済を拒んだ…当然の報いだ」




 名前が気を失ったと言うことは、すなわち。エネルは制限なく雷の力を使用できるということである。

 エネルの右足が金棒の中央に接触し、足に込められた力によって、軌道を描いて、くるくる、と。空中で回転した。軽やかに一回転。二回転。三回転と勢いよく回った金棒に手を伸ばすと吸い込まれるように、その手のひらの中に収まった。




「貴様を私へ罪を言い渡すとは罪深い…死んで詫びろ、小童……裁きトール!!!」




 その掛け声とともに自らを明るい閃光が貫いた。「ドォン!!!」という音と共に、特大の雷が身体を走り抜ける。かすかに漂う焦げた匂いが鼻をつく。肉の表面は炭のように黒く、所々はひび割れている肌を見つめて、名前を見下ろした。

 意識が薄れていく中で、目の前のクソ野郎にもレディに雷を落とさない程度の常識はあったのかと鼻で笑った。実際には幾度となく雷を名前のみならず、ロビンにも打ち付けていたが、そこはサンジの知るところではない。「吠え顔かきやがれ」と。そういって笑ってその場に倒れた直後、空を飛行する船が、突然の異変に襲われた。穏やかな波間を進んでいたはずの船が、微かな震動と共に急に大きく揺れ始める。エネルは船体の異変に顔を顰めて、船の中へと消えていった。









「よォ、サンジ、名前。助けに来てやったぜ……なんちゃって…超怖ェエエ!!! つか名前の防壁固すぎだろ! アレが崩れなきゃ助けられなかっただろうが! アホか!!!」




 船に上がったウソップは視界に飛び込んできた陰惨な光景に沈黙した。無惨に地面に横たわっているサンジと名前を確認したからである。ぶわっと噴き出した汗は止まることなく、ウソップは混乱のあまり『チョッパー』の姿を無意識に探すがこんなところにいるはずもなく、サンジと名前に駆け寄った。ポイントアクセサリーであるハートのピアスを無理矢理引きちぎったのだろう耳の傷から始まり、身体中を覆う青黒い傷は、無数の折れた骨が名前の肉体を蝕んでいるのを分かりやすく示してくれていた。名前の防御壁が崩れてくれなかったら……。そう考えるだけで血の気が引いた。

 「名前…、サンジ!!!」と、仲間の名を呼ぶウソップの声は無様にも震え、言葉にできない思いが胸を締め付けていく。そんな中でただただ、名を呼ぶことしかできない自分の無力さを呪った。




「はやく…チョッパーに……」




 死んじゃいねェよな。死ぬわけねェんだ。ウソップは両手で名前の身体を抱えて背中に乗せた後、ロープで自分ごと、ぐるぐるに縛り上げた。時折聞こえる息遣いに腹の底から、名前をここまで追い込んだエネルに怒りがこみ上げたが、自分がどの程度の実力なのかなんて言うのはわかっていた。ウソップは背中に名前を乗せ、必死に立ち上がる。

 「大丈夫だぞ、名前」と声をかけて、大丈夫、大丈夫と。自分に言い聞かせるように呟きながら、一歩ずつ進んで、左手で名前を支えながら右手でサンジを何とか抱え上げた。




「おまえはこれから…おれ達と海賊王の船でたくさん旅をするんだ……地獄みたいな過去を上書きするくらいのスゲェ冒険をするんだ。必ずチョッパーがなおしてくれるからさ…だから…もう、大丈夫だぞ…」




 
 そうだ、全部終わったら東の海に行こう! おれやルフィはそこで出会ったんだ。これが終わったら、ウソップ海賊団のスゲー話をたくさん聞かせてやるよ。そこで、これからの話をたくさんしよう! おれは絶対におまえの口からもう二度と…『 道具 』なんて言葉が出ないようにするから……。だから。ウソップは思いを込めて呟いた。そうして振り絞るように手に力を入れ、2人を抱えて船から飛び降りた。

 空気抵抗を受けながら重力に逆らうことなく速度を上げて落下する己の身体をどうにか安定して着地する方法を探しながら、後ろで意識を失っている名前の身を案じた。ウソップは名前の体をしっかりと固定して、周囲を見渡す。このまま突っ込めばとんでもない着地をするだろう。なんとかして、名前だけでも……。ウソップは自分と名前の身体に巻き付けていたロープを外して、名前の身体に巻き付けた。そうして下に視線を落として、緑色をその瞳にとらえた。そうして、名前の身体を引き寄せてロープを射出する目標を定めた。失敗したら死ぬ。その緊張感がウソップの額に汗をにじませたが、このあたりの分野はウソップの得意分野である。












「やると言ったらやる奴だ。ナミが連れ戻そうとしても、あいつは戻りゃしねェ…あいつの狙うものはエネルと同じだからだ」




 ゾロはウソップの背中に抱えられた名前の姿を無言で見つめた。一度は腹に大穴を開けて。今は肌色を青紫色に変えている。くそ野郎が。ゾロは上空を見上げた後にため息をこぼした。ルフィはこの状況を見てはいないが、目の前の女の為に。そして下にいる猿山連合軍のためにも鐘を鳴らすのだろう。ゾロは上から落ちてきた大きな葉のメッセージを眺めて、刀をなでた。

 '' 巨大豆蔓ジャイアントジャックを西に切り倒せ ''

 望むところである。ロロノア・ゾロは刀に手をかけて、その木の茎を切断した。刹那。電流が全身を貫通し、激しい痛みが走る。そうして体が焼けるような感覚に意識は徐々に遠のくのを感じた。そうして、そのまま地面に倒れむ。その最中。手足を動かすことさえままならない自らの身体から名前の身体へと光が移動するのを見つめて笑う。




「( ……自動回収フルオートかよ )」

 ーーー機械女が。







 ウソップはゾロの一撃でも倒れることのない大木に頭を抱えた。そうして、目の前の大木に視線を移した。蔓の太さと密度から簡単に倒れるものではないことは容易に想像がつくーーーが。ウソップは上を見上げる。ナミとルフィは未だにここに戻らない。つまり……。あるんだろ。あったんだろ、黄金の鐘!!! 猿山連合軍おっさんたちは嘘なんかついてなかったって、証明したいんだよな!? ルフィ……!!

 ウソップは名前を地面に寝かせて、気の蔓をにらみつける。どの道、ルフィが負ければここで終わるんだ。無理だからなんだ。ダサくてもあがくのだ。漢・ウソップ!!!




「ゾロが半分斬ってくれてるし 全体は傾きかけてんだ!!! おれ様の '' 火薬星の舞い '' を炸裂させる事でヤツは大きな悲鳴と共になぎ倒されるのだ!! やはりこの海賊団…おれ様こそ砦なのだ!!!」




 ロビンはパチンコ弾を取り出したウソップを見つめて、自らも応戦しようと手を胸の前に置いた。その時。火薬星を撃ち続ける音に名前が目を開けたのを確認して名前の方に駆け寄った。その様子を見て、ウソップの視線もまた名前の方へと自然に向いた。

 身体は動かない。見かけ上、外傷は治せても内側の怪我の治りは見た目ほど早くなく、治療に時間がかかるからだ。そもそも。エネルの元へ向かった時でさえ、応急処置ギリギリの状態であった。蓄積されていたはずのエネルギー残が今は修復にかける力のせいで明らかに減少している。エネルによって、これだけのエネルギーが行使されているにもかかわらず、である。




「ハァ…ハァ!! 畜生 なんなんだビクともしねェ! 本当に植物か!!? はは…、すまねェ、名前…起こしちまったか? ちょっと今立て込んでてよ…でも安心したまえ、これを倒せば おっさんは嘘つきじゃないって証明できるんだ!! よォし……まってろ、今度は3連…」
「ーーー……ウソップ」
「! おま……動いて平気なのか!!!?」
「……その弾貸して」




 名前は手渡された火薬球をじっと見つめる。所謂、通常の火薬弾であるそれは、目の前の蔓を焼き切るにはあまりにも火力不足である。名前は息を深く吸い込み、目を閉じた。自分の能力であれば、あの蔓の細胞を破壊・・できる。フルオートでのエネルギーはもう完全に枯渇しているが、これだけ大気中にエネルの放ったエネルギーが散っているのだ。意識的に回収すれば、この蔓を焼き切るくらいの威力は付与できるだろうか。自分の能力で細胞を破壊して、この火薬弾で蔓を焼き切る。可能だろうか。この、大きさの火薬弾に。

 周囲の空気がゆっくりと変わる。その様子にワイパーは「無茶苦茶だ…なぜ止めない!」と、ロビンの方に顔を向けたが、ロビンは首を振った。そうして、大気中から雷のエネルギーを集め、バチンバチンと激しい音を立てている名前の姿を見つめた。




「400年前…青海で ある探検家が『 黄金郷を見た 』とウソをついた。世間は笑ったけれど、彼の子孫たちは彼の言葉を信じ、今でもずっと '' 青海 '' で黄金郷を探し続けてる」




 黄金の鐘を鳴らせば '' 黄金郷 '' が空にあったと彼らに伝えられる '' 麦わら '' の あのコはそう考えてる。素敵な理由じゃない?

 ーーーロマンがあって。




  キラキラとした金色の光が名前を取り囲むのを見つめたロビンは、その光景に目を細くした。そうして少しずつ、確実に名前の手のひらに集まっていく眩い光を見つめて「こんな状況なのにね…脱出の好機を棒に振ってまで…どうかしてるわ…」と、続けた。ワイパーはロビンの言葉に目を丸くしてから、相変わらずバチバチと音を立てている名前に視線を滑らせた。火薬球に光が一気に注がれる その神秘的な光景に「そいつの…子孫の名は……」と呟く。

 名前の体からほとばしる金色の光の粒が指先から流れ出し、火薬弾が次第に壮大なオーラを放つ。光を受け取った火薬弾は生きているかのように脈動し、名前が遂にそれをウソップに託した。




「…………モンブラン・・・・・・クリケット……。彼は、あのコに初めて『 番犬 』以外の道を初めて示してくれた恩人なのよ」




 だから私には止められない。
 
 ロビンの言葉にワイパーは名前の姿を見つめて息をのんだ。そうして、モンブラン・クリケットの名前を復唱して呟いた。ならば 400年前の……!!先祖の名はノーランドか、と。






 ウソップは脈動するたびに光を揺らす火薬弾を握りしめた。手に伝わる振動が。温かさが。重みが。目の前の火薬弾が、もはやただの道具ではなく、名前の魂が込められた『 武器 』であることを示していた。

 ごくり。ウソップが喉を鳴らして、自らの武器のゴムを強く引いて的を定めた。




「必殺!! '' 火薬星デラックス '' !!!」




 ゴムを引く手を離した。弾はその勢いに乗って、空気を切り裂きながら、目の前にある蔓へ向かって飛翔した。火薬弾が太い木の蔓に近づくにつれ、ウソップの緊張感が高まる。そんな状況下で、弾が蔓の中心で炸裂した。轟音と共に、まばゆい閃光が広がり、蔓は乾燥した葉のように、音も無く弾け飛んでいく。太い幹が瞬時に燃え上がり、黒い煙を上げていく。しかし、木は倒れない。

 ウソップは拳を強く握ったまま、目を丸くして固まった。迷ってしまった。直前で。こんなものを本当に自分の力でどうにかできるのかと手心を加えて手を離したから勢いが足りなかったのだ。体の熱が静かに引いていく中で、ワイパーがウソップの横を駆け抜けた。ウソップは残り僅かまで焼却されている蔓に向かって駆け出したワイパーの姿を呆然と見つめていた。




「 '' 排撃リジェクト ''!!!」




 ウソップは火薬弾の残骸がまだ燃え盛っている その場所を見つめながら息を呑む。男のその声と共に放たれた見事な一撃が炎の熱を帯びていた蔓の炎を一瞬にして消し去り、蔓を吹き飛ばした。

 ワイパーの一撃によって吹き飛ばされた蔓は「めきめき」と耳障りな音を立て始める。そして、その音は時間を置くごとにジリジリと大きくなり、周囲の静寂を破る。傾き始めたそれを見上げて、ウソップはその迫力に圧倒される。




「倒れるぞォ〜〜!!!!」




 その言葉にロビンがウソップの後ろで倒れている名前の身体を己の能力を使用して覆うようにして包み込み、ウソップは視界の端にそれをとらえ、思い出したように振り返った。




「ーーー名前!!!」
「長鼻くん、あまり揺らしてはダメよ。彼女、骨が何本も折れているわ。それに凄く呼吸が浅くなってきている。とても危険な状態よ」




 ロビンが横たわる名前の姿を見つめて言った。その身体には、鮮やかな赤色が点々と衣服に散らばっており、切り傷や打撲が無惨に広がっている。先程、エネルギーを集中的にあつめていた右手だけが不自然なくらい綺麗な状態であった。

 ……酷いことするわね。

 そして肋骨にできたかすかな凸凹をみつめて、ロビンはやり切れない表情を浮かべて、その肌をなでた。




「……彼女が自分の意志で治療するタイプの能力者なら、きっともう死んでいたでしょうね」










 サンジはチョッパーの隣で地面に横たわる名前の姿を見つめていた。自分の判断の結果がこれである。その事実に心臓が締め付けられるような痛みが広がった。チョッパーは分かりやすく名前の件に気を落とすサンジに『 サンジのせいではない 』と説いたが、原因の片棒を担いでいるのは事実であるとチョッパーに力なく笑って返し、外で呑気に宴をやっている仲間の姿を遠目から眺めて「呑気なもんだな」と呟く。

 その言葉にチョッパーは「あいつらなりの気の紛らわし方なんだ」とサンジに返して名前の傍にあるハートの形のピアスを眺めた。




「……猿山連合軍おっさんたちが嘘つきじゃなかった事を、ほんとは一番に名前に報告したかったはずなんだ」




 ナミと共に自分たちと合流した船長の顔を思い出した。ハートの形のピアスを揺らして、嬉しそうに自分たちに手を振ったルフィの呑気な笑顔が後ろにいた名前の姿を映した時、きれいに消えた。おまえたちがいながら何をしていたのか、とでも言われているかのような沈黙ののちに、ルフィはチョッパーにピアスを押し付けて眉間にしわを深く刻んだ。どうしてこんなことに、だとか。仲間を責める言葉を一言も告げることなく、名前に背を向けたルフィの姿を思い出して、サンジも自分の無力さに吐き気がした。

 口元を覆って再度視線を移した名前を見つめて、目を細める。道具。道具か……。サンジは名前のその言葉を思い出して、胸に迫る感情を抑えきれず、手が自然と名前の頬に伸びた。




「……頼むからさ…
 早く、目を覚ましてくれ」




 サンジは涙がこぼれそうになるのを堪えながら、金色の光に包まれる名前の姿を静かに見つめた。













 ゾロは意識不明のまま目を開けない名前の姿を椅子に座って、静かに見守っていた。両手に重りを用意して、静かな空間で行う筋肉トレーニングはなかなかに集中できる。時折、呼吸の音に耳を傾けながら、気が向いたときに様子を見る。そんなことを続けていた。

 その時のことである。
 名前のまぶたがゆっくりと開かれる。




「……あ」
「……おう」




 何故いま目を覚ましたのか。ゾロの思いはそこに一直線であった。名前が目を覚ますまで、空島にとどまるわけにもいかず船を出したルフィ達はチョッパーを中心に順番に名前の様子を見る事になっていた。そして今日のこの時間はゾロの担当時間であった。ほんのつい数分前まではチョッパー、その前はナミ。目を覚まさなそうだからと、早めに終わらせてしまおうと今来た自分を恨んだ。

 どう反応すべきか お互いにわからずに言葉を失ってしまった2人の間には気まずい沈黙が流れる。お互いに発言の機会を逃した結果、かえって気まずさを引き立ててしまっているのだ。




「チョッパーを呼んでくる。
 ……そこで大人しく寝てろ」
「ありがとう、剣士さん」




 この空気に耐えられず、言葉を出したのはゾロであった。目が合った瞬間、自分に対して礼を述べる目の前の女にゾロは軽く手を挙げて一刻も早くその場から退出した。ゾロは部屋から退出して、チョッパーのもとへと向かうまでの間に、ふう、と息を吐きだした。この船のクルーはゾロが考えている以上に名前に仲間意識を抱いているようであった。あの警戒心が強いナミまでもが名前に仲間意識を抱いているのだから相当だろう。

 その後、ゾロが医務室に戻ってくることはなく、代わりにルフィとウソップ、チョッパーが部屋に顔を出した。ウソップとチョッパーは名前が目を開けている姿を見て「目を覚ましたのか」と、興奮した声を上げ、名前の周りを跳ね回った。そうして名前を取り囲むようにして、涙を流して喜ぶ2人と名前の姿を見つめ、ルフィはムスッと不機嫌そうな顔をして名前を見下ろして、手を差し出した。その手のひらの上にはルフィがエネルより奪い返した赤色のピアスが乗せられており、名前はそれを見つめるなり、目を丸めてルフィを見上げた。




「1人でやるな。仲間を頼れ」




 ルフィは名前の手を取ってピアスをその手に握らせた。名前はルフィの不快感がにじむ その表情に首を傾げたが、ルフィは「約束だからな!!」と、無理矢理名前の小指と自分の小指を絡める。チョッパーもサンジが怒ってた。そういう言葉を続けて「おれの知らないとこで死ぬな」と、心に呼びかけるように、名前に言った。

 どうやら、物凄く心配をかけたらしいことだけを理解した名前はルフィの小指を見つめて、小さくうなずいた。




「お前が何しようと言おうと関係ねェ…でも勝手に死ぬのは許さん!! 危ない時は おれを呼べ! 仲間を巻き込め!! おれはお前が死んだら悲しい!」




 怒りと悲しみがともに吐き出される その言葉には力が帯びていた。拳を震わせた我が船の船長の姿を見つめて、ウソップは名前の無茶苦茶な行動を思い出し、心が軋む。目の前にいないから助けられなかった無力感を抱えたルフィと目の前にいながらも、ただただ助けられていた自分の無力感は全く異なっているのだろう。それでもその感情が理解できた。自分の無力と何もできない現実に心底腹が立った。どうしようもできないのに名前にすがることしかできない 己の弱さにも。

 名前がルフィの小指を見つめたまま「…でも……あの時は、」と、口を開く。その表情を見ればわかる。何も理解していないのだと。表面上は理解しているという様子を見せる癖に、その実目の前の人間が理解しているものは自分の怒りの感情だけで、それに対しての弁明がこれから行われるだろう事が容易に想像できた。




「お前は仲間を何だと思ってんだ……!!」




 ルフィの怒りが一気に溢れ出た。

 その様子にチョッパーとウソップは肩を揺らして、名前とルフィを交互に見つめた。




「お前が死んだら おれ達は地獄だろうが相手が神だろうが、お前の仇を取りに行くぞ! おっさんと約束しただろ! お前はココに死にに来たのか!? 最高の占い師になるためにきたんだろ!! 出来ないじゃねェ…! 出来なくてもやれ! 意地でも死ぬな!!!」

 ーーー……お前の命だけを背負わすのは仲間じゃねェ!! 仲間になるなら、ついでにおれ達の命も背負ってみろ!!!




 名前は驚いたように顔を上げ、ルフィを見つめ返す。その視線には、どこか怒りと心配の他にどこか弱々しさが残っており、思わず手が震える。心配どころか私に自分を守って貰おうとする船長。占いに頼りきりの船長。自分の命を大切にしろだなんて言われた事がなかった。

 だって私は使い勝手のいい『 道具 』で、
 最悪替えの利く代用品だから。




「……でも…でも、
 アレをあなたが倒すのは解ってた」




 必死に今回の件は問題のない行動であったと伝えようとする名前を見つめて、だからあそこまでルフィを信じる発言が出来たのか、と。ウソップだけが、名前の一生懸命な言葉の内容の意味を納得したが、ルフィの方は我慢の限界であった。なぜわからないのか。お前が大切で失いたくないという、ただそれだけの感情がこんなにも届かないのだ。「お ま え は !!!」と、ルフィが声を大にして叫び、絡めていた小指から手を放し、その手で名前の胸倉を掴んだ。

 掴まれた胸ぐらに名前は目を丸くして沈黙した。何が問題なのか。わからないのだ。結果として、仲間は皆生存しており、自分も皆も無事なのに。




「お前は何で1人で未来見てんだ!! お前がいるのは '' 今 '' で未来じゃねェだろ……!! おれはお前の見た未来を聞いてるんじゃねェぞ。お前の言葉を聞いてんだ!!!!」




 その空間に静寂が流れる。名前はルフィの言葉に完全に沈黙し、チョッパーとウソップもまた、ルフィの気持ちが理解できるだけに間に入ることができないでいた。もう二度と、こんなことになってはいけない。けれど、名前はきっと。いまのままではこの先もずっと、同じことをするだろう。それがわかるから。

 ルフィと名前の言い争いは部屋の外にも聞こえていた。部屋の外でナミとサンジは扉の向こうから聞こえてくる やりとりに心を痛めていた。そして「だって需要がない」と。ルフィの言葉の後に続けられた言葉に視線を落とした。ルフィは名前の口から発せられた その言葉に発言しようとした 言葉をのみこんだ。正確には、言葉が出なかった。誰かが名前がそういう風に考えるように圧力をかけ続けたのだ。こういう行動が当たり前であると刷り込んだのだ。




「おれが……。おれがお前を必要だって言ってんだろ…!!! お前の価値を決めるのはお前じゃなくて お前以外おれたちだ!!!」
「!」
「もっぺん言うぞ!! 占い師とかそんなモン全部なくったって おれはお前を仲間にしたい!! おれ達の命背負えるんなら、おれ達について来い!!!」




 お前が必要だ。お前がいなきゃ、おれは悲しい。繰り返される その言葉が名前の心に渦巻く複雑な感情を引き起こしていた。意味がわからず混乱する一方で、心の奥深くにある『 必要とされる 』という感覚が引き起こされ、胸が苦しくなる。『 仲間 』。その概念がゆっくりと覆されていく妙な感覚に心がざわついた。名前は理解のできない感情にウソップとチョッパーに助けを求めるが、2人は名前の顔を見て、大きくうなずくだけであった。感情を整理しきれない名前の姿にウソップがいう。「言ったろ、ルフィは お前を『 道具 』になんてしちゃくれねェんだ」と。その言葉に名前は目を丸くして、恐る恐る自分の胸ぐらに置かれた手に両手を重ね、ふわっとした笑みを浮かべて頷いた。

 その瞬間、部屋の中にあった緊張が解け、温かな空気が流れ込む。ルフィは、にしし、と満足そうな笑みを浮かべて、名前の頭を撫で、その様子を見つめて、ウソップとチョッパーが名前とルフィに対して、どうなるかと思ったと不安を漏らして泣いている。その様子を外から伺っていたナミが扉に手をかけたところでサンジによる制止が入り首をかしげる。




「もう少し、待ってあげよう」




 サンジの名前を思いやる柔らかく思いやりにあふれる言葉にナミもまた「そうね」と再度扉に背を向けて歩き出した。

 サンジのことだから、目を覚ましてすぐの名前に情報整理をさせる時間を渡すべきだという判断だろう。ナミはサンジを振り返って「ルフィはそういうの考えないものね〜」と笑った。それがいいところでもあるのがね。サンジの返す言葉にナミは軽く後ろを振り返り大きく頷いた。










「さて、ここからが本題ねっ!! 実は名前が寝ている間にお宝をサクッと手に入れてきたのよね〜……と、言う事で海賊のお宝は山分けと決まっているわ!! これだけの黄金だもの、すごい額よ!」




 名前はナミの目の前に広げられた宝の山に目を丸めた。あんなにも何もなさそうであった島から、これほどの宝が回収できるとは素直に驚きである。テーブルの上には名前の想像の何倍もの輝きであふれている。

 これだけの宝をサクッと……。名前はその量に感心しながら、うんうんと首を縦に振った。




「まず、私のへそくりが8割…って言いたいところだけど、名前には何度も助けられたから、そのうちの3割は名前にあげるわ…」
「「「「「いや ちょっと…」」」」」
「冗談よ」




 ナミのあまりにも利己的な発言に、当たり前だ!とか、そんなおおっぴらなヘソクリがあってたまるか!!!という野次が数々飛び出す中で冗談であると冷静に返したナミが名前の方を向いて「もちろん、半分くらい本気だったけどね」と可愛らしく舌を出して笑った。




名前あんたは…服が必要ね……」
「私は服にこだわりはないから平気」
「ダメよっ!! あんたこの先も絶対に無茶ばっかりしてす〜〜ぐ服とかダメにするんでしょ! それに、ウソップだってかわいい服着てる名前の方がテンションが上がるって言ってたし」
「いやいやいや。そんな絶妙に言ってそうなセリフを おれにあてはめるなよ…!!!」
「はァン??? おまえまさか…可愛い可愛い服着た名前ちゅわんにテンションがあがらないって……そういいてェのか…? 表に出ろ! 長ッ鼻ァ!!」
「言ってねェわ!!!!」




 喧嘩を一方的に始めるサンジにそのうちウソップが本格的に乗っかった。2人は互いの交わることのない意見をぶつけ合い、言い争いはどんどんエスカレートしていき、そうしてこの無意味な言い争いはついに互いを言葉の刃で傷つけていく。

 そして最終的には、どう考えても名前と仲が良いウソップに軍配があがり、大層悔しそうな顔をしたサンジは強く拳を握りしめて口を開いた。




「おれなんていまだに名前も呼んでもらえず、笑顔も見れず…泣きそうな顔か真顔しか…」




 おろおろと大袈裟に涙を流す真似を始めたサンジは両手を顔の横に広げ、大げさに目を潤ませる仕草を演じて、ナミとウソップからの冷ややかな視線を一身に受けている。その様子に名前は、くすくす、と微笑みを見せていたが、当の本人が気が付くことはなかった。

 そのうちにタイミングを見て、チョッパーが名前に次の町でともに本を見に行こうと提案し、名前が嬉しそうにうなずいたのを見つめて、しまった先を越された!! と、思ったのはサンジだけではない。ナミもボディーガードとして名前を横に置いて買い物がしたかったし、あわよくば名前の服も見る予定だった。しかし、それもチョッパーが相手では勝てないだろう。一同は早々に気持ちを切り替えて、次の目的地に向けて旅の準備にとりかかった。






ーーー 空島編 完結 ーーー






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Espoir