「仮装? まったく、お祭りごとが好きですね。貴女たちは勝手にやってなさい。……私ですか? もちろん遠慮しておきます」 「吸血鬼の格好ですか……。黒の上下は好みではありませんね。却下です」 「ほう……。このイベントのためだけに、色違いの衣装を作ったと? 白ですか……。貴女の器用さと無邪気さには感心しますよ」 「……仕方ありませんね。袖を通すだけですよ」 「ふむ、なかなか悪くありませんね。着心地も良い。このフリルのタイも、なかなか……」 「さすが、貴女は才能がありますね。良いでしょう、この衣装、いただきましょうか」 「ええ、いいでしょう。健気に衣装作りに勤しんだ貴女のお望み通り、口にして差し上げますよ」 「トリック・オア・トリート?」 「……お菓子かイタズラか、決められませんか?」 「なら、強制的にいただいてしまいましょうか」 「なにを、ですって? 無論、貴女の血ですよ……」 「っはは。……冗談です」 「本当にいただくのは……こちらですよ」 白いマントに身を包んだ吸血鬼は、嫌がる私をベッドの上に降ろすと、おもむろに自身のフリルタイをはずし始めた。 「ちょっ……キンブリーさん!? 待って、私そんなつもりじゃ……」 「いただけませんね。せっかく貴女の我儘に付き合って差し上げたというのに……。私の我儘は聞いていただけないと?」 わざと困ったように微笑まれると、言葉に詰まってしまう。 今夜はハロウィンだ。彼のために作った吸血鬼の衣装を、ちょっと着て欲しいと頼んだだけだった。 その仮装のお返しが私自身になるとは、聞いていない。 「だって、今日はそんな予定じゃな――んっ」 言葉を遮るように、キスが降る。鋭い牙が下唇を、口角の辺りをちくりと刺したかと思うと、ぬるりとした分厚い舌が押しつけられた。 「ふ、ぅ……ぁ、ふ……」 腰や腿を撫でまわされ、黒猫を摸したトップスの裾に手が入り、呆気なくブラホックをはずされる。 素肌の上に忍びこんできた錬金術師の「月の手」が、胸を交互に鷲掴んで放さなかった。 かっ、とした熱気が頭の中に上ってくる。絡められる舌の動きや、揉みしだく指の動きに思考を持って行かれて、戸惑いのうちに理性がほろほろと崩れていく。 くちびるが離れると、彼は私が用意した牙をちかりと光らせて舌なめずりする。 「んんー……良いですね。普段の貴女も良いですが、黒猫姿の特別な貴女を堪能するのも、悪くはない」 「……っ」 「そのネコのミミもお似合いですよ……非常に」 面と向かって褒められると、気恥ずかしさで耐えられなくなる。 下を向いてだんまりを決め込めば、彼の「太陽の手」がスカートの中に滑り込む様子が見えてしまった。 「ぁ……!」 「失礼。もう充分かと」 すでに湿り気を帯びた箇所を指でなぞられ、びくりと身体が震える。 躊躇いもなくすぐに取り払われた下着は、ベッドの上に投げ捨てられて、代わりに二本の指があてがわれた。 「んっ……!」 「ええ、やはりそうだ……。もう私の指が、すんなりと飲み込まれてしまいましたよ、ほら」 くつくつと愉しげに笑って指をピストンさせる彼は、それはそれは妖艶だった。まるで、吸血鬼が獲物である人を騙して血をすする寸前に、ひっそりと、うっそりと笑みを浮かべる様子を彷彿とさせた。 「っ、いきな、り……っ」 「ふふ、今となってはもう叶いませんが……貴女の純潔を奪うのが今夜であれば、どれほど良かったでしょうか」 「んっ、な、なんで……」 「無論、処女の――破瓜の血を美味しくいただけるでしょう?」 にや、と昏い笑みを浮かべるその様は、もはやどこからどう見ても、気のおかしな吸血鬼だった。 「あ、悪趣味……っ! んっ」 「まあもちろん、貴女以外の血はご免ですが」 「そ、そういう問題じゃ――」 「さて、そろそろいいでしょう……。挿入れましょうか」 指が引き抜かれると、すぐに熱いモノがあてがわれた。彼の昂ぶりは、硬さがありながらも柔軟にしなり、ずぷんと一息で私のナカに入ってしまった。 「っ、ぁあ……ん!」 「ああ……良い……」 熱を帯び、興奮で震えがちな彼の声が、耳元で響いた。 腰が進み、退き、また進みを繰り返す……。私の内に広がる快感が、火照りを伴って大きな嬌声になった。 「ぁ、あっ、あ、ああっ……!」 「良いですよ、私の黒猫。もっと啼きなさい。可愛い、その小さな喉を震わせて……」 耳元で紡がれる、低く艶のある声が、また吸血鬼の影を見せる。 「この細くて華奢な首元に首輪を……チョーカーをつけるのはいかがですか? そうですね……鈴も併せてつけましょうか」 「す、ず……?」 「ええ。私がこうして貫く度に、貴女がこうして啼く度に……鈴が鳴るのです。ちりん、ちりんと、涼やかに、美しく……」 奥を穿たれながら聞くその台詞は、甘美な響きを持って、私の鼓膜に響く。 「……今夜は代わりに、所有の印をつけましょう。貴女は一生、私の飼い猫です。その証拠を、ここにひとつ、残しましょうか……」 首すじにゆるく牙を立てられ、小さな痛みが走る。そのままそこをきつく吸われ、吸血鬼の餌食になる。 透明な血を何度も吸われ、すすられながら、熱と快感に浮かされた私はぼんやりと思う。 このひとの飼い猫になら、なってもいいかもしれない……と。 そうして思考も理性も完全に溶け出し、蕩けきった後……、一際強く奥を突かれて、絶頂を迎えた。 間もなく私の中に注がれた白い愛情は、甘いお菓子のつもりなのか、はたまた苦い悪戯だったのか……。見当がつかないまま、キスに溺れて目を閉じた。 「……ああ、甘い。ご馳走様です」 Afterword脚本っぽいものを書いて終わりのはずが、吸血鬼ンブリーをもっと書きたくてこうなりました。 |