告白
――あなたはね、土方歳三の孫なのよ。病床の淵で祖母が告白したわたしの出自は、なかなかに衝撃的なものだった。
「あの人とは箱館で出会った。凍えるほどに寒くて雪が降っている日だった……。当時二十にも満たなかった私は、あの人の、美しく凛とした立ち姿に一瞬で心を奪われたの。武士という言葉そのものを具現化したような高潔な姿が、夜闇の導である月のように眩しかった」
互いの全てを知るにはあまりに短い時間で、それでも二人は強く惹かれあい――、たった一度、夜を共にした。
「しばらくして、私は娘を授かった。間違いなく、あの人との間にできた子。……娘はね、目元と鼻筋があの人によく似て、意思の強そうな美人だったわ。貴方は、そんな母よりも祖母の私に似たけれど」
しわくちゃの腕が伸びて、わたしの頬を宝もののように優しく触れた。祖母の指は、もう、ずいぶん冷たい。
祖母が話すわたしの母のことを、わたし自身はよく知らない。両親は幼いころに亡くなり、一人遺されたわたしは祖母に引き取られたからだ。祖母はわたしの母を産んだあと、紆余曲折を経て関東の商家へと嫁いでいて、わたしはそこで暮らすことになったけれど、祖父からの当たりはまあ強く、ほかの孫とはあきらかに扱いが異なっていた。子どもながらにいろいろと察してはいたけれど、まさか自分があの幕末の志士の地を引いているとは、ちょっと考えつかなかった。
ああ、でも――。
「でも、貴方の剣術の美しさと強さは、間違いなくあの人譲りね」
ちょうど同じことを考えていたから、わたしは笑ってしまった。
祖母が祖父の反対を押し切って通わせてくれた剣術道場。そこでわたしは、「女のくせに」と僻まれるくらいに抜群の腕前で、向かうところ敵なしだった。
祖母は一息ついて瞼を伏せると、震えた声で呟いた。
「……貴方をこの家にひとり残すことが、心苦しくてたまらない……」
「平気だから心配しないでって前から言ってるでしょ。気にしなくていいよ。それに今の話を聞いて、なおさら平気だと思ったから。あの土方歳三の血を引いているのなら、どんなふうにだって生きていける」
祖母は小さく頷いて、直後、激しく咳き込んだ。体をさすり、額に浮かんだ汗を湿らせた手拭いで拭きとる。
……これ以上話すのは苦しいだろう。
「……おじいちゃんたちを呼んでくる」
わたしと二人きりで話すことを強く願い出たのは祖母で、祖父は基本的に祖母の頼みを断らない。最後にはいつも折れるのだ。
立ち上がろうとしたわたしの服の裾を、祖母の小枝のように細い手が掴んだ。
「……もうひとつ、心残りも、聞いて……」
「……うん。なぁに」
「あの人は……」
そして、祖母が告げる言葉に、わたしは自分の出自以上の衝撃を受けることになる。
「あの人は、五稜郭で死んでいない。そしてまだ生きている……。会いに行きたかった。あの人が行く道の先を、この目で、見届けたかった……」
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