意味不明人間へ/一月



総悟の返信があまりにも早いんでビックリしちゃった。いつも一ヶ月は空けるっていうのに、どうしたの?文通に目覚めた?

それに、貰いに行くってどういうこと?なんだか意味不明なことばっかりでわけわかんなくなっちゃうよ、もう。


こっちは結構な大雪だよ。今年の冬は雪かきが忙しくって困っちゃう。腰が痛いんだけどとうとう歳かなこれ。まだ若いのに困っちゃって、
「――おい」


「…っ、え?」



――不意にかけられた声に、思わず肩が跳ねた。目の前の文字列から顔を上げれば見慣れたそいつと目が合って、まばたき。



「どうしたの、総悟」



廊下からこちらを覗き込んでいる総悟に首を傾げた。一方そいつは「どうもこうも」と私の手元に目をやり。



「もう日も暮れるってのに電気もつけずに何かしてやがるアホがいたからつい」

「いくらか言葉が多い!……部屋のお掃除してたら昔の手紙が出てきたの。私がもらった分も一緒にしまってあったから懐かしくて」



手の中に収まる一枚を、愛おしく撫でる。――このときはひたすら不安で、寂しくて、奴が恋しくて。




「――よー」

「っ、そ…!?」

「攫いに来た」




確か、そんなやりとりがあったのもこの手紙を投函してからすぐのことだ。“攫いに来た”そう言いながら差し出された手は、まるでヒーローのそれだった。

私の言葉に得心した様子の総悟は「なるほど」と私の隣へ胡座をかく。手紙へ向けられる視線は懐かしげだ。




「なんつー昔のもん持ち出してんだか」

「思い出の品でしょ、大切にとっとかなきゃ。これも持っていくんだから」

「そりゃ置いてこうなんざ思ってねーけどよ」




――あのとき、手をとった結果。真選組に女中として引き取ってもらって、そいつと恋仲なんてものになって、さらに時間は経って――そして今度、私の名字は沖田になる。……勿論、紆余曲折はあったけれど。


所帯持ちは屯所外に住むという暗黙の了解に従って荷造りを進めている今現在、私のまわりは祝福に満ちていて。




「そういや近藤さんが赤子はまだかって浮き足立ってたぜィ」

「あ、あか……!!?……どうしてそう階段一段飛ばしみたいな発想になるかな、あの人は」

「そんだけ浮かれてるってこったろ」




お互い浮かぶのは苦笑だけれど、滲む幸せも隠しきれなかった。最近は近藤さんだけでなく屯所内全体が浮き足立っている。嬉しいことだ、本当に。手元の手紙を折り畳んで仕舞いながら、私はそいつを見上げて。



「――ねえ、総悟。……今度、手紙でも書いてみようか」



発した言葉と共に頭に浮かぶのはいつかの情景である。毎日毎日そいつからの手紙を待ちわびていた、あのときの。

そんな心情を察したのか、総悟は私を一瞥してふっと笑う。そして。



「……そりゃァいい。――ただ、今度は」



お互い宛先は一緒だがな。




付け足された言葉に溢れるのは、やはりこれでもかというほどの幸福であった。いつかの私に伝えてあげたい、手紙にのせていた想いは届いたよ、と。バカみたいに一途な想いは、報われるよ、と。

「そんなの知ってるよ」なんて返した私の顔は、きっと蕩けるような笑みが浮かんでいたことだろう。――その証拠に、総悟が少し上機嫌だ。



いつの間に日が沈んだのか、少し薄暗い部屋の中。そいつはぬっと私の方へ手を伸ばし、




「――にぇ…!?」




……どうしてか、両頬を引っ張った。間抜けな声を出してしまった私を総悟は「まぬけづら」と意地悪く笑う。

なにふんの、なんてやはり間抜けな響きで総悟を見上げれば「さーな」とかなんとか。“離して”と視線で訴えて数秒、ようやく離れていったそいつの両手とヒリヒリする両頬にほっと息を吐いていれば。



「幸せ極めたよーなツラしやがって」

「え、幸せ…って――んッ、」



――息を吐いたのも、束の間。暗闇にとけるように、唇が触れ合う。胸いっぱいに総悟の匂いが広がるこれは、いつまで経ったって慣れることはなくって。






「――しあわせ、だなぁ」



ようやく解放された唇でそんなことを紡ぐと総悟は呆れたように笑った。だけれど、本心なのだから仕方ない。

そのまま暫くしたあと私たちは電気をつけて、手紙を元に戻した。気が付けばもう時刻は夕食の時間だ。



「屯所での夕御飯と朝御飯は、もうちょっとの間しか食べられないんだよね」

「ったく、何寂しがってんだか」



再び呆れ顔を纏った総悟と並んで食堂へ向かう。――お江戸に出てきてから既に季節を何周もしている今日この頃、庭のちいさな桜の木が、私にまた新しい春の訪れをしらせているのであった。