
部隊申請完了した その日からイベント当日までの間、太刀川慶率いる『太刀川隊』は各々の部隊が防衛任務等に追われていた関係で数回程度しか集まることが出来ずにいた。『数回』という回数を正確な回数で言うのならば、2回だ。一応2回も皆揃ったというところを評価していただきたい。元々、イベント申請を終えた日が木曜日で今日が土曜日。日付は9日間しかなく、仕方がなかった。それを防衛任務中にポロリと零した際に苗字名前は(もちろん、部隊に二宮さんがいる事は言っていない)、同じ部隊である当真勇と真木理佐に『自分は空き時間に集まって作戦立てている』という風に当たり前だという表情をして言われたけれど、聞かなかったことにした。
そもそも、当真先輩は風間さんの部隊で、真木さんは三輪先輩でしょう? 2人は滅茶苦茶作戦練ってくれそうな部隊に配属されてるからいいけれど、私達は集まっても三上先輩だけしっかりとやろうとしてくれるけれど、主に太刀川さんが「要は敵を倒せばいい」とか「遠距離は苗字、中距離は二宮、近距離が俺だ」とか言うから会議終わっちゃうからね。なに? 太刀川隊ってこんな感じで いつもやってるの? 凄いよね。あれかな、もう太刀川さんの中でフォーメーション完璧だからいいや、みたいな? いやでもね、太刀川さん。そのフォーメーション少なくとも私は完璧じゃあないです。トリガーの設定的に太刀川さんのいう配置場所みたいな場所は理解できるけれども。
「たった今、全部隊の隊員が発表されたみたいですよ。特に注意すべきなのは加古隊長と出水くん、それから東さんの部隊ですね」
「風間さんの部隊が絶対的安心感だと思っていたのに、東さん達のとこが危険なのかあ……。うーん、東さんの狙撃怖いな」
「いま情報をモニターに送信しますね」
三上歌歩によってモニターに送られてきた各部隊の隊員情報を眺めながら、上から順番に部隊とそのメンバーを確認する。他部隊も攻撃力云々だけで考えるのならば、相当怖いと思う。しかし、三上歌歩が『加古望、東春秋、出水公平の部隊が怖い』というのだから、きっとそうなのだろう。
でも確かに言われてみれば、加古さんの部隊にはカゲ先輩、木虎ちゃん、きくっちーそれから国近先輩がいる。頭の良い木虎ちゃんに、きくっちーとカゲ先輩のサイドエフェクト。そして単純に高い 加古さんの射手としての実力を考えると確かに怖いというのもわかる。木虎ちゃんとか前に当真先輩のこと
「カゲ先輩はサイドエフェクトのせいで私も数える程度しか命中させたことがないのでパスですねー、場所が割れて瞬殺されます」
「安心しろ。攻撃手は全部
「うわあ、安心感凄い!! ちゃんと責任持って最後まで私の事を守って下さいね!」
「おお……なんか、いいな。よし任せろ」
東さんの
そして東さんの部隊は双葉ちゃん、歌川くん、荒船さん、綾辻先輩。これだけの隊員を集めていて しかも指揮能力の高い東さんがいる……。東さんは戦術勝負なところがあるから、殆ど間違いなく、事前に各隊員の動きを指示しているだろう。故に、それがピタリとハマった時が相当怖い。しかもなんと、オペレーターは東隊長が推薦した綾辻先輩。いやもう怖い。出来るオペレーターに出来る隊長のいる部隊の恐ろしさが恐ろしい。戦術面で少しの抜かりもなさそう。
「今回の参加部隊は8部隊。いくら戦闘で4つ巴形式になるからといって私達は作戦会議の回数が圧倒的に少ないから
「まー、特に戦術面で勝負してくる 東さんのところと当たったら詰むな」
「でもそうなったら、戦術が機能する前に確実に1人ずつ削るしかなくないですか? 周りの部隊も東さんの
「おおー。お前中々性格悪いなー」
「先輩達は どう思いますか? 」
「確かに決まれば大きいと思います。でも同時に、外した時にそこから先の狙撃の援護は難しくなってしまう
それは確かにそうだ。実際の戦闘時、殆どの確率でA級部隊の狙撃手が最後まで残っている状況で、一気にポイントを得られるといっても精々2から3程度のポイント。運が良ければ、その場にいる攻撃手、射手のポイントをゴッソリと持っていける場合もあるけれど、それには相当いい条件が揃わなければならない。私の弾が相殺される心配が殆どないとはいえ、同じアイビスから放たれた弾がぶつかってしまえば軌道をそらす事は可能だろう。そしてそれは、東さんや当真先輩クラスならば充分に可能だ。もちろん、私のサイドエフェクトを使えば 当てること自体も難しい為、いくら東さんといえど限りなく不可能ーーーなのだけれど、そういう事は当然理解しているだろう出来る狙撃手の人達ならば弾の相殺は諦めて私を狙う可能性の方が高い。そういう心配を三上先輩はしているのだろう。
例えば、サブに瞬間移動を入れたとしても バッグワームとの同時使用はできないうえ、東さんや当真先輩のような敏腕狙撃手が残っていた場合、私が次に使う狙撃位置の予想がオペレーターなしでも可能だろう。そしてそこに弾を放って私を
「俺と太刀川が上手く立ち回ったとしても、獲れる点には限界がある。勝ちたいのなら
「せ、積極的に……」
「俺は今までの戦いの中で多くの狙撃手を見てきたが、こいつ以上に性格の悪い撃ち方をする奴を見た事がない。敵に回れば煩わしい奴だが、今はソレを使わない手はない」
「言われてみれば……」
「種類的には迅に似てるな」
「……それは褒めているんですよね?」
積極的に使うといっても、ぶつかる部隊によっては、そうしない方がいい場合もある。4つ巴のトーナメント。上位2組が決勝へ。1点の奪い合い。取るか取られるかの戦争。金一封……。そう、金一封。
部隊のメンバーを考えれば、勝てない戦いではない。太刀川さんに二宮さん、そして三上先輩。単体でボーダー最強のトップクラスの隊員が2人もいるのだ。しかも、これに加えて有能オペレーターの三上先輩。これで上位3部隊に選ばれない事があり得るだろうか。いや、あり得ない。なんなら、私が1番にやられようとも、お構いなしに無双していそうな2人だ。これは……、勝てる。もしも、負けるようなことがあれば、それは間違いなく、戦略を練らなかったせいとしか言いようがないのだけれど、出水先輩あたりには「苗字がいたからっしょ〜〜」と、一定期間言われ続けることになるだろう。よし、今回はちゃんと本気をだそう。二宮さんがいるのに、馬鹿な事やっていられないし、絶対に負けられない。
「丁度トーナメントの組み合わせも出たみたいですよ。私達は午後の部でステージ選択権は……東隊長の部隊にあるみたいですね」
「初っ端から東さんの
「私達が午後の部で ぶつかる事になる部隊は東隊長の部隊の他に風間さんと玉狛の小南隊員の
「その前にお昼ご飯買ってきますよ、私。太刀川さん達のも適当に買ってきますね」
鞄の中から財布を取り出し、部屋を出て、ラウンジにある食堂に向かって足を進める。あと1時間弱で午前の部が始まる。可能であれば、それを観戦しつつ作戦会議をするのがいいだろう。だからこそ、今のうちにお昼ご飯の調達をしておいた方がいい。食べながら会議や観戦をするのは、正直あまり気がすすまないけれど、午前の部は太刀川さん達だって見逃す事はしたくない筈だ。だから今回は行儀が悪い等のことは触れないようにしよう。
しかし、今になって考えてみれば、東さんの部隊とは当たるけれど、加古さんと出水先輩と嵐山さん、それから三輪先輩の部隊の戦闘を観戦出来るのは運が良いと思う。出水先輩達は大体想像がつくからいいとしても、その他の部隊は完璧に即席部隊。どんな戦闘スタイルで挑むのかいうのは、とても興味があるし見ておきたいところだ。次の戦いの時のために。
「よう、ひよっこ隊員」
「おはよう、苗字」
「珍しい組み合わせーーーでもないですね。先輩も とっきーも次の対戦相手じゃん。こんな所でなにをしているんですか?」
「昼飯を午前が始まる前に食っておこうってなったんだよ。お前は?」
「私も同じです。やっぱり考える事は どこも同じですね。勿論、うちの部隊は勝つつもりですけれど負けたにしても順位付けのために午前の部は観ておきたいですから」
さもあたりまえのように名前の隣を並んで歩き始めた当真は「今頃午前の部の奴らは最終確認ってところかー」と笑っている。
2人の姿を少し後ろから観察をしていた時枝充は信じられないくらい自然に苗字名前の隣に並んだ当真勇にも驚いたが、それなりに警戒心の強い名前がそれを受け入れている様子に「(これが、部隊の信頼関係か……)」と再認識していた。以前に苗字名前が自分達の嵐山隊に対して、部隊内での信頼関係があって羨ましいという言葉を漏らしたことがあったことから、冬島隊での関係性を心配していたのだけれど、全く問題ないようで安心した。時枝充がそのように考えている一方で、苗字名前は当真勇の笑顔を笑顔で受け取りながら、笑える程 余裕という事だろうか。嫌味だろうか。ここにきて、相変わらずの殿堂入りっぷりを発揮するのだから当真勇という人間は侮れない男であると考えているのだが、時枝充は知る由もない。
「そういえば、真木さんは三輪先輩の部隊だから午前ですよね。私の印象だと午前は嵐山さんと三輪先輩の部隊が凄くバランスがいいイメージだったなあ……」
「嵐山さんのところはバランス云々で言うなら今回の即席部隊で一番だろーよ」
「名付けてチームイケメンって感じ」
「あー、顔面偏差値が可笑しいよな」
「午前は観戦ブースに人は絶対入りきらないですよね。とりおに嵐山さんに奈良坂先輩でしょ? 女の子で溢れかえりますよ」
しかし、どうして嵐山准は戦闘員を3人にまで絞ったのだろうか。苗字名前の疑問は、そこにあった。まず、嵐山准の部隊のオペレーターとして君臨しているのは氷見亜季。氷見は二宮隊オペレーターとして活躍しており、鳩原未来失踪以前を考えるのであれば、戦闘員4人に指示を出し、適切な情報処理を行うことが出来ていた過去を持つ有能なオペレーターである。つまり、現在の部隊の万能手2人、狙撃手1人という部隊構成ではなく、あとひとり攻撃手を入れる、もしくは狙撃手が2人体制の方が良かったのではないかと思ってしまう。そうでなくても、嵐山隊は5人で活動している部隊なのだから5人編成の方が良かったのではないだろうか。けれど、そうはいってもB級は基本立候補制で片桐隊はスカウトに行ってしまっている。そういう他部隊の事情を考えると、残っていたボーダー隊員に嵐山准のお眼鏡に叶う隊員はいなかったのかもしれない。嵐山准という人間は味方と協力して点を取るのことが、とても上手(ーーーというよりは、嵐山隊が味方と協力して点を取るのが上手い)から、突っ走ってしまう隊員を部隊に加えるよりも3人体制でいこうということだろうか。そのあたりは実際の戦闘を見てみないとわからないけれど、協力するという事を部隊戦を行ううえで、とても大切にしているはずだから、少なからず、そういう意味もあったのだろう。勿論、真偽はわからない。
実際に即席部隊となると、部隊のメンバーとの連携が思っていたよりも上手くいかないという可能性も十分に考えられる。そうなってくると人数が多い分、敵に与えてしまう得点を増やしてしまう可能性が出てくる。だからこそ、少数精鋭の体制を取ったのかもしれない。しかし、今回のイベントに関していえば、これだけ そうそうたる面々が揃っている。念には念を入れて狙撃手を2人体制にしておけば、後方からの支援は相当な事がない限り受けられるし、4つ巴のように戦闘しなければならない人数が通常よりも多いのならば、狙撃手でなくとも、攻撃手ーーーもしくは射手を部隊に入れてガードに力を入れていない隊員を積極的に狙わせて部隊としての点に繋げる、点を取らせる、というような考えだってあった筈だ。それに狙撃手に関して言うのならば、上手く立ち回ればバッグワームを装備する分、
「でも、とっきーが こういうイベントに参加するのは意外だったなあ……私みたいに賞金が目当てとかではないんでしょう?」
「おれは苗字がいたからかな」
「えっ……と、私? なんで?」
「苗字の狙撃を実戦の中で直接見たりする機会が少ないからかな。佐鳥は苗字と同じ部隊に入りたかったみたいだけど、立候補のメッセージが送れなかったみたい」
時枝充の発言に名前と当真は顔を見合わせてから「あーー」と同調した。考えてみれば、苗字名前と時枝充(大きな枠で考えるのであれば、嵐山隊)が、この間のような大規模な侵攻時に共に行動することはまずない。嵐山隊は冬島隊とは違い、基本的には部隊でチームワークを発揮して戦うことを主としている部隊だからだ。そして、そういう場で共に戦うことがないということは、ランク戦のような派手な場で戦う以外に苗字名前の狙撃を見る機会がないということである。それだって、名前に時枝が標的とされなかった場合は直接確認はできないし、現に現在までに時枝充が苗字名前のその腕前を実際に見たのは、名前がA級ランク戦を多く経験していないということもあり、ほんの数回程度である。その一方で、佐鳥賢は捕捉&掩蔽訓練の際に苗字名前とよくお互いに探しあって撃ちあうという仲の良さを発揮している関係で、彼女の狙撃を見る機会は相当多かった。因みに、この時の名前と当真の敵対ぶりは凄まじい。撃たれた方がラーメンを奢るというゲームをしているからだ。これは冬島隊所属後から始まったものなのだが、名前は未だに引き分けと敗北を繰り返している。苗字名前曰く「当真勇は手加減をしらない」らしい。しかし、惨敗つづきの苗字名前もレーダーサーチ訓練では 当真勇、そして奈良坂透にも引けを取らない成績を収めており、この強みを今回のイベントで どうにかしていかせないだろうかと検討しているところである。
その話は一旦おいておくとして、佐鳥賢からのメッセージ送信云々に関しては、太刀川隊は名前が推薦を受けた その日のうちに全隊員を集めてしまっていたから立候補のメッセージが送信できなかったのだ。他部隊は三上先輩がいうには立候補が多数あったようで、名前は『なぜ私達の部隊に立候補が来ないのだろう』と心配していたのだけれど、100%、これが理由である。
「でもお前、俺の部隊の安心感云々で騒いでいた割には お前の部隊も相当だぜ。他の部隊も お前のところがヤバイって騒いでたしな」
「二宮さんもいますしね。おかげで上層部から これ以上隊員増やすなって圧力がかかりましたよー。私に言わせれば、加古さんのところも相当ヤバイと思うんですけれど」
「例の如く 『イニシャルK』なのに、よくあそこまで精鋭集めたよな。あの人」
「本当ですよね。こんなこと言うのもなんですけど、どうか頑張って潰しあって決勝には来ないでほしい部隊ダントツですね」
「メンバーも濃い奴が多いしな」
会話を楽しみながら、ようやく見えてきたラウンジを確認した名前は当真勇と時枝充の方に顔を向け『此処で食べていくのか』と問う。質問をされたのは、当真の方なのにも関わらず「逆に、お前は食べていくのか?」と質問を質問で返される。答えない理由もないので『自分は部隊メンバーの食事を調達しに来ただけなので食堂に並んでいるパンにする』というような内容を伝えると、2人も苗字名前と同じように、並んでいるテイクアウトの商品を購入するという事になった。
この流れは恐らく、出来たてのご飯を食べていく流れだったのだろう。あわせてくれてしまったのが申し訳ない。完全に食堂に来るタイミングを間違えたと内心頭を抱える名前とは対照的に別にどこでなにを食べようという事は特に決めていなかった2人は変に悩む時間が減ってラッキーだったなくらいに思っていた。
「本当は自販のラーメンにしようと思ったんですけれど、私以外の人達もラーメンとかなんか悪いから こっちにしたんですよね。にのみーにカップ麺とか絶対に渡せない……」
「俺は偶にお前を見ていると、お前が二宮さんを神かなんかと勘違いしてるんじゃねーかって心配になるぜ」
「私にとっては神みたいなものですよ。二宮さんが神で、とっきーは聖人」
「……おい、今のうちに言い返しとけ。お前こいつに聖人認定されてんぞ」
「おれはそんなに良い人じゃないよ」
「私にとってのとっきーは凄く優しくて大好きな人だよ。そんなこと言わないで」
「苗字が おれをそういう風に思うのなら おれにとっての苗字がそういう人なんだろうね。ありがとう」
「と、とっきーってさ……偶に平気な顔して凄い恥ずかしいこと言うよね」
「苗字にだけは言われたくないけど」
それはどういう意味だろうと考えながら、同時に改めて、自分の得意とするレーダーサーチをうまく利用できないかと考えてしまう。動かない的にあてるだけなら訓練でも90%以上の確率で成功している。けれど、動き回る攻撃手、射手、万能手、それぞれの隊員にあてるのは難しい。それでも、レーダーに移ることのない狙撃手に当てるよりは可能性があるし、私のアイビスなら威力が高い分当たれば間違いなく、殆ど100%の確率で敵を撃破できる。ただ、アイビスで撃つと地形崩壊したりして、その後の戦闘で不利になる可能性もある。
これに関しては、二宮さんや太刀川さんに相談して考えるしかないなあ。『レーダーサーチ』といっても ゾエ先輩みたいに適当に撃つことはできない。味方にカゲ先輩みたいなのがサイドエフェクト持ちがいるのなら話は別だけれど。いや、うちにはサイドエフェクト共有の処理に慣れている三上先輩がいる。ハイリスクな上にハイリターンだけれど、私のサイドエフェクトを共有すれば避けられないスピードではない……でも、冬島隊長と当真先輩に他部隊隊員とのサイドエフェクトの共有は禁止されているしなあ。
「ねえ、当真先輩」
「なんだよ」
「
「おー、但し。大規模侵攻みたく『敵が攻め込んできた時に限る』だけどな」
「うーん、ですよねー」
「おうおう。金一封は俺が貰ってやるから安心して負けていいぞー、苗字」
「当真先輩。私、いつまでも『ひよっこ隊員』でいるつもりないですよ。訓練では敵わないけど、実戦では……二宮さんがいる今日だけは先輩にだって絶対に負けたくない」
「!……言うようになったじゃねーの」
「今日は当真先輩も私の敵です」
苗字名前の目の色が変わった。当真勇は、その瞳に息を呑んだ。そうして、冷静になって思う。
当真勇が苗字名前と敵対する機会は恐らく、今日を除くのであれば、本当に今日まで一度たりとも存在しなかった。そして、このイベントに参加していなかったのであれば、それは当真勇の一生見ることの出来ない苗字名前だったということだ。しかし、これはこれは。流石、冬島隊エース。味方ながら天晴れである。いつだって苗字名前のトリガーとなるの人間が『二宮匡貴』なことだけは、いつまで経っても納得がいかないが、本気の苗字名前と戦れるのであれば、確かにこのイベントは参加した価値があった。近くのパンをいくつか手にとって、お会計を済ませると、早足で来た道を戻る苗字名前を眺めながら「面白くなりそうだな」と呟く。
「ただでさえ厄介なのに、苗字の導火線に火をつけて どうするんですか?」
「お前だって あの流れで火がつくとは思わなかっただろ。事故だ、事故。それに、どのみち火は付いていただろーよ」
何故ならば、二宮匡貴という人間が関わった時の苗字名前という人間は、通常の悲観的な発言はどうしたのかと疑いたくなる程に、抜きん出た戦闘センスを発揮してくる女だからである。全くあれは、どういう理屈なのか。俄に信じられない進化ーーー本来あるべき姿なのかもしれないーーーである。
午前の部が始まるまでには、まだ数十分の時間がある。とはいえ、苗字名前は、まさか この土壇場に『緑川駿』に会いたくなるとは想像もしていなかった。しかし、その前に作戦会議だけではなくて、先ほど購入したパンも二宮匡貴等に届けなければいけないので、会っている場合ではないのだけれど。それでも、いま名前はグラスホッパーに無限の可能性を感じていた。グラスホッパーならば、バッグワームを使用しながら使用することができるという点が1番大きな理由だが、恐らく、この短期間で使いこなすのは簡単な事ではない。それはわかっていた。しかし、要は……隠岐孝二の
ーーーと、勝手に考えているけれど。これに関しては、やってみなければわからない上に一部私の勝手な解釈が入ってしまっている。その解釈が全て正しかったとしても、敵部隊の方が上手だった時は太刀川さん達に謝るしかない。……けれど、私達が今日の午後の部で上位2チームまでに入るには、相手の予想してくる戦術を裏切って その先にいくのが1番良いのだ。二宮さんが言っていた 私を積極的に使うという言葉。これは多分、私に積極的に攻撃させて敵を撃破させるというよりは、私という存在に存分に意識を割いてもらい、自分達が動きやすくするなるようにするということだろう。それならば、いつ、何を、どこから撃ってくるのかが解らない敵というのは絶対に怖いし、厄介なはず。そして、その役割を確実にこなす為には『苗字名前が一番やりたがらない戦術』を行うというのが1番確実だ。もちろん、例えば それを私がやったとしても A級部隊の隊員達の意識を最後まで自分に向けさせるのは オペレーター、そして各部隊長の頭の良さを考えると100%不可能だけれど、太刀川さんと二宮さんくらい実力のある人なら 私に意識が向けられている少しの時間にも意味があるはず。
「ただいま戻りました!! 皆さん聞いてください! 私、色々考えたんですけれどーーー」