1.
まるで神への祈りのように、己の両手を合わせて奏でる、私の錬金術。これから葬られる者たちには、私がどう見えるのだろう。
天国へと手を取り導く天使か。はたまた地獄の大穴へと背を押すサタンか。
もしただの人間だと認知されるなら、それは幸福である。
「同じ人間として、貴方がたの死を悼みますよ」
(201802××)
2.
あなたに釣り合う私でありたい。あなたの微笑みの元になる私でありたい。
伸ばした髪にはさみを入れてもらうとき、あなたのことを想いながら目を閉じるのだ。
待ち合わせ場所で彼は、微笑みを浮かべて私を見た。優しく抱き寄せられ、耳元に吐息がかかる。
「最も似合う髪型で会いに来てくださったのですね。お似合いですよ」
あなたのことばかり、想っていた。
(201802××)
3.
真っ赤な苺の乗ったショートケーキに、少佐はフォークを入れた。
赤と白で彩られたケーキは、少佐の二つ名や服装を連想させる。まるで彼のためにあるお菓子みたいだ。
「そんなに欲しいのでしたら、おっしゃい」
少佐が困ったように笑う。ああ、違う。ケーキを見ていたのは欲しいからではなくて。
「口を開けて」
差し出されたフォークの先には、一口サイズのケーキ。胸の鼓動が速くなる。店内の音や声が遠く聞こえる。
緊張と照れ臭さを感じながら、思い切って口を開けた。
クリームの優しい甘みが広がる。美味しい。
そう感想をもらせば、少佐は私よりも満足そうに笑って、長い足を組み替えた。
(201802××)
4.
彼女が纏う雰囲気は、暖かな春の陽気のように穏やかで優しいものだ。だから彼女が春生まれで、もっと言えば今日が誕生日だと聞いたとき、ああやはりと合点がいった。
「貴女にぴったりですね、春というのは」
陽だまりの中で彼女は猫のように笑う。
「春が来ると嬉しくなるんです。自分はまた一つ成長できますし、花は一斉に咲き始めますし、それから…」
昼寝するのがいつもより気持ちいいんですよ、と彼女はふふふと笑う。その笑顔につられて私も破顔した。
「…お誕生日おめでとうございます。貴女のように、穏やかで優しさに満ちた年になると良いですね」
そうなるようにと祈りを込めて、告げた。
(20180330)
5.
アメストリスでは近年、バレンタインデーなるものが流行りだした。こういうイベントに乗っかるのはあまり好きではないが、小さな感謝祭だというのなら。怪しまれることなく好意を伝えられるというのなら。
「おや中尉、どうしました?」
「バレンタインデーとやらの品物です。どうぞ」
贈り物を品物と言い換え、リボンのかかった青の包みを渡す。執務室には他に誰もいない。
「それはそれは、ありがたくいただきましょう」
少佐はいつもの笑みを浮かべる。変な意味に受け取られたくなくて、私はそっけなく付け加える。
「義理チョコですが」
「貴女からいただけるものなら、どんなものでも嬉しいですよ」
そういう台詞をすらすらと紡げるあたり、誰にでもそう言うのだろうかとか、嘘くさいなあとか、つい邪推してしまうのが私の悪い癖だ。
だが、珍しく細められた青の瞳を見てしまって。優美な弧を結ぶ口角が普段よりも上がっていて。爆弾狂には似合わぬ慈愛を、それらの表情から感じ取ってしまって。
たまらず私は踵を返した。
「……物好きな人……」
彼に背を向ける前の私の頬が、朱に染まっていないことを願う。
(20200214)
Afterword
懐かしい贈りものが出てきました。