
エゴイスト達の戦場
「ーーー……ドリームマッチですか?」
「どこかの馬鹿の『普段共に行動しない隊員とも上手く連携を取れた方がいいだろう』って提案が通ったらしいよ」
「真木さんも参加するの?」
「話を聞く限り、形式上は自由参加みたいだけど、ある程度の規定があるから参加せざる得ないと思ってる」
今回のイベントは戦力の偏り云々を考え、ある程度のルールが設けられているらしい。真木さんはイベントだからと当たり前のように話しているけれど、遠征選抜でもないのに、よくもまあ、こんなイベントを鬼怒田さんが許したものだ。まあ、滅茶苦茶反対したに違いない。しかし、こんなとんでもない案が通ってしまったということは……恐らく、真木さんのいう『どこかの馬鹿』にあたる人が関係しているに違いなかった。
それはおいておくとして、真木さんが言うには『今回のイベントは参加自由』ーーーなのだけれど、まず最初にA級部隊からある程度参加者を募ってから募集がかけられるらしい。C級に関しては、まだそのレベルに到達していないことが予想されるため、参加は不可で見学が主。B級は参加自体は可能だけれど、人数次第では中位グループ以上からと制限がかかる可能性もあるらしい。そのあたりの詳しい事情に関しては、自分達には関係ないからと あまり教えてもらえなかった。
「じゃあ、同じ部隊の人が今回のイベントで同じ部隊になる事はないって事か……。まあ参加しない私には関係ないですが」
「このページに記載のある『部隊長推薦』。このルールが凄く厄介な内容になってるから、名前は参加せざる得ないと思うけど」
「なんでですか?」
「今回のイベントは、『A級相当の実力あり』。そう判断された参加希望者の参加を締め切った後に人数と名簿を確認した上で上層部が特別会議を開くみたいなんだけど」
その会議では実績、トリオン、指揮能力。真木さんが事前に得た情報から考察すると、諸々を考慮したうえで、部隊数と部隊長が決定するのだろうということらしい。そして部隊長になった人には報告が届き、それから開始日1週間前までに希望する隊員を1人だけ部隊に引き入れることができるのだとか。ちなみにこの1枠を部隊長が選べるというルールは普通に決定事項のルールのようだ。しかしまあ……。その制度が私にとって厄介だとは思えない。私の戦力を必要とする人なんて、本当に限られた人数しかいないだろう。なんならいないのではないだろうか。私を必要だと言ってくれる人なんて、真木さんと冬島隊長くらいなものだろう。けれど、その冬島隊の2人も私と同じ部隊のため推薦の権利を持たない。それに、考えてみれば 忙しいA級隊員が このイベントに態々参加するとも思えなかった。(一部戦闘狂を除く)。
そうなると参加するのは、A級なら太刀川さんとかくらいしか思いつかない。なので、結局私には全く関係がないのである。私に推薦なんてするのは勝ちに走らない部隊だけ。考えようによっては、それでもいいのかもわからないけれど、私を推薦するのはやめてほしいし、血迷わないでほしい。
「おはようございま〜〜す!」
「おー、お前宛に大量のファンレターが届いてるぜ。別名『地獄への招待状』だな」
「ファンレター? 私、メディアに顔だしたことありましたっけ? 覚えてないな……」
当真勇は、やれやれといった表情を浮かべて苗字名前の机の上を指さした。当真勇が指さしたタイミングで自然と机の上に視線が向いた名前の視界に飛び込んできたのは『推薦状』と、記載されてる封筒だった。かなり上質なものであるということは視覚だけでも理解できたが、手にとって確認すると『高級そうな封筒』だと漠然とした印象をもっていたソレが高級そうなのではなく、『高級な封筒』であることが容易に理解できた。
その無駄に高級な素材から生まれたであろう封筒は開けてしまうのが勿体ないくらいしっかりとした封蝋で閉じられており、名前は顔を引き攣らせるが、すぐ横に視線を滑らせると当真勇がなんの遠慮もしないでビリビリと封筒を開ける姿が視界に入り、あまりにも遠慮のない その様子と物怖じしない その態度に尊敬すらする。正直、開きたくないというのが本音ではあったが、黒やら茶色やらの封筒を恐る恐る手にとって裏面を確認する。A級の……、しかも滅茶苦茶知っている名前がしっかりと記されている。この人参加するの? 思わず、そう思ってしまう人の名まで記されている。
「流石に吃驚してるんだぜ? 選ばれた部隊長は8人って言われてんのに、そのうちの半分をお前が持っていきやがる」
「苗字は優秀だからな、鼻が高いよ」
「発案者の太刀川さんが、あれだけ『同じ部隊禁止』って喚き散らしておいて名前を選ばないわけがないから想像はしてたけどね」
「あれはウザかったよなー」
「今度またキツくいっておくよ」
「頼むぜ、冬島さん」
うそだろ、コイツら。この私の不幸をヘラヘラと笑っていやがる。なんていう神経だ……。信じられない。苗字名前は驚きのあまり、表情を消した。最も驚いたのは、人の不幸に対して満足げに話をする冬島隊なのだけれど、発案者が太刀川慶だったという事実も少なからず驚いた。何故ならば、それが本当だとするのであれば、以前に真木理佐の口から聞いた『どこかの馬鹿』がイコールで太刀川慶であった事を示しているからである。真木さん……。前々から、恐れ知らずなところがあるとは思っていたけれど、あの太刀川さんを『どこかの馬鹿』と表現するのは流石に強者すぎる。
苗字名前は手元にある封筒の数を数える。当真勇が『8人いる部隊長の半分』を自分が持っていったと口にしたからである。とても信じたくはない現実だった。しかし、当真勇の言葉は真実で、手元にはしっかりと4枚の封筒があった。何度数え直しても数字が変わることがないので、受け入れざる得ないらしい。そして当真先輩の机の上にも1枚ーーーという事は、当真勇もこれに参加するらしい。もう既に軽く戦意喪失ものの案件である。命令ではないのならば、とても参加する気にはなれない。
「……当真先輩も推薦きていたんですね」
「あー、俺は風間さんから」
「えっ!? 風間さんも参加するの!? なにその絶対的安心感!! ずるいじゃん!」
「お前にもヤバイ奴から結構きてたじゃねーか。太刀川さんとかそのへん」
「太刀川さんは私のこと守ってくれなかったじゃん!! 思い出してよ、防衛任務後の玉狛襲撃失敗事件を!」
「あれはウケたわー」
「最低かよ!! おまえ!!!」
それから苗字名前は考えて、考えて考えた。そして考えぬいた結果、封筒が手元に届いてから相当な時間を削ってしまった。もしも、これで必要がないといわれたのならば、その時はおとなしく辞退すればいいだけの話だ。苗字名前は、いま大きな扉の前に立っている。そして、右手には真っ黒の封筒が握られている。差出人『太刀川慶』。部隊長として選ばれた隊員に任命された隊員は、このイベントの参加推薦を必ず受けなければならない。そこには正当な理由がない限り拒否権は存在せず、まず殆どの場合強制的に参加を義務付けられている。本当ならば、苗字名前にだって正当な理由くらい いくらでも用意ができた。しかし、それをしなかった理由。それは、ただ目の前にぶら下がっているお金に釣られたからに他ならない。
本当に届いてから2、3日は真剣に正当な辞退理由の制作に励んでいたのだ。しかし、さあ辞退を申し出よう。そう思い、忍田本部長の元を訪ねたところ、会話がそれはもう無駄に弾んだ。驚くほど弾んでしまったのだ。『1位、2位、3位の部隊には金一封』という極秘の情報を手に入れてしまうくらいには会話が弾んだのだった。それを聞いてしまっては、もう後には引けなかった。何故ならば、先ほども前述したように今回の戦いは『目の前にぶら下がるお金を取る』くらい条件のいいものだったからである。何故ならば、太刀川慶は参加するが『迅悠一』は参加しないから。もちろん、他の参加者の中にも気の抜けない相手はいるだろう。だからこそ、1番火力の高い 太刀川さんの推薦を受けることにしたのだ。絶対に負けられないから。
「ん〜〜?苗字名前ちゃん?」
「あ、国近先輩!!こんにちは!」
「もしかして、出水くんに用事?」
作戦室の扉を開いたのは国近柚宇だった。国近の姿を確認した名前は、まだ開くはずではなかった作戦室の扉の向こう側から姿を現した国近柚宇に心臓が跳ねた。心の準備をしてから入ろうと思っていたからこそ、余計にその驚きは凄まじかったが、名前の その『心の準備』に痺れを切らしたからこそ、国近柚宇が扉を開けたのだということはいうまでもない。A級1位であるとはいえ、流石に作戦室やその近辺に動体感知やらといった高性能のシステムを導入してはいない。しかし、それでも名前の存在については、すぐに確認ができた。SNSを通じて友人から連絡が舞い込んで来ていたからである。基本的には、まだ部隊に所属をしていないオペレーター達からの連絡だったが、それが国近の元に届いたのは今から実に10分程度前だった。
いつから待っていたのかは定かではないが、それなりに寒い今の時期に可愛い可愛い苗字名前ちゃんが太刀川隊作戦室の前で10分以上も立ち尽くしているなんて、こりゃいかん。そう思っての行動である。
「今日は太刀川隊長に用事なんです。今度あるイベントの推薦を受けますっていう書類を持ってきたんですけど……」
「太刀川さんにしたんだ。絶対喜ぶよ。名前ちゃんと組むんだって凄い騒いでいたもん」
「それもこれも金一封の為ですね!」
「名前ちゃんって思ってたよりもガメツイ子だよね〜。もちろん、そんな名前ちゃんも可愛いと思うよ、ナイスキャラ〜〜」
太刀川さんなら座って待っていれば そのうちくるからと国近柚宇によって案内された作戦室のソファに名前が腰を下ろすのを確認した国近は「(てっきり、出水くんだと思っていたのに)」と大変意外そうな表情をして名前を見つめる。
その一方で、名前は久しぶりに入室した太刀川隊の作戦室を一通り見渡していた。前に、嵐山隊の作戦室に入った時にも同様の感想を抱いたが、やはり自分のところの作戦室とは随分と違うな。各部隊の作戦室の雰囲気が違うことに関しては、そこを使用している人が異なっているわけだから、当然と言われれば当然のことなのだけれど、考えずにはいられない。
「柚宇さー……ん?」
突然の声に名前が肩を揺らして 振り返ると太刀川慶でも、国近柚宇でもなく。たった今、作戦室にもどった出水公平だった。今日は割と早い時間に訪れたつもりだったから、暫くは誰も来ない予想していたのにも関わらず、国近柚宇と出水公平がこんなにも早くボーダーに訪れているという事実に名前は驚きを隠せない。当真勇から話を聞いていた限りでは、国近柚宇という人間は『のほほ〜ん』で『ぼやぼや』という意味不明な人間だった。それを解読するのは、それなりに至難の業だった。しかし、恐らくは『素早くなにかをするタイプではない』のだろう。そう考えていたというのに、これは自分の読み間違いか。不甲斐ないばかりである。
見事に予想全敗中の名前は『もしかしたら、太刀川隊は自分の予想に反して、いつも こんなに早くからボーダーに来ているのかもしれない。やる気がすごいな』と、素敵な仮定を立てるけれど、実際には国近柚宇は『徹夜でゲームをしていたからずっとここにいた。』出水公平は『現在の期間に限って、苗字名前の返答を聞く為に早くきていた』だけであり、元の予想もそこまで大きく外してはいないのだが、恐らく、それを知る機会はやってこないだろう。
「おお!! もしかして、お前推薦を受けに来たの? おれと太刀川さんどっち?」
「えっ、と……太刀川さんです」
「くぁあ!! マジか! じゃあ推薦隊員から選び直しかよ。今更誰が空いてるかなー。お前何人から推薦来た?」
「4人だったと思いますけど……」
「ということは 最高で5人の推薦者が決まってんのかー。くっそー、出遅れた」
お前がいてくれれば、そこそこ良い線いけるっていう算段だったのにと口にして さりげなく苗字名前の隣に座った出水公平に名前は『先輩が部隊長だとは思わなかったので少しだけ驚いた』というような内容を伝える。すると、割と自己評価が高い出水公平にしては珍しく「おれも驚いた」とこたえる。
「しかし、まあ……お前に4人も推薦集まったのは おれも運が良かったなー」
「なんでですか?」
「このイベント部隊長と推薦隊員が公開されたら他の枠は立候補とスカウトで決めるから、早く決まれば それだけ好きなやつが取れるって仕組みらしいぜ」
「うわあ……。そういう決まり事があると面倒ですね。出水先輩早く推薦出さないと」
「いま槍バカにメッセ飛ばした」
「……こういう仕事は早いんですね…」
しかし、ひとつだけ疑問がある。推薦した相手が推薦されていた場合はどうするのだろう。その場合には、なにか具体的な対策があるのだろうか。出水公平に尋ねた。出水は名前の疑問に対しての回答を知っていた。しかし、それを言葉で説明するのは少々面倒だった。それに出水公平は言葉で説明するよりもずっとわかりやすい方法を知っている。知っているからこそ、先程開発室から借りてきたタブレットの電源を入れて、今回のイベントの為だけに用意されたアプリを立ち上げる。
そこには、各部隊長の名前があった。推薦枠の隊員が確保できた隊長の名前は青色。決まっていない隊長の名前は黒らしい。出水公平の雑な説明からでも、それだけは理解できた。しかも、青色表示の隊長の名前をクリックすると推薦隊員が表示されるという仕組みになっており、ぱっと見ただけで、どの部隊が決まっていて、どの部隊が決まっていないのかがわかるようになっている。そのうえに名前をタップするだけで、推薦した隊員の名前までわかるのだから、すごい。クオリティの無駄遣いにも程があるとは思うけれど。
「げっ、風間さんが当真さん持ってったのかよ。この部隊の安心感ヤバくね?」
「私も全く同じ考えです……。私も風間さんに選ばれたかった。守ってほしい」
「あー……太刀川さんは、お前のこと守んないだろうなー。あの人 お前のことは確かにお気に入りだけど目の前の敵一筋だし」
「そして謎に私への評価が高い……」
「おれらの部隊は割と本気で お前の評価高いからマジで気をつけろ。普通にお前なら出来るって言われて見捨てられる」
風間さんが今回のようなイベントに参加するのは意外だという言葉を口にした出水公平が『風間蒼也』の名前をタップし、表示される名前はご存知の通り『当真勇』である。冬島隊の得点源であるエースの名前だ。風間さんに当真先輩。この組み合わせの絶対的安心感は尋常じゃあなかった。後ろから当真先輩が支援してくれる。その言葉の謎の安心感は尋常じゃあないのだ。この部隊であれば、他にどんな駒をおいてもうまく回るに違いない。例えば、風間さんを中心として戦うのであれば、後ろから援護できる要因を配置するのもいい。配置人数を1人に決めて、オペレーターの仕事の負担をなるべく少なくするという方法もいいと思う。いいなあ、この部隊ーーーと。ここまで説明したように風間さんが隊長を務める『風間隊』の他にも、既に推薦する隊員を決めた部隊がいくつか存在する。風間さんの部隊を抜くと、嵐山さん、東さん、加古さんの部隊がそれに該当する。太刀川さんの名前の色が未だに黒色なのは、私が書類を書くのに多くの時間を費やした挙句、太刀川さんのところに持参したのは今日だからだろう。太刀川さんと合流次第すぐにでも書類を本部長に提出しなければいけない……。であれば、鉄壁の守りが私には必要だ。太刀川さんが最強の矛だというのならば、最強の盾が欲しい。
苗字名前は、どこまでも慎重だった。そして、ここ最近の苗字名前にしては珍しく、多分この場にいる誰にも想像ができないくらい真剣に勝ちに拘っていた。敢えてもう一度いうが、彼女がこのイベントに参加した理由は『本部から支給される金一封』。これなのである。だからこそ、勝つ為に後で本当に太刀川慶と会議をしなければいけない。心の底から、そのように思う。一番はもちろん、本来の目的である『金一封』だけれど、苗字名前は狙撃手。そして、なによりも。今回のイベントはA級ランク戦よりも荒れそうな隊員で構成された部隊が揃うことが予想される。つまり、最強の盾でもいない限り、確実に瞬殺される。根拠はある。一体、各部隊長に なにを言ったのかは不明だけれど、普段は外から傍観している『加古望』や『風間蒼也』。そして、今回は何故か『東春秋』というビッグネームが揃っているのだ。普段、組むことの出来ない隊員と正式に部隊として活動できる このイベントが、そんなにも魅力的だったのだろうか。
「名前ちゃん、名前ちゃん。今、和菓子とケーキがあるんだけど どっちが好き?折角だから一緒に食べようじゃないか〜〜」
「あ、全然!! お構いなく!」
「いや いいよ、食ってけって。どうせ 唯我が持ってくるから溜まってるやつだし」
「そうなんですか? じゃあーーー」
ケーキにしようかな。苗字名前がケーキに視線を向けると、丁度良いところで作戦室の扉が開き、扉の向こう側にいる太刀川慶と見事に視線が交わる。そして、視線が交わったかと思えば、早足で名前と出水公平の向かい側に腰を下ろし、2人を見定めるかのような視線をおくる。その一方で、太刀川慶の出現により、質問を遮られた国近柚宇は頬を膨らませて 太刀川さんに不満をたれていた。
やがて、そのしつこく物言いたげな煩わしい視線を送られ続けた出水公平が遂に痺れを切らして「太刀川さんに推薦の件で話があるみたいですけど」と渋々の態度で目を細めながら口にした。大変、気分が悪い。自分だって『苗字名前』を推薦隊員に選んでいたというのに、まさか自分の口から改めて自分が選ばれなかったと遠回しに口にしなければならないとは思いもしなかった。不満げな出水公平を視界に入れないくせに言葉だけは確かに受け止めた太刀川は先程の煩わしい視線を送るのをやめて「そうかそうか!」と手のひらを返したようにハツラツとした笑顔をつくって名前の頭を大きな手で嬉しそうに乱暴に撫でた。その時、その光景を見ていた出水公平の表情はお世辞にも穏やかとはいえない。
ここまでが遡る事数分前の話である。
あの後、本部長に推薦隊員を受けるという書類を提出した名前はラウンジで食べ物をつつきながら、他の隊員の候補について話をしているーーーというのに、太刀川は名前に対して「俺とおまえがいれば勝てる!」と自信満々に宣った。苗字名前に言わせれば『無理』の一言に尽きる。そもそも、今回のイベントには通常考えられないような そうそうたる面々が揃っている。それは太刀川慶も理解しているはずだ。それなのにも関わらず、2人だけで挑むだなんて何事だ。どれほど周りをナメていたら そのような発言が飛び出すのだろうか。信じられない。
「わかりました。それじゃあ二宮さんをスカウトしに行きましょう。これで、私の身は安心なので文句はありません!!」
「お前それ多分上に怒られるぞ」
「太刀川さんが私を守る気が更々ないからこその判断です。わかっていますか?」
「マジで可愛いな、お前」
「お願いだから話を聞いてください……」
そもそも攻撃手と狙撃手の2人しかいない部隊なんて今まだ聞いたことがない、と小言を漏らした名前に太刀川が「お前らの部隊も戦闘員は実質2人だけだろう」と言葉を返す。全く、太刀川さんはわかっていない。苗字名前は太刀川慶の発言に頭を抱える。
私達の部隊は、あくまでトラッパーの冬島隊長がいるから成立するのであって、実際に狙撃手が2人だけでは絶対にうまくはいかない。確実に仕留められるという保証もないわけだし、無謀だ。そうはいっても……確かに、真木さんのオペレーターとしての能力の高さと冬島さん、当真先輩の技術力。この3人の完成された部隊が成り立っていたという過去があるわけだから、もしかしたら 太刀川さんのいうように攻撃手と狙撃手だけでも戦えるのかもしれないけれど、今回出揃っている部隊の部隊長と推薦隊員を見る限りでは通用しないと思う。
「太刀川さん」
「苗字、お前は他の奴らを気にしすぎだ。他所は他所。うちはうちだ」
「いい笑顔で心配になる事しか言わない人が部隊長とか本当にしんどい……」
「おい、それ普通に傷付くからやめろ」
「……いいですか、太刀川さん。このイベント、1位から3位までに入れば金一封貰えるんですよ!? 私が何のために太刀川さんの推薦受けたと思ってんですか!? 真剣に考えて下さいよ! 風間さんなんて当真先輩推薦してるんですよ!? わかってますか!?」
「……いいか、苗字。もうお前の好きなように隊員を選んでいい。だから俺のハートをボコボコにするのはやめような」
太刀川慶の言葉に、全くこの人は色んな人が言う通り 戦闘以外は基本適当なんだから、と名前は太刀川に視線を向けて、目を細めた後、言葉を詰まらせた。
あの個人総合1位。攻撃手1位の太刀川慶が両手で顔を覆って滅茶苦茶わかりやすく凹んでいる。その状況。そして、現在自分達がいる場所を踏まえたうえで、名前が抱いた思いは『うわあ、これやばい』。これである。今、自分が置かれている状況をできる限り整理したうえで改めて思う。状況だけ見ても、大学生を高校生が滅茶苦茶に凹ませている図は奇妙だというのに、相手は太刀川慶だ。後に噂が噂を呼んで、変に拡散されてしまう。思わず引き攣る顔を利き手で押さえて溜息をこぼした。仕方がなかったと思っている。ついでにいうと、その後、酷い噂が広められることとなった。
「二宮さーん!! スカウトです! スカウトしにきました! 開けて下さい!」
「お前そんなんでアイツが この鉄壁の壁を開けると思ってんのか? 前に俺がきた時なんて1日ずっと開かなかったぞ」
「それが本当だとするのなら、太刀川さん完全に二宮さんに嫌われてますよ」
二宮隊作戦室の扉の前で立ち止まって、太刀川慶に対して軽い気持ちで そのようなことを口にして帰ってきた返事は「今日俺はお前に少なくとも5回は心を傷つけられたぞ」という言葉であった。あまりにも酷い顔をしていうものだから思わず沈黙する。普段二宮匡貴をはじめとして、風間蒼也、加古望等によって散々な扱いを受けているのを目撃している名前は多少の小言は受け流してくれるのかと思っていたけれど、どうやら普通に傷付くという太刀川慶の言葉は本当らしい。
加古望や二宮匡貴と話している時は無視や罵倒の数々を平気な顔をして乗り切っているというのに、いまはとんでもなく、肩を落としている。
「おい、うるせえぞ。太刀川」
いつもならば 直ぐに開く筈の扉が今日に限って、あまりにも長い時間開かないものだからと諦めていたというのに随分と遅れて開いた扉と、その向こうから聞こえてきた声に2人は目を見開いた。ぱっと顔を明るくした苗字名前に対して、太刀川慶は後ろで「マジでコレが開く事なんてあるんだな」と真剣な顔をして言っている。
「二宮さん、どうか私を助けると思って 私達の部隊の推薦を受けて下さい!!」
先程、自分達の間で行われた やり取りを出来る限り細かく そのまま説明すると二宮匡貴は今回のイベントの参加者リスト(最新版)を確認して、眉間に皺を寄せた。それはそうだ。いま確認した時点で風間蒼也は当真勇。嵐山准は奈良坂透。東春秋は綾辻遥。加古望は影浦雅人を確保しているのだ。そして恐らく、今頃は出水公平も米屋陽介の勧誘に成功しているだろう。
それにもかかわらず、太刀川慶は、このメンバーに2人で挑もうという理解しがたい発言をしているのだから この人は……。
「お前とコイツだけじゃあ最低でも3人の戦闘員を用意してくる他部隊に勝てる見込みは万が一にもない。本来なら馬鹿にもわかる筈なんだが……お前は猿だったな、太刀川」
「おお、じゃあ お前がうちに入るって事で全部解決したなー。やったな、苗字。こいつスカウト受けてくれるらしいぞ」
「えっ!? 本当ですか!?」
「…………テメエ、この猿……」
その後、二宮匡貴という最高の守りを手に入れたチーム太刀川は再びラウンジを訪れていた。不機嫌に太刀川慶を睨みつける二宮匡貴と殆ど一方的に苗字名前に話しかける太刀川慶。そして、上機嫌な様子の苗字名前と3人の様子はそれぞれバラバラだったが、ラウンジに集まり、それなりに話し合った結果(と、上層部からの反応的に)、戦闘員は3人のみということで決定した。
そうなれば、最後に決めるのはオペレーター。同じ部隊とは禁止という点を踏まえると国近柚宇、真木理佐、それから氷見亜季を除くオペレーターと東春秋によって推薦隊員として選ばれている綾辻遥を除くオペレーターからの選択ということになる。
「今更ですけれど、今回のイベント結構力入ってますよね。これだけ手の込んだ隊員ページも作っているし、オペレーターに関してはここからスカウトできるらしいですよ」
「スカウトは出来るかもしれねえが、これだけ時間が経っている。既に選択できるほどオペレーターは残ってねえだろうな」
「だろうな。最悪隊員ならギリギリになっても集められる程度にはいるが、有能なオペレーターとなると その数は限られてくる」
「太刀川さんもオペレーターを推薦したらよかったのに。ほら、早紀ちゃんとか」
「そしたら お前が取れないじゃねーか」
「そこは拘らなくても……」
「馬鹿か、お前。そこが一番大事なんだよ」
「……な、なにそれ……た、太刀川さん見る目ないんじゃないですか!?」
「お前を選ぶくらいだ。見る目だけはある」
「にのみーは私への評価高いすぎるよ……」
嬉しいような恥ずかしいような……。色々な思いが波のように押し寄せてくる前にタブレットを更新すると太刀川慶、三輪秀次、小南桐絵、出水公平の名前が黒色から青色に変更されていた。各部隊の推薦隊員は三輪秀次が村上鋼。小南桐絵が空閑遊真。出水公平が米屋陽介ならびに宇佐美栞を確保している。出水公平に関しては行動力が凄まじすぎると言わざる得ない。この短期間で推薦隊員とオペレーターの確保まで終えるなんてスタートダッシュが出遅れていたとは思えない仕事の速さである。しかし、米屋陽介と宇佐美栞は確か仲が良かったような……。うる覚えではあるけれど、仲が良かったはずだ。なるほど。しかしまさか、こんなにも早くオペレーターを持っていかれるとは。
念のために他部隊も確認すると、風間蒼也の部隊は草壁早紀を。嵐山准は氷見亜季。加古望は国近柚宇を既に確保している。そうなってくると、もう既にオペレーターは相当限られてくるだろう。
「私達の部隊に二宮さんの名前がないってことは部隊長以外には推薦隊員とオペレーターの名前しか出さないって事ですね。確かに、その方が対策しにくいから理にかなってはいるけど……」
それよりもオペレーターを誰にするか2人も考えてくださいよ。名前が口うるさく言っていると2人は「誰でもいい」と、一番選択に困る発言を返した。それに対して、名前が懇願するように「ちゃんと考えて下さいよ」と肩を落とすと、二宮匡貴は「隊員がこれだけ少ないのだから自分達の部隊は そこまで処理能力の高いオペレーターでなくとも大丈夫だから誰でもいい」と改めて口にする。
確かに 今回戦闘員が3人ということで、処理自体も、ある程度オペレーターとして活躍している人であれば、そこまで大変ではないだろうけれど、念には念を入れておきたいのも事実だった。今回用意された部隊数は8。オペレーターの名前も確認が出来るということであれば、処理能力、指揮能力の高いオペレーターを引き込むことも可能だというのにも関わらず、この反応。信用されていると思えば、響きはいいけれど……。
「言っていること自体は最もですけれど……。じゃあ2人とも、私が勝手に決めても文句言わないで下さいよ〜〜」
上手い具合にオペレーター決めを丸々押し付けーーー任されてしまったようなと頭を抱えながらひとりで廊下を歩いていると菊地原士郎と三上歌歩を視界に捉える。
………………もしかしてこれは、神様のくれたチャンスなのではないだろうか。苗字名前は三上歌歩の姿にそれを確信する。もしかして、みかみかスカウトゴーサインなのでは? そう思ってからの名前の行動は恐ろしく早く、ずっと向こうにいる三上歌歩の名前を呼ぶ。そういえば、話すのは 随分と久しぶりな気がする……というよりは、顔を見るのが久しぶりだった。名前はコミュ障を自称する女だった。しかし、三上歌歩はラーメン好きの『ラーメン同盟』の1人で常にSNSによって会話を交わしている仲なので問題はない。名前は足を止める事なく三上の元へと急ぐ。
「みかみ〜〜ん!!!」
「わ、名前ちゃん? どうしたの?」
「来週の土曜日って暇ですか!?」
「来週は何もないけど……もしかして、風間さんがエントリーしていた あれ? そういえば、菊地原くんと歌川くんにもスカウト来ていたよね。じゃあ私も参加しようかなあ」
「……参加するにしても、別にコイツの部隊じゃなくても いいんじゃないですか」
「でも折角誘ってくれているし、それに久しぶりに名前ちゃんとガールズトークできるいい機会だし、ね?」
「三上先輩 大好き!! 味噌ラーメン好きの私が今なら とんこつ好きになれそうです!」
「それは大袈裟じゃない?」
神様のナイスアシストのお陰で二宮匡貴につづき、三上歌歩という心強いオペレーターを獲得したことをチーム太刀川のメンバーに報告すると2人の反応も大変良かった。あの反応は『滅茶苦茶ナイスだ、苗字!』という意味だと思う。少なくとも、名前は勝手に思っている。
本当に良い仕事したよ、神。いつもは生ゴミ以下だと思っている神だけれど 今日に限って こんなに良い仕事をしてくれるなんて……!! どうせなら毎日これくらい張り切ってくれれば良いのに! …………もしかして、あれか? 神の贔屓する人が私達の部隊にいたって事なんじゃないの? なるほど、それならば納得である。いつも私に厳しい神が こんな時に限ってチャンスを与えてくれるはずがない。あやうく騙されるところだった。差し詰め、贔屓しているのは にのみーだろう。
「でも、三上先輩が受けてくれて良かったです。私 あんまり仲良い人いないからオペレーター選び任されて困ってて……」
「大切な役割を担う隊員選びって部隊で話し合って決めるものなんだと思っていたけど、そういう部隊もあるんだね。私は風間さんの部隊しか経験していないから斬新だなあ」
「うちの部隊、ぶっつけ本番組なので……」
「出たとこ勝負っていうのは心配だけど、いつもとは違う部隊で部隊を結成して戦うなんて少しだけ楽しそうよね」
「……後から言うのは卑怯だってわかってるんですけど、うちの部隊の隊員二宮さんと太刀川さんと私なんですけど大丈夫ですか?」
「それは大丈夫。でも、どうやって二宮隊長に部隊に入ってもらったの? 風間さんから最初に確定部隊長枠を与えられていたのに二宮隊長は断ったって聞いたのに……」
「そうなんですか?」
「うん。噂だと二宮隊長以外にも迅さんと木崎隊長が断っているみたい」
「そんな凄い人達が確定枠だから今回のイベントは凄い人が集まっているんですかね」
「どうだろう。でも そういう確定枠の人達の存在が他の部隊長のやる気を引き出しているのは間違いないと思うなあ」