
私が双葉ちゃんを運良く討取らせてもらった後に犬飼先輩は荒船さんを討ちに行った。しかし、悔しい。私があんなに苦労して習得したグラスホッパーをいとも簡単に踏んでくれていた。これが前線で戦う戦闘員とそうでない者の差だろうか。相変わらず、なんでも そつなくこなす犬飼先輩みたいな人を見ていると自分が嫌になってくる。そんなことを考えていると、太刀川さん側で誰かが
こっち側で
「二宮さん、
『苗字、こっちにもくれ』
「わっ、太刀川さんに反応されると思いませんでした。太刀川さんも狙撃の援護が欲しいとか言うんですね。意外だ……」
『当真と東さんの狙撃が厄介だ。ライトニングで弾道そらしたりは出来ねーのか』
「そんなこと言われても、私と太刀川さんは いるフィールド真逆ですよ? それに見て下さい。この天候。それをやる事がすでに無謀ですって。そっち側 なにも見えないし」
それならグラスホッパーで向こう側に行けばいいと思うかもしれない。けれど、グラスホッパーで太刀川さん達のいる西側に向かうというのは、東さんと当真先輩の狙撃が怖すぎる。下手したら点を取られる為に行くようなものだ。
橋渡ろうとしたら撃破されましたなんて、これの解説をしている あの3人に一生言われ続ける。特に出水先輩と迅さん。桜子ちゃんに関しては、今でも昔の解説に関してネタにされるのに こんな黒歴史まで増えたら悪夢だ。
『実戦で 無茶だと思う事を成功させて初めて一人前になれる。何事も挑戦だ。俺もそうやって一位になったんだぞ』
「いやいや、相討ち覚悟で向かっていくのと、無駄死にする為に突っ込んでいくのは 全く別の事ですからね!!」
『三上、両方見張れる
『一番高い建物は向こうにあるので 鉢合わせがない分 確実に取れて安全ですが、名前ちゃん達のいる東側で全体を見渡せる
『それは問題ない。他部隊に場所が割れても 俺達が向かわせなければいいだけだ。狙撃手戦に限定すれば 俺達に分がある。こいつの忍耐力に関しては俺が保証する』
「えっ!?そ、そうですよね!!二宮さんがいうなら私頑張ります!超余裕です!!!」
「こりゃー、ダメだ。1番取りやすい空閑が討ち取られたとなると、こっち側での点数は見込めないぜ? どうする 風間さん」
『……西は捨てる。確率の低い方からの点を狙うよりも、当初の予定通り俺達の援護に切り替えた方が効率がいい』
「当真、了解」
しかしまあ……。点数の稼ぎづらさだけでいうのならば、どっこいどっこいだ。向こうは
しかし、そうはいっても 残り時間は もうあと僅か。今のまま 行けば、決勝に上がるのは太刀川さんの部隊ともう1つは東さんの部隊、もしくは小南の部隊だ。まあ向こう側に東さんの部隊の隊員がいない点を見る限り、小南の部隊が決勝行きだ。けれどそれは、俺のプライド的にアウトだ。一応、
「そうなると狙うのは 小南の
ぶっちゃけ隠れている苗字の撃破を出来る可能性は限りなくゼロに近い数%だろう。二宮さんにしたって周りをよくみているし、苗字の援護もある。なによりも、二宮さん自身のシールドの固さを考えると、まあ無理だろう。それに今は
けれど、1番問題なのは苗字のヤバいところが それではないというところだ。今回でいうのならば、最初のレーダーサーチ。訓練を共に受けているのだから もちろん アレの実力が高いというのは知っていた。知っていたが、あの攻撃のお陰で東側では風間さん、時枝、生駒さんが身体のどこかしら損傷したと連絡が入っている。たしかに
「ただひとつ言えることがあるとすれば、この戦いで 確実に勝つ為には 苗字をどうにかしねーといけないってことか」
苗字名前の恐ろしいところ。それは射程距離の長さにある。訓練、実戦では苗字の最大の武器ともいえる射程を披露する場面がないため、サイドエフェクトしか能力のないサイドエフェクト要員のように映るかもしれない(本人も未だに そう思っているらしい)し、実際に上や他の部隊からも射程距離が短いと思われているが、それは大きな勘違いである。うちの隊長が、たかがサイドエフェクトの力だけで
それでは何故、苗字が その射程の長さを実戦で披露しないのか。その原因はサイドエフェクトにあった。その最強クラスのサイドエフェクトのデメリット。いや、普通の狙撃手がこのサイドエフェクトを持っていたのならば、デメリットとも呼ぶべきではないのかもしれないが、苗字名前という狙撃手は
「だからこそ 願わくば、最後までサイドエフェクトに頼ってくれよ。エース」
お前が自分の持っている狙撃の技術を
「西側には太刀川隊長や東隊長を含め、現在5人の隊員が揃っていますが、この状況をお2人はどのようにみますか?」
「この状況なら有利なのは東さんの部隊だろ。東側だって犬飼さんが謎の援護しなけりゃ 苗字は撃破されていたはずで、作戦通り行けば決勝は東隊確定だっただろうしなー」
「なるほど! では、犬飼先輩の例の援護は東隊長の作戦を崩す為ということですね!」
「勝手に動いた結果、なんかいい方に流れた的な事かと思ってたけど そうなんすか?」
「え? ここでおれにふるの? まあ、そうだなー。これに関しては本人に聞いて下さいとしかいいようがないですね」
でもこれは中々面白い。現在の各部隊の獲得点は太刀川隊が1点、東隊が1点、小南(生駒)隊が1点。そして
そして逆に現段階で1番不利なのは太刀川隊同様誰1人として撃破していない風間隊だ。全員生きていようが関係のない 今回のイベントでは生存点というものは意味をなさない。つまり、撃破の数が全て。それでいうのならば、小南のところは残り時間をやり過ごせば 恐らく決勝に進めるのだから身を隠してしまえばいい。まあ、それはしないのだろうけれど。彼らにだってA級のプライドというものがあるだろうし、ぶっちゃけ現段階での風間隊には当真の援護が向いていない。言ってしまえば、風間さんがいるとはいえ、取ろうと思えば獲れる点が2つ転がっているようなものだ。特に、今のように苗字の狙撃に注意を払いながら戦わなければならない風間隊は現段階で圧倒的不利だった。まあそれは小南のところも同じだけれど、1点取れている部隊と そうではない部隊には とても大きな余裕の差があるからなー。まあでも、そういうのに流される人じゃないからこそ、風間隊は未だに誰も撃破されていないのだろう。それに、風間隊は1番不利でもあり、2番目に有利な部隊でもあるのだ。この部隊もまた1点獲れば決勝に進める。撃破数が1で1人も撃破されていなければ、現段階での太刀川隊に並べることになる。つまり、一気に小南や東さんのところを抜いて同率1位に君臨できるというわけだ。これは本当に見応えのある戦いだ。
「おっと!? このタイミングで冬島隊狙撃手の二人が同時に動き出した!! こ、これは凄い! これが噂の冬島隊名物『阿吽の呼吸』というやつなのでしょうか!?」
「タイミング的には、確かに どっちも動くなら今なんだろうけど、仲良しかよ」
「当真隊員の方はタイミングと向かう方向を見る限り風間隊長の加勢に向かうみたいですね。苗字隊員の方は……いやー、さすが」
「あの迅さん。おれだけかもしれないけど さっきからそれ滅茶苦茶気になります」
当真は橋のギリギリのところまで来て風間さん達のいる位置を確認しているところだ。以前の那須隊と遊真達の戦闘と全く同じ設定。橋を渡らせない作戦は見事成功というところだろう。相当高いセンスでもない限り、グラスホッパーは装備してくるものではないし、すぐにマスターできるものでもないから、この天候設定ならば、現在参加している狙撃手が分断された橋を渡るのは不可能だろう。渡る事ができるとすれば、出水のところの隠岐くらいだけれど、今回の午後の部とは全く関係のない部隊だからこそ 東さんは迷わずこれに決めたに違いない。
目的のわかりやすいマップ設定だけれど、そのわかりやすい目的を突破する突破口が殆どないのだから 恐ろしい。
「両者狙撃位置についた模様!! ですが、この天候に加えて敵までの距離を考えると 思い切って引き金を引けないのでは!?」
「そこは変態狙撃手の腕の見せ所だな。この天候で発砲されたら狙われた側も流石に対応が遅れる。危険度云々でいうなら5分だろ」
「なるほど、迅さんは どう見ますか?」
「それは2人の目的によるんじゃないですかね。敵を倒すのか、援護するのか。あの2人くらい腕のある狙撃手なら、それによって やり方はいくらても変えられますよ」
「普段は当真さんは攻撃だから援護に徹するのかどうかはわかりませんけど、苗字に関しては伊達に後方支援のプロなんて呼ばれてないですもんね。特に、
「まさに『経験者は語る』ですね!! さあ、現在まだまだ各
「狙撃位置に到着しました。二宮さんの方は普通に見えます、ね。でも西はギリギリ目視できる程度なので、やっぱり確実を重視して合流がいいんじゃないですか?」
『いや、風間さんとの一騎打ちも魅力的だが 小南とやれる機会は中々ないからな。最後まで遊んでから向かう』
「気を抜いて 東さんの狙撃にやられたりなんてしたら 流石に怒りますからね」
『それはいいな、ご褒美か?』
「なんで私が撃破された太刀川さんに ご褒美あげるんですか。私は甘々か!!」
『まあ兎に角、援護は任せるぞ』
現時点で私達の部隊と他部隊の決勝に進める可能性は殆ど横並びであると思う。太刀川さんがいうには向こうで撃破されたのは遊真で、東さんが撃破したと言っていたから、現状の獲得点は私達が1点。生駒隊が1点。東隊が1点。私としては このままいくと東さんが点数を取って 再び決勝に駒を進める恐れがあるから出来るのならば、小南先輩、もしくは歌川先輩と小南先輩の両方を太刀川さんに討ち取って欲しいところだった。そして願わくば、そのあと是非 こちら側に合流してほしい。
けれど それはあくまでも私の願いであり、1番望ましい展開というだけで、私達が向こう側にいる太刀川さんと合流できる可能性は低いだろう。私には太刀川さんの方はどうなっているのかわからない上、私の狙撃が一体誰に当たって誰に当たっていないのかも不明でなんとも言えないのだけれど、それでも 少なくとも 東さんは無傷だ。私としては、それがなによりも心配なのである。まあ太刀川さんは私の狙撃も交わしてくれてしまう化け物だから そう簡単に撃破されるということはないだろうけれど、それにしたってなあ。
「三上先輩、現状を見るに 私は どちらの部隊を優先して撃つべきですか?」
『この部隊からの
「三上先輩がそういう言い方をするって事は着目点を
『敵の隙をつくという意味では東も西も良い条件は揃っているんだけど、敵の
「それなら考えるまでもなく、二宮さんの方を優先するべきですね。今回のメンバーを見る限り、生存点に期待は持てませんし」
二宮さんの方を優先すれば、点数を獲得できる確率は格段に上がる。そして、それに加えて 二宮さんを優先して狙撃を開始することで、苗字名前は西側の援護をしないと、一時的に思わせることができる。西側の裏をかくことが出来る。
そして、多分 タイミングをみて私が撃ち込む 東さんとも当真先輩の方角とも違うところから発砲された 全く別の弾丸に他部隊は太刀川隊の狙撃の援護を警戒せざる得なくなるだろう。加えて、当真先輩も東さんも この天候では私の狙撃を相殺する事はできない筈だ。
『名前、当真の狙撃が東に向いた。生駒隊が狭い道に移動する前に仕留める。援護しろ』
「えっ!? 当真先輩の狙撃が東に向いたって事は風間隊が完璧な状態で戦場に立ってしまったって事になっちゃいませんか? それってやばくないですか?」
『そう思うなら休憩は終わりだ。三上、橋から近い西側の狙撃位置を洗い出せ。
『了解しました』
「苗字も了解です!!」
二宮匡貴が三上歌歩に橋から1番近い西の狙撃位置を調べさせたという事は生駒隊を撃ち落とした後に当真勇を討ちに向かうということで間違いない。風間隊は厄介な部隊だ。風間蒼也の実力は攻撃手の中でもトップクラス。加えて 時枝充の援護がある。時枝充のいうように、苗字名前や時枝充は互いの戦闘を見る機会が殆どない。故に双方、その実力を完璧に理解しているとはいえない。しかし、データで見る限りでは両者共に自らの役割に関する技術は高い。加えて、両者共に精神力と周りを見る観察眼も相当高かった。
時枝充に関して言えば、この残り時間の中でも焦らず、冷静に敵のトリオンを削っているのだ。高くないはずがない。そもそも、広報をやり遂げられる精神力があるのだから精神に関しては高いのは言わずと知れたことなのかもわからない。けれど、風間隊は現時点では無得点である。その状況を踏まえた時、自分ならばどうだっただろうと名前は思考する。少なくとも自分であれば、焦るだろう。そして下手をしたら、撃破されるかもしれない。更には、焦って手元が狂ったりなんかもするかもしれない。それなのに、風間隊は どんな鉄壁精神を揃えたのか今のところ誰も撃破されていない。これには、流石風間蒼也の人選としか言いようがない。自分が推薦されなかったのも頷けるというものである。こういうのに流されないような人だからこそ、当真勇は狙撃手として風間蒼也に選ばれたのだ。そしてそれは、時枝充も また然り。
「……うーん、やっぱり私は自分の豆腐精神をなんとかしないとダメだなあ」
固定しておいたアイビスのスコープを覗き込むと風間蒼也、時枝充、二宮匡貴、そして生駒達人と犬飼澄晴はお互いの様子を伺うように立ち回っていた。ほんの少し前まで激しい戦闘を繰り広げていたとはとても思えない。けれどそれは、それだけ当真勇の狙撃を危険だと思っているという証拠でもあるのだ。実際に当真勇の狙撃の技術は苗字名前が自身の狙撃の腕を下であると誤った認識をしてしまう程度には高い。引き金を引けば、必ず狙った獲物を撃ち抜くのだ。本当に恐ろしい男である。……けれど、苗字名前も何の意図もなく こうしてただ観察していたわけではない。観察を続ける中で解った事がある。それは 風間隊の狙いが二宮匡貴ではないという事。生駒隊に関してはわからなかったが、少なくとも風間隊……否、当真勇の狙いは二宮匡貴ではないようだった。正直なところ意外である。この状況では確かに、二宮匡貴、生駒達人、犬飼澄晴の3人に当真勇の標的が絞られる。それならば、比較的近い距離で固まっている生駒隊よりも1人の二宮匡貴を狙う方が効率が良い筈だ。『2点まとめて点を獲りたいから』『二宮匡貴はシールドが固いから』など、それらしい理由は いくつか浮かんでくるけれど、現状狙撃の援護のない二宮匡貴を狙って、苗字名前を殆ど無力化するという案も当真勇なら浮かんでいるだろう。もしかしたら、当真勇のことだ。苗字名前が近くで潜んでいるという可能性に賭けたのかもしれないーーーというよりも、確信をしているのかもしれない。
こちらで撃破された双葉ちゃんと荒船さん。最初のレーダーサーチでの狙撃後からの隊員の動きから 私がどこにいるかなんてレーダー解ってしまったに違いない。例え、その後すぐにバッグワームを装備したとはいえ、殆ど同じタイミングで撃破された2人の隊員。その位置。タイミング。これらを考えて、例えば1回目に敵を撃破したのは私だと考えた場合。今この時に至るまでには長い空白時間があった。少なくとも、充分に調べた上で 良い狙撃位置を陣取れる程度には。それを考えた上で、二宮さんを攻撃をした暁には私という狙撃手が対応してくると考えたのだろう。確かに私は三上先輩が当真先輩の位置を大体割り出す事が出来るまでは動くなと二宮さんに指示をされているけれど、二宮さんを今援護するべきだというタイミングがきたのならば引き金を引くだろう。ここまで本当に考えていたとするのならば、それを防ぐ為だろうか。それとも、他に何か大きな理由でもあるのか。私は私のずっと後ろから放たれる弾丸を目で追いかける。私よりも南から放たれて こういう弾道を描いて向こう側に向かってとんでいく。たったそれだけの情報でも三上先輩くらいの人ならば 調べ上げた狙撃位置と照らし合わせて すぐにでも私に情報を回してくれるに違いない。
『風間隊狙撃手の位置は殆ど絞り込めました。これからデータを送信します』
「お〜。この範囲を見る感じだと、私の後ろに確認できる あの高めの建物が怪しいですよね。それで 場所も絞り込めましたし、取り敢えずは風間隊に向いた流れを切りたいですよね。ガンガン撃つかんじですか?」
『いや、無駄撃ちはトリオンを捨てるようなものだ。奴等の流れを切るだけなら、もっと有効な
「あ、それなら私に運がよければ1人はとれるすごく良い
現在おれ達は無得点。対して、他部隊の獲得している点は1点。この差が参加隊員達にとって、途轍もなく大きな差だというのは流石にわかる。特に、おれ達が参加している午後の部というのは圧倒的な戦力をもつ隊長格のいる部隊が多いから。その中でも、特に東隊と太刀川隊。この2つの部隊に関しては、おれも風間さんからスカウトされる前から注目していた。恐らく、おれ以外の参加者も同様にそうだと思う。
そういう部隊に1回戦目からあったってしまったというのは、決勝を狙うのならば幸運だとは言えないのかもしれないけれど、考え方によっては『幸運』だとも言える。何故ならば、木虎や嵐山さんは午前の部だというのにも関わらず、決勝に上がった時のためにと午後の部の部隊の対策なんかも考えていた。特に東隊と太刀川隊は念入りに。東隊は言わずもがなだけれど、太刀川隊は戦闘員のひとりひとりが圧倒的で各分野の最強クラスの隊員を詰め込んだ隙のない部隊。各自が個人的に勝手な動きをしても簡単には撃破されてくれない隊員が揃っている。そういう意味で『この2つの部隊は他部隊が今から対策を練っておくべきだ』と判断されてしまう程 脅威的な部隊であるということだった。だからある意味、そういう絶対に対策を早めから考えておかなくてはいけない部隊と1回戦目で当たることが出来た おれ達は幸運だった。
『狙撃位置についた。距離は かなり離れているが冷静に構えれば無理な距離じゃない。いつでもいけるぜ』
「タイミングは任せる。今、俺達には狙撃の援護がないとされている。それは相手の裏をかく絶好の機会だ。遅過ぎれば小南から情報が回り対応される。しかし、焦ればミスの可能性が高まる」
「でも、苗字の加勢が来る前に どちらかを撃破しないと不利になりますよ」
「それを解っていない奴じゃないさ」
確かにそうだなと素直に思った。寧ろ、苗字の事なら、おれ達よりも当真先輩の方が遥かに理解があるのだから、あの人ならそれを踏まえて完璧なタイミングで おれ達の戦いに簡単に入ってくるのだろう。そして、そのタイミングと太刀川隊の現在の状況によっては、おれ達が今逆転するという可能性だってありえない話ではないし、今の二宮さんの攻撃は先程よりも遥かにぬるかった。つまり、二宮さんは苗字を待っている可能性が高い。
そしてそれは、おれ達の部隊からしても、生駒隊からしても好機だった。安心して戦えるという意味でもだけれど、太刀川隊に得点を持っていかれる心配がないという意味でも。まあそういう考えに辿り着かせることが太刀川隊の目的だとするのならば、既におれ達はハマっているのだけれど。
『いや、苗字の方も これだけ時間があったんだから とっくに狙撃位置にはついてる。なんで出てこないのかは分らねーが、取り敢えず 引っ張り出してみるか?』
「いや、もしも二宮が苗字の攻撃のタイミングを待っているのだとしたら このタイミングで引っ張り出すのは得策じゃないだろう」
「ですね。タイミングを見ているのなら向こうも その時までは撃たない可能性が高い」
『おいおい、お2人さんよ。そりゃあ 隊長の指示っていうなら従うが、向こうがタイミングを待っているって事は逆にタイミングをつくったら終わりって事だぜ?』
「だが、今は太刀川隊よりも生駒隊に逃げられる事の方を避けるべきだろう」
『まー、確かに逃げられたら もうこっちからは見えねーが……当真、了解』
話がついたところで 改めて自分達の前にいる生駒隊の2人に目を向ける。幾度となく、トレーニングステージで何パターンもの連携攻撃を練習してきたとはいえ、簡単に おれ達の攻撃を受けてくれるような簡単な相手ではない。考える力と、それを実現させる実力がある。特に生駒隊長の方は気をつけて見ていないと おれの方がやられてしまう。この状況で おれが撃破されてしまえば、確実に形成は傾いてしまうだろう。今この戦いの中で絶対に おれ達 各自がやりぬかなくてはいけない最低条件は
けれど、苗字という武器を持っている二宮さんに下手に攻撃して苗字を引き出すのは生駒隊にとっても おれ達にとっても良い結果とは言えない。それに例えば、ここにいる誰もが二宮さんを総攻撃して運良く どちらかの部隊が点を取れたとしても その後が恐ろしい。何故ならば、苗字はデータとトリオン量、そして周りの話を聞く限り、1人で攻撃に回る方が怖い。あのサイドエフェクトがある限り、1人になった苗字は周りに何の遠慮もすることなくアイビスの引き金を迷いなく引くだろう。けれど、二宮さんがいるというだけでアイビスを迷わず連発するという事態は避けられる。そういうことを全て考えると、やはりここは苗字を引き出すよりも目先の2点の確保を優先すべきだと思う。例え、当真先輩のいうように そのタイミングがきたとしても、1点でも獲れば、おれ達は決勝に上がれる。そのように思考しながらも、目の前まで迫ってきた弾丸をシールドで防ぐ。それから、ずっと向こうから飛んでくるイーグレットの弾丸を見つけて
「当真の狙撃に、きみの追撃。さっき最初の1発目でやらなかったって事はこの攻撃の組み合わせは即興? 凄いや、流石連携のプロ」
「……ありがとうございます。でも、今の台詞は その攻撃を簡単に避けてくれた人がいう台詞じゃないですよ、犬飼先輩」
「そう? でもそっちも、いまので おれを討てるとは思ってなかっただろ? おれ達を討ち取りたいなら ちゃんと狙わないと。それこそ、きみの肩を削ぎ落としてくれた苗字ちゃんみたいにさあ」
確かに いまので
現在がB級だからといって、A級にいたことのある正真正銘A級レベルの隊員。自分が思っているよりも隊員としての実力は3段階程度上だと考えても考えすぎと言う事はないのだろう。けれどそうなってしまうと、生駒隊長は風間さんが抑えてくれているから大丈夫だとしても、あまり自分の中の犬飼先輩の警戒レベルを引き上げてしまうのは二宮さんへ向けていた意識までもが こちらに集中してしまいかねないので怖いし、危険だ。苗字が いつどのタイミングで攻撃してくるのかというタイミングがわからない今、二宮さんへの警戒をゼロにするということは避けておきたい。実際、二宮さんは 今
「おや、難しい顔をしているね。その顔は そうだな……おれに注意を向けすぎると、二宮さんに撃破されるかもって顔?」
「……」
「でも考えてみてよ。いま1番怖いのは苗字ちゃんが一体全体どんな方法で攻撃してくるのかって事だと思わない? それ以上に怖い事があるとすれば、東さんが こっち側に参戦してくる事くらい?」
「戦闘中に お喋りですか」
「あはは、厳しいな。でもおれ もう1点とってるから別に このまま終わってもいいんだよね。十分いい想いもしたし、今日は目標達成なんだ」
でもおれは 優しくないから、きみに点数はあげないけどね。そう言って犬飼先輩は おれの目の前で空を見上げて雨を掴んで「さっきから思っていたけど、本当にハードな設定だよね」と笑っている。にも関わらず、犬飼先輩の銃口はしっかりと いつでも おれをとらえられるように此方を向いている。これはどうやって点を獲るべきか。
『聞こえてるか? いよいよ 苗字が 動くみたいだぜ。何をするのかは わからねーが、其処から見えない方向で建物がいくつか破壊されていた。そして、その音が たった今止んだ。そうなると俺らが 今から最短で点を取るのなら アイツ等に乗っかるのが1番早い』
『俺達が狙われる可能性は?』
『さあな。ただ多分、犬飼は狙われねーな。だからまあ、苗字が狙うのは 残りの誰かだから うちの隊の奴が狙われる確率は まあ大体半分強ってところか』
『犬飼が狙われないという根拠は』
『苗字は借りは返す女だぜ? 最初の
『やはり苗字は随分と甘いな』
『どうだかな。
犬飼先輩と一定の距離をおいて 2人の会話に耳を傾けていると、目の前の犬飼先輩が目を皿のように丸くして おれの方を見ていた。正確に言うのならば、おれよりももっと後ろだ。気になって視線を辿ってみると二宮さんのすぐ横にグラスホッパーが1枚。それから おれ達と生駒隊の隊員のいる丁度真ん中にもう1枚。あまりにも不自然な場所に固定されている。一体誰がーーーというのは、二宮さんのすぐ側に1枚張ってあるという点から苗字か二宮さんだろうけれど、態々真ん中の この位置に もう1枚張った理由がわからない。
そうこう考えているうちに、二宮さんがグラスホッパーを踏んで おれ達から距離をとった。これはマズイかもしれない。なにが起こるのかという事を 理解した訳ではない。けれど、二宮さんが態々グラスホッパーを踏んで おれ達から距離をとったという事は これから苗字の攻撃がくるといっているようなものだった。もちろん、この場の全員が二宮さんの退避から それを察して その場を立ち去る為に各自一度攻撃を終了させた。けれど、おれ達が退避するよりも先に 何か中央に張ってあったグラスホッパーに突っ込んだ瞬間、目にも留まらぬ速さで下に落下し 其処にあった建物を吹き飛ばした。反射的にシールドを張った おれ達は その何かがぶつかったグラスホッパーが四方八方に散って消えるのを眺めた後に下に落下した 何かを確認するべく下に目を向ける。粉々に砕け散った建物を見て、そしておれは気が付く。今のは苗字のイーグレットから放たれた弾丸だということに。
そして、いまの一連の流れ全てが陽動であったという おれの考えが正しいのならば 本命はグラスホッパーで退避したように見えた二宮さんだという事だ。
『当真、二宮の位置は確認できるか』
『……やられたな。俺の位置からだと砂埃で なにも見えねーよ。悪いが、そっちはそっちで対処してくれ。俺は俺の仕事をする』
当真先輩の発言から 先程の中央に張ってあったグラスホッパーが計算であるという可能性が浮かび上がる。つまり、当真先輩の部隊の おれか風間さんを狙っている可能性が高い。それならば、二宮さんは攻撃力の高い風間さんを標的にするだろう。二宮さんの姿を完全に見失った今、いくら風間さんといえど 二宮さんの奇襲を確実に防ぐ事はできないし、手傷を負った風間さんに苗字の追い討ちのような一撃が向かえば 殆ど避ける事は不可能だろう。
それならば、今の おれの出来る仕事はひとつ。自分よりも得点の可能性が高いだろう風間さんの方を生かす事。どうせ、最初の苗字の一撃で負っているダメージも おれの方が圧倒的に大きい。迷っている暇はない。風間さんの位置を確認して、風間さんよりも 更に向こう側から向かってくる
「残念だったな。 俺達の狙いは
「……なるほど、確かに 苗字は戦場においては 甘くも優しくもないみたいですね」
太刀川隊の標的は自分だったと、気が付いた時には 時すでに遅しというやつで、元々左肩から下が削られてオリオンが漏れていたというのに 追い討ちをかけるように左上半身に穴を開けられる。一体どこまで念入りに作戦を立てたら ここまで人を上手くハメる事が出来るのか。キラキラと光の粒子が漏れ出す 自らの身体を眺めて、そんなことを思う。
二宮さんが攻撃を控えて、さらに苗字が長い時間ずっと撃たないでいる事で、おれ達に苗字の狙いが撃破だと思い込ませた。その上、さらにグラスホッパーを張り二宮さんが一度退避したようにみせる事で それを確信にまでもっていかせた。一体どこから作戦だったのか。いよいよ、トリオン漏出のおかげで亀裂の入った 自らのトリオン体に溜息を吐いた。おれもまだまだ読みが甘いようだ。
「すみません、先に落ちます」