爆豪という男

『あ!あの…っっ!』

今日こそ、今日こそ言うんだ…!
目の前を気だるそうにあるく、金髪の彼に向かって精一杯の声を出す。

「あ゛ぁ?」

自分にかけられた声に反応し、振り返りざまにギロリと睨む。

『ひぃぃっ…っご、ご…』

自分の受け答えに、ビクリッと体を震わせる目の前の女に苛立ちながらも
体ごと向き直る彼。

「チッ…!またおま…」

『ごめんなさいいいーーーっ!!』

「ハッ?ちょ…!待てって…!!」

言い終わるか否か、顔を真っ赤にしながらバサッと大きな翼を羽ばたかせて飛び立っていった。

「…っなんなんだよ、アイツ!!」

伸ばした腕は行き場を無くして空を切ったまま、
チクショウと呟き頭を乱暴にかきむしった。




『はぁぁぁぁ…』

息を切らせて戻れば、
職場の同僚たちが「またか」と声を揃える。

「あんたねぇ、何回目よ」

『やっぱりムリムリムリ!』
呆れ顔の同僚を前に、大きな翼をしまいながら真っ赤な顔を隠すように手で覆う。

「あんなクソガキのどこがいいんだか」

『そんなこと!!』

彼はきっと覚えていないだろう。
私がまだ中学生だったころ、
根っから気弱でよく男の子たちにいじめられて泣いていた。

「ヤメロよ!」

下を向きながら泣いていた私は、その声に驚き顔をあげた。

「なんだよお前、小学生がヒーローごっこか?」

そこにいたのが、まだ幼い頃の爆豪勝己くんだったのだ。
思い出に浸りながら、うっとりと彼のことを思い出す。

「要はショタコンか」

『ち、ちがうもん!!!』

「いやぁ、でもあの体育祭あんたもみたでしょ?」

「ありゃあ化けもんだな」

『…かっこよかった…』

「お前の目ん玉はどうなってんだ!」

そう、体育祭。
毎年行われている雄英高校の体育祭をテレビでみていた時に、
たまたま彼を見つけた。
ドキッと心臓が高鳴ったのを今でも覚えてる。
(やっぱりヒーローになるんだ)


「あんた達ー!仕事いくわよ!今日はCM撮影だからね」

先輩に呼ばれて、身仕度を整える。
(次こそ、次こそは絶対好きっていう!)



(おまけ)

喉が渇いたのでリビングでコップに牛乳をいれる。

リビングではクソババァがのんきにテレビを見てやがったから
なんとなく俺もチラッとテレビに目をやった。

「魅惑の唇…天使のルージュ」

「ぶぅはぁぁーーーー!?」

「ちょ!あんた!なにやってんの!!」

盛大に吹き出した牛乳。
それもそうだ、ほぼ毎日の様に声をかけてきては何も言わずに去っていく謎の女。

テレビの中でその女はキレイな翼をはためかす。

「あいつ…!」

「ちょっと!聞いてんの?!ちゃんと拭きなさいよ!!」

「うるせぇクソババァ!!」

テレビの中の女は、
華麗に投げキッスを飛ばし去っていった。


「っっ!!!」

その姿に赤面していた爆豪を彼女はまだしらない。