※グラスホッパーの使用法の捏造あり。









「ここで 太刀川隊のフェイントにつられた時枝先輩が緊急脱出ベイルアウト!! 東側は想像以上に凄い展開を見せてくれています! そして 現在は2対2対2! これは太刀川隊が有利か!?」
「ぶっちゃけ、このタイミングでの時枝の緊急脱出ベイルアウトは風間隊も相当痛いっすねー」
「…………と、いうと?」
「数の有利で流れを掴んだところを あっという間に崩された挙句、流れを1番持っていかれたくない部隊に持っていかれた。こりゃあ 多分、この流れを どうにかして切らないと 東は太刀川隊の圧勝で終わる」
「迅さんも同意見ですか?」
「そうですね。殆ど万全な状態の二宮隊長と手傷を負っている他隊員とでは、全然勝率の高さが違う。そういうのも踏まえると これからだっていう このタイミングで太刀川隊に流れを切られ持っていかれたのは痛いですね」



 今の苗字と二宮さんの攻撃。あれは、頭が柔らかいなんていうレベルの話ではない。そもそもオプショントリガーのグラスホッパーを踏む以外の使い方をするだなんて使い方をされてしまったら おれでも引っかかる。前のランク戦で空閑が踏まない・・・・フェイントを使ったことはあったけれど、今回のはそれ以上にタチの悪いフェイントだ。

 グラスホッパーは、少なくとも おれの中では 緑川の使い方の印象が強いというのもあるけれど、踏むことで機動力をあげるという印象の強いオプショントリガーだ。それを踏むのではなく、破壊こわすという使い方をするとは……。まあ今回の場合はイベント参加者自体が、レベルの高い隊員だからというのと、苗字名前という狙撃手に必要以上に深く物事を考える隊員が揃っていたから上手くいったとも言えるけれど、それでなくとも隊員達の中央にグラスホッパーなんて出された時には注目をしてしまうだろう。加えて二宮さんの近くに固定されたグラスホッパー。これだけで、苗字のアイビスの砲撃がくるという思考に至ってしまうのは仕方のない事だ。おれでも 流石にそうやって考える。



「しかし、破壊するという使い方を考えた上で 更に自分の攻撃が下に落ちるようにグラスホッパーを固定するという賭けのような方法を取るなんて 苗字先輩はグラスホッパーの訓練を積んでいたのでしょうか」
「それはないでしょう。苗字隊員は この攻撃を仕掛ける前に一度狙撃位置から随分と離れた所で建物の破壊を繰り返しています。丁度 マップの南側ですね」
「……こ、これは!! マップの南端にある障害物が粉砕、いや全壊されています!!! しかし この短時間で会得できるようなクオリティではなかったと記憶していますが……?」
「おれもそう思います。しかし、苗字隊員は 僅かな『運』にかけたのではないでしょうか。どうやら 苗字隊員は今回のイベントに対してかなり本気で挑んでいるようですね〜」



 まー、たしかに。苗字自身、今回のイベントでもらえるという金一封に 相当目を輝かせていたからなー。それに、今回のイベントには苗字と同じ部隊に二宮さんがいる。あいつ、二宮さんのひと言で直ぐに自信満々になるもんなー。良いところを見せたいという 気持ちがあるのだろうというのはわかるけれど、普段からも それくらい単純になれないものか。

 …………しかし、グラスホッパーがトリオン体 以外も跳ね返すのは知っていたけれど、まさか自分の弾丸を撃ち込むとは。もしも、今回のイベントで あの弾丸が普通に跳ね返っていたら 相当怖い。実際 苗字よりトリオンの少ないやつが使ったら そういう使い方も出来るのではないだろうか。今回の苗字のイーグレットはグラスホッパーにぶつかって そこで一度爆発してから グラスホッパーに相殺されなかった分の攻撃が地面に向かって落とされた。アイビスなんかは どの隊員が撃っても やっぱり今みたいな結果に終わるからアイビスをグラスホッパーを使って弾速をあげるのは やはり不可能で、アイビスの弾速をあげるという所業は やはりどう頑張っても苗字以外にはできないのだろうけれど、ライトニングとかならワンチャンあるのでは?



「おれが楽観的すぎるのかもしれませんけど、今の苗字の攻撃って狙撃手からしてみたら 相当良い攻撃手段になりませんか?」
「いや、簡単そうに見える攻撃程 難しいものはない。現に苗字隊員の状態を確認して貰えればわかりますが、至る所からトリオンが漏れ出しています。つまり、A級狙撃手でさえも簡単には出来ない技という事ですね」
「おお、本当まじだ」
「加えてグラスホッパーを使いこなす隊員には1番威力のある一撃が何処に向かうのかがバレバレだから 今回の苗字隊員のような使い方が出来るようになったとしても、このフェイントを攻撃として使うのはA級レベルの奴に対しての攻撃にしては ぬるい」
「迅さん、苗字に厳しくね?」
「そうか? どちらかといえば、おれは太刀川さんの狙撃手の中で苗字を1番評価してるって言葉に滅茶苦茶賛同組だけど」



 苗字は迅さん曰く、自分のサイドエフェクトに誤作動バグをもたらしてくれる凄いやつな訳で そういう事も考えると迅さんが苗字を狙撃手の中で一番評価している意味もわかるというものだ。だろうなーって感じか…………と、まあ話をイベントに戻そう。迅さんの言う通り、苗字は先程のフェイントを完璧に作用させるために苗字あいつがこの短時間で仕上げた最も完璧ベストに近い方法やりかたの結果が あの大量の傷。あれは多分、グラスホッパーに何度か撃つ中で苗字が負ったものだろう。グラスホッパーを出せる距離の限度がどの程度なのかは普段使う機会のない おれにはわからないけれど、かなり近づかなければ いけないのかもしれないし、そうではないのかもわからない。ただ、苗字の あの傷がグラスホッパーを破壊する際に負ったものだとするのならば、それなりに近い位置から撃ったものだと判断すべきだろう。多分、苗字の中で あの作戦が思い浮かんだ時、グラスホッパーが破壊されるとは思ってもみなかったのだろう。だから あの傷の殆どが1発目の傷。

 そしてグラスホッパーが破壊された際に相殺しきれなかった分の威力がどこかに跳ね返る。そういうことの繰り返しの結果が、あの傷の数々。ひとつひとつの傷はかすり傷程度だけれど、最初のイーグレットの乱発に犬飼先輩の援護フォローの時の数発に黒江に撃ち放ったアイビス。そして、南を全壊するほど練習したのだろうから、その分のグラスホッパーの何枚かとイーグレット何発かを計算に入れても いつもよりも相当トリオンの消費が激しいのではないだろうか。苗字は おれよりもトリオン若干少ないくらいだから この戦いくらいは乗り切れるのだろうか。わからない。



「しかし、どうでしょう。残り時間はあと僅か!! この視界の悪さでは 流石の風間隊、生駒隊も このまま為す術なしか!?」
「……と、思うじゃん? 的な どんでん返しがあると滅茶苦茶盛り上がるんすけどねー」
「ですが、他部隊としても東側の太刀川隊の勢いはここで止めておきたいところ……そろそろ何か……っとおお!? 出たあ!! 狙撃手 当真先輩のイーグレットが火をふいたあ!!」
「この方向は犬飼隊員の方ですね。この砂埃での視界の悪さを利用した良い一撃です」



 太刀川隊の作り上げた この条件を逆に利用するとは流石だった。しかも、いまは二宮さんの射撃トリガーに警戒しているという点で狙撃の警戒が完全に緩んでいる。確かに、撃つなら このタイミングは最高だ。

 なんといっても、今は苗字が あのビビりな性格ゆえに 現在は それなりに遠く(少なくとも自分が安全に緊急脱出ベイルアウトできる距離)の建物に避難して体制を立て直している頃だろうし、狙撃の警戒なんて 殆どなかった。これは当たるなー。絶対あたる。まるで吸い込まれるかのように 犬飼さんの方に向かっていき、そのまま 当たるかのように思えたーーーのだが、反対方向から飛んできた弾に弾かれ、当真さんの弾丸は全く別の……生駒さんの方に向かって、その身体を撃ち抜く。そして、生駒さんが撃ち抜かれた左足に注意を向けた隙に風間さんが生駒さんを切りつけて緊急脱出ベイルアウトさせた。



「こ、ここで 生駒隊長が緊急脱出ベイルアウト!!? ですが、今のは犬飼先輩に向かっていたはず、一体何が起きたんだあ!?」













 当真先輩が このタイミングで仕掛けてくるというのは分かっていたし、当真先輩の位置も分かっているから 次に誰を狙うのかも、飛んでくる方角も完璧に解っていた。当真先輩達は 私がこのタイミングで避難を始めると踏んでいたのかもしれないけれど、実はもっと前から……なんなら私は発砲終了から既にグラスホッパーで移動を開始していた。そもそも、誰も気づいていないと思うけれど、私は下からあのグラスホッパーを撃ち抜いた。誰も狙撃手の私が下から発砲するとは思っていなかっただろうし、正直なところ、サイドエフェクトを使えば 周りから見えている弾速的に私が下から アレを撃ち抜いたとはバレない筈だとふんでいた。ここまで、見事に大成功である。

 因みに私がグラスホッパーを破壊した後は、二宮さんが とっきーを撃破するという流れで その間に中々攻撃しない事で とっきーに二宮さんの標的が風間さんだと思わせ、とっきーを撃破。ここでポイントなのは、この間の時間に苗字名前の退避の時間を稼いでいるのだということを悟られない事だった。これも大成功。つまり、私は既に皆から離れ切ったところで安全に 今の当真先輩の弾丸に弾丸をぶつけ、弾道を逸らしたのである。



「ーーーー……これで、双葉ちゃんの時の借りは返しましたからねー。犬飼先輩」



 しかし、このくらいの距離じゃないと当真先輩の弾丸を弾くのは無理だなあ。でもこの距離だと 少し近づかれただけで緊急脱出ベイルアウト出来ないとかいう事件が発生してしまうかもしれないし、これは また暫く隠れて適当に参加しつつ、太刀川さんの援護に切り替えるかな。正直2点取っている今、2点取られない限り私達の部隊は確実に決勝にむかえるし、2点取るのに貢献したのだから 十分仕事はしたという評価を貰えるだろう。

 二宮さんだって、私が撃破される方が失望するだろうし、どちらにしろ今は隠れる方がいいな。私が生駒隊長の撃破に手を貸してしまったお陰で 犬飼先輩は1人になったし、表に出ている戦闘員だけならば 1対1対1。私なら そうなったら 一回隠れて奇襲を仕掛けるかな。うん、まさに今もそうしようとしているところだしね。でも確かだけれど、犬飼先輩もサブにバッグワーム入れていたから決勝を目指しているのなら隠れるのではないだろうか。他の部隊に得点をあげるような真似はしたくないだろうし。



「三上先輩、残り時間は後どの位ですか?」
『残り時間は約10分です』
「うーん、太刀川さんって まだ援護必要だったりしますか?因みに私が向かっても東さんの弾は相殺できませんけど」
『おまえの援護は必要というより、体験してみたいという意味の方がデカイ』
「なるほど、隠れてます」
『おい、そこは援護する流れだろう』



 他部隊は私がラストまで何もしないということは まあまず多分考えていないだろうし、そうなると期待に応えず 最後まで何もしないのもありといえばありだなあ。

 いやでも見てる側としては やっぱり何もしないで終わったよ こいつってなった時 滅茶苦茶心象が悪いのだろうか。悪いのだろうなあ。まあ確かに、当真先輩は普通に狙撃しているし、当真先輩の位置を確認した上で 再び戦いに参加をするということも出来なくはない。けれど、今からもう一度 最初に確保した狙撃位置に戻ったとして1分。そこから暫く 観察するとして、何分か。



「でも今日は あらゆる事にトリオンを使いすぎたし、この怪我だと……うーん、いつも冬島さんのワープがあるから無駄なトリオンの消費は無いんだけど 変なとこでグラスホッパー使わない方がいいか」



 グラスホッパーを使わないとなると、あの狙撃位置へ行くまでに何分かかるか……けれど、そうは言っても敵と全く鉢合わせることのなかった私がトリオン漏出で緊急脱出ベイルアウトとか流石に笑うもんなあ。特に今日で何回言ったか わからないくらい何度も言っているけど 今回解説席に座っていらっしゃる3人に滅茶苦茶酷いことを言われるに違いない。

 例えば、自分のトリオン量も理解してなかったんすかねー!! うけるわー!! ……みたいな。うわあ、私の中の3人の印象が最底辺すぎる……。いやでも、桜子ちゃんは まだしも、他の人達は そう思われる事を それなりに決行しているからね。ビックリするよね、本当に。実際、そう思われても仕方ないと本人達も この対応を諦めるのは当然だってくらい酷いことしてくれているからね。



「でも金一封の為に 確実性をあげておきたいし、やっぱり もうひと仕事しよう!」



 意気込んだのはいいけれど、風は強いし、雨粒が身体に勢いよくぶつかってくる。今更だけれど、なんだこの天候。全然早く走れないし、うざすぎる。この大切な時に、この設定のお陰で全然早く辿り着ける気がしない。先程までは無我夢中だったから気がつかなかったけれど、これはハード天候すぎるだろう。

 そう考えると、この天候設定をランク戦のような公式の場所を利用してやってくれていた那須先輩。いつもよりも本気だったという言葉は何度も耳にしていたし、実際に私達の作戦会議時に太刀川さんが色々教えてくれたり、一緒にデータ見たりしていたから 私もなんとなく、へえー、くらいの印象は持っていたけれど、実際に この設定を体験するとわかる。本当に本気だったのだろう。



『名前ちゃん、10時の方角に少し高めの建物があるのだけれど、わかるかな?』
「あ、わかります!!」
『良かった。そこが 名前ちゃんの位置から一番近い比較的に良い狙撃位置かな』
「つまり、えっと……さっきの場所まで行く必要はないってことですか?」
『勿論、あの場所は 今回のマップにある建物の中でも相当条件の良い場所だけれど 最短でっていうのなら 此処なのかなあって』
「なるほど……」



 三上先輩に言われた場所に辿り着いてからイーグレットを地面に固定して 残り時間を確認すると 残り時間は7分。正直このまま適当に やり過ごしても勝てるのだろうけれど、折角此処まで来たのだから 7分間待機するよりは援護でもして有意義な時間を過ごすのが良いだろう。けれど、太刀川さんからは かなり離れたところだから やっぱり今回の午後の部では太刀川さんの援護は出来なさそうだ。まあ太刀川さん自身も当真先輩が此方側に来た事によって だいぶ楽になったのか 先程のように援護が欲しいとは口にしないから撃破されるような事はないのだろう。東さんだって この天候で確実に太刀川さんや小南先輩のような素早く、更に勘のいい攻撃手には そう簡単に撃破が可能になるような一撃を入れる事は不可能だろうし。いやでも、東さんだしなあ。どうなんだろう。

 そんな風に考えた後にスコープの先にいる風間さんに向けてイーグレットを放つ。勿論、これは1発目だし 様子見。それに、風間さんもこちらを向いているから 当たらない。そう、当たるわけがない・・・・・・・・一撃だった筈なのだ。それなのに、風間さんは私の弾丸を確認すると シールドを張るのではなくて、その場で立ち止まり 受けの体制をとったのだ。その時の私は一瞬混乱をしたのだけれど、風間さんの その行動の意図はすぐに理解した。



「(風間さんは、私の弾丸を確認して リスクと一筋の可能性を天秤にかけた……!!)」



 つまりこの人は、あえて何もしない・・・・・・・・事で狙撃手わたしの位置を正確に測ったのだ。きっと、草壁さんは事前に東側こっちの狙撃位置を割り出していた。そうすれば、後は私が つれるまで待っていればいい。それだけでもう、私を撃破できるところまで追い込む見通しが立つ。でもそれは、私に作戦が見破られなければの話。風間さんは私の位置からは それなりに離れたところにいるし、とっきーは私達が撃破している。そうなると私を討つことが出来るのは当真先輩だけということになる。風間さん達は私が作戦の意味を理解出来ないと考えたという事だろうか。何を根拠に? わからない。いや、けれど わかっている事がひとつだけある。



「太刀川さん、二宮さん。大変恐縮なのですが、苗字見事に嵌められました」
『正気か?』
「なんか、多分このまま 此処にいると撃破されちゃうんですよね〜〜」
『俺には捨て身の誤魔化しペテンに見えたがな』
「私も それは考えたんですけれど、そう思わせておいて実は本当で いざという時に緊急脱出ベイルアウト出来ない方が怖くないですか?」
『実戦なら、当真にも負けないんじゃなかったのか。言葉には責任を持て』
「もちろん、その発言を取り消すつもりはないですけれど、残っているトリオンを考えると……1発当たったら私、撃破されちゃうかもしれなくて。撃ち合いにすらならない。これこそ捨て身の一戦です。だから、1点取られるよりは撤退かなあと」
『……お前の戦いだ。好きにしろ』
「え? にのみーだって このイベントの参加者じゃないですか!!私だけの戦いじゃあないですよ。あ、勝ったら このメンバーで鍋パしましょうよ〜〜!」













 まず、結論から言えば 私が緊急脱出ベイルアウトした後の5分間は誰かが緊急脱出ベイルアウトする事も撃破される事もないまま 終了した。太刀川さんに関しては後もう一歩のところまで小南先輩と歌川先輩を追い込んだけれど、試合終了で撃破には至らなかった。太刀川さんがいうには「東さんの狙撃がなければ もっと早い段階で2人とも倒して 合流出来ていた」らしい。太刀川さんが言うのだから、まあそうなのかもしれないし、そうでもないのかもしれないけれど、東さんがいなければ もっとスムーズ戦えたというのは私達以外の部隊も恐らく同様に抱く感情だと思うから 流石東さんとしかいいようがない。

 それからもうひとつ。試合が終わってから聞いたのだけれど、あの戦いを最後までしっかりと生き抜いた二宮さんによると、やはりあの時の風間隊の行動は私を戦場から追い出す為のハッタリだったのだろうという事だった。けれど 例えば、本当にハッタリだったとしても どうして私を戦場から追い出そうなんて考えたのか、全く理解できない。それに、二宮さんは そのように言っているけれど、やはり私は あの時のは私を つるための当真先輩の作戦だったとも思うのだ。先輩なら私が1発目の当たるのかわからない状態、加えて二宮さんがいるという状況でアイビスを撃たないというのはわかっていた筈。加えて、あの時の私はサイドエフェクトを使用していなかった。大まかにでも 狙撃位置を絞れていたのならば、私のイーグレットから飛び出していった弾が描いてくれた弾道が見えていたはず。なぜ直ぐに撃ち込まなかったのかを考えると 確かに にのみーのいう事も一理あるのかなあとも思うけれど、あの状況ならば風間隊も決勝進出は殆ど確実で、別に態々撃つ必要もないと考えたのかもしれない。もちろん、定かではないけれど。



「そういえば、決勝進出にあたって 隊員の変更が一度だけ認められるみたいですけれど 太刀川隊わたしたちは どうしますか?」
「今回みたいに分断される事とかを考えると、やっぱり もう1人欲しくないですか? 加古隊とかエゲツないメンバー揃えていますし。あ、東さんスカウトするとか」
「お前 ヤバい戦力入れると制限つくぞ」
「でも加古隊とか制限付いてないですよね」
「加古隊は制限が付いてるみたいですよ。影浦隊長と菊地原くんのサイドエフェクトの同時使用が行えないっていう程度のものですけれど」
「そうなんだ? じゃあ誰が良いですかね……えーっと、佐鳥ちゃんとかは? 太刀川うちの隊に入りたいって言ってましたよ!」
「名案だって言いたいところなのだけれど、午前午後で勝利出来なかった部隊も決勝の行われる日に試合があるみたいなの」
「ええ!? あれって決勝の日なの!?」



 つまり、今回のイベントの午前午後に出場したメンバーは自分の部隊には入れる事が出来ないということ。そうなると、まず決めなければ いけないのは どの役職ポジションの人を部隊に入れるのか。次に誰を部隊に入れるのかという事だ。決勝までの日付は各隊のメンバー増加なんかも考慮してあるのか、そうではないのか 1週間の時間がある。1週間。私達は この期間が物凄く短い時間だということを つい先日に身をもって思い知っている。だからこそ、決勝までには 今度こそ他部隊のデータなんかも確認して勝ちに行く為の戦術をならなくてはならない。つまり、何が言いたいのかというと……もしも、隊員を増やすのならば今日しかないということである。



「うーん、ちょっと頭使ったら 喉が渇いたので 飲み物を買ってきまーす」



 苗字名前が三上歌歩のマイナスイオンたっぷりの優しい笑顔に見送られながら廊下に出ると、香取葉子が大変不機嫌そうな表情を浮かべて廊下に立っていた。

 これは果たしてどういう状況だろう。名前は、目一杯頭を回転させる。しかし、これといって思い当たる回答は見つからない。香取葉子は廊下に姿を現した苗字名前の姿を視界に捉えると、居心地悪そうに視線を動かした「さっきの」と口にする。さっき。そのワードを聞いた名前の脳裏には奥寺常幸によってグラスホッパーを教えてもらう以前の光景がよぎった。



「さっきのは あんたがウザすぎたとはいえ、流石に言い過ぎた。それだけ伝えにきたの。それじゃ、帰るわ。あんた見てると 昔を思い出して イライラするし」
「昔……?」
「どうせ 覚えてないんでしょ。知ってた知ってた。だって あの時・・・の あんた、自分と二宮さん以外に興味なかったじゃん」



 香取葉子の言う通り、名前は香取葉子こいう『昔』の見当がつかない。それでも、香取葉子の「自分と二宮さん以外に興味なかった」と言う言葉を聞いて、申し訳なさそうに視線を落とした。誰もそんな言い訳を聞いてくれるとは思っていない。それでも、言わせてもらうのであれば、香取葉子のいう『昔』というタイミングの苗字名前には、あまりにも余裕がなかった。

 自分と二宮匡貴しか見えていなかったのだ。本当に。ある意味では二宮隊と自分しか見えていなかった。二宮匡貴やその他大勢の大人は、名前の言葉を否定するけれど、当時の名前にとって、彼らの存在は丸ごと苗字名前を否定するものだったのだ。だから、周りに気を使う余裕がなかった。酷い態度をとっていた記憶はある。しかし、誰に対して、どんな対応をしたのかというところまでは把握できていなかった。だからこそ、名前は一言「……ごめん」と香取葉子に告げる。



「いいから、そーいうの。謝られるとアタシが あんたをいじめているみたいだし、それに あの時は全面的にあんたが悪かったけど、アタシも多分悪かった。だから、謝られたくないし 謝るな。ムカつく」



 あの時の事と今日の事。足して お互い様ってことにしてあげる。これはアタシの あんたへの最大の譲歩。でも次にアタシから話しかける時まで二度と話しかけてこないで。やっぱり 思い出すだけでムカつくから。香取葉子は、吐き棄てるように言う。まるで『お前とはこれ以上 一緒に居たくない』と言われているようでもあったが、苗字名前は今までの対応をなかったことにしてくれるという香取葉子の言葉があまりにも衝撃的で、そこまで読み取ることはできなかった。

 自分とは全く別の方角を見つめた香取葉子は、手にかけてある大きな紙袋を見つめて、苗字名前にソレを押し付け、彼女が袋を しっかりと受け取ったことを確認すると廊下を早足で歩いてすぐのところにある曲がり角を曲がり、あっという間に視界からいなくなった。名前は、香取葉子に押し付けられた 大きな袋の中身を確認する。そこには随分と前に染井華に貸してあげたシャープペンシルと手紙。そして、綺麗にラッピングされたお菓子が入っていた。これ、手作りだ。染井華の女子力に感心しながら、手紙を開くと手紙にはお礼の言葉が丁寧な文字で記されていた。ひと通り読んでから、有り難い言葉を噛みしめていると、ひらりひらりと小さな紙が地面に落ちた。地面に落ちていくメモ帳程度の大きさの紙を拾った名前は紙に記されている言葉を眺めて、これだから香取葉子は嫌いにならないのだと喜びを頬に浮かべるのだ。



「なんだ、まだここにいたのか。丁度いい、いま二宮が鍋が上手い店調べているんだが 苗字は何かリクエストあるか?」
「私、しめにラーメン食べれれば何でも大丈夫なので皆さんで決めて大丈夫ですよ!」
「残念だったな、しめは餅だ」
「私も みかみかもラーメン派ですよ」
「はっはっは、年功序列でも成果主義でも結局 俺が1位だ。よって しめは餅!!」
「うわあ、この人 いやな1位だ。二宮さんに ハッ倒されてしまえばいいのに」
「それより 何かいい事でも あったのか? 顔に良いことがあったって書いてあるぞ」
「いいことはあったけど、内緒です!」




'' 決勝。あんたが どうしても来いっていうなら 観に行くから 絶対連絡しろ。ちなみに、負けたら あんたは華と絶交だから。 ''




















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Espoir