※名前変換はございません。


41.
 なんの表情も浮かべずに少女は、キンブリーの顔をただ見つめている。そこには恋慕の影は見当たらない。
 キンブリーはその視線に耐えきれないといった様子で本から目を上げる。
「……なんです?」
「いや、上品な顔だなって」
 少女はそばにあるギターケースからアコースティックギターをとりだし、ぼろんと鳴らした。
「今の表情から浮かぶのはこの音色。アコギの音とよく合うよ」
 でも、と続ける少女はうっすらと笑みを浮かべている。
「あなたは肚になにか隠しているな。それを表すにはこんななまやさしい音色じゃダメだ。エグい音したエレキが必要だね」
 キンブリーはゆったりとそのラベンダー色の双眸を細めた。今宵の月の色とよく似た光が、瞳の中でゆらりと泳いでいる。
「果たして貴女に私の音楽が分かるでしょうか」
(音楽少女とキンブリー 20190815)

42.
 人間は所詮こんなものだ、と気付いたのはいつからだったろう。自分たちとは異なる、異端の人間を排除しようと画策する人間たちの、なんと多きことか。
 ひとりで生きることになんの不自由も抵抗もなかった。一匹狼がなんのしがらみもなく生きられたことに、むしろ清々しささえ覚えたものだ。
「あちら側」で生きる、取るに足らないつまらない人間たちには、世界が美しく変貌を遂げる瞬間など、おそらく見られまい。
 世界が変わるその様を、この目に、この胸に刻めるのは、月夜に吠えた孤高の存在のみである。
(月夜の狼 20190912)

43.
 過ごそう、過ごそう。そういうときはカウチポテトな夜を過ごそう。
 ポップコーンの袋を開けて、ソファに寝そべって、くだらないコメディ映画を朝まで一緒に観たら良いんだ。
 あなたが脚を組んでつまらなそうにあくびをしたら、私はとっておきの手作りドリンクを運ぶ。
「なんですかこれは?」
「レモンスカッシュですよ〜」
 グラスのフチには切ったレモンを、中にはパチパチと口の中で弾けるキャンディを、パステルカラーのラムネを何個か白い海に落として。
 憂鬱な夜を、もっと憂鬱にしてしまえば良い。B級映画を退屈だとうんざりして、夜中のお菓子は不健康だと文句を垂れて、気が抜けてしまった炭酸ジュースを甘くて飲めないからと残して。
 そういう夜を共有して、愚痴を聞いて、そばで小さく笑えたらと思ったの。それであなたが楽になるなら、お安いものだと思ったの。
「……ちょうど炭酸が効いたものが欲しかったんですよ」
「それなら良かった!」
 グラスはすぐにカラになる。
 思い描いていた想像と多少違っても、私は小さく笑っている。
(鋼コラボカフェ「キンブリーの爆弾ドリンク」に感謝 20200311)

44.
 世界の変わるさまを見てみたい。
 そう発すれば久々に向けられた、恐怖のまなざし。
 ええ、これまで何度も経験しました。
『あんたよく国家錬金術師試験の精神鑑定面接通ったな』
 そうです、私は異端。
 その異質さを、真っ白なこの雪に、すべて覆い隠していただきましょう。
 ドラクマ軍との交渉まで、あと数分。
 さあ、今日も雪の色をまとって。
(BGM:King Gnu『白日』 20200314)




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