「きょうも冷えるね、ミツバ姉」
「そうねえ、明日も雪が降るってお隣のおばさまがおっしゃってたわ」
「ほんとう?じゃぁ雪だるま作れるかなあ」
炬燵台の上に両手で頬杖を突きながら目をきらきらと輝かせる少女。その姿に、思わず笑みがこぼれた。
総ちゃんが近藤さんたちと共に武州を出てから、冬の季節が巡ってくるのは初めてだった。しんしんと雪の降るこの季節はこんなにも静かだったのだと、わたしは初めて知った。あのひとたちはいつどんな季節であっても、騒がしく、あたたかくしてしまうから。
思い出すだけで胸の奥が温かくなる。今は武州を遠く離れて、お江戸で笑っているだろう、彼ら。
あの日、志と共に武州を発ったあのひとたちを見送ったのは、わたしだけではない。今目の前にいるこの少女も、わたしとともに彼らを見送っていた。
「なまえちゃん、お夕飯今日もうちで食べていく?」
「いいの!?ミツバ姉」
もちろんよ、と笑えばなまえちゃんも嬉しそうに笑った。最近は体調が良いから、時折なまえちゃんに料理を振舞うこともできている。総ちゃんがいなくなってどこかがらんとしてしまったこの家だけれど、なまえちゃんがよく訪ねてくれるせいか、前と同じくらいあたたかい場所のままだった。
なまえちゃんは近所に住む女の子だ。わたしは彼女が赤ちゃんのときから知っていて、なんだか妹のようでもある。
総ちゃんとは同い年ということもあって、ふたりは小さな時から一緒に遊んでいた。総ちゃんが道場に通い出すとなまえちゃんもついていって道場のお手伝いをしていたし、傍目から見てもとても仲良しだった。
そんなふたりを見ているのが、わたしはとても好きだった。
けれど彼女は、総ちゃんたちがお江戸へと旅立ってから時折寂しそうな顔を見せるようになった。
他にお友達もいるみたいだけれど、総ちゃんたちとは毎日一緒に過ごしていたから仕方ないのだろう。その気持ちは、わたしにもわかる。
それに多分、なんとなくだけれど、なまえちゃんは総ちゃんのことが好きなのだと思う。だから一層寂しいんだろう。
きっと内心では寂しさを感じている中でも、なまえちゃんはいつも明るい。
わたしが体調を崩したときだって、ニコニコしながら看病してくれる。わたしが外に出られない時も、くるくると表情を変えながら外の様子を教えてくれる。わたしはなまえちゃんが大好きだ。
だから、ついつい、ちょっとだけ、老婆心が出てしまった。
「なまえちゃん、見て」
「便箋?」
「そう。この前なまえちゃんにぴったりだなって思って、買っちゃったの」
可愛らしいデザインの便箋セットを差し出して、「よかったらもらってくれないかしら?」首を傾げた。それは先日体調の良い日に散歩がてら訪れた文具屋で購入したものだ。
対して、「いいの!?ミツバ姉」目を輝かせて言うなまえちゃん。
「当たり前よ。なまえちゃんにはいつもお世話になってるもの。お手紙、誰かに送ってあげてね」
お江戸と武州。距離は離れてしまっているけど、文通ならできる。余計な事かもしれないけれど、何かのきっかけになったなら。
だって彼女はわたしの妹分で、それに――総ちゃんの、大切な、大好きな女の子だから。あの子は素直じゃないから中々認めないけれど。
素直で優しい女の子と、不器用で意地っ張りだけど、本当は優しいあの子。お似合いだと思ってしまうのはおせっかいかしら。つい、じれったい二人の背中を押したくなってしまった。だってこんなに可愛い妹ができるなら、それに越したことはないんだもの。
願わくば可愛い可愛いふたりが、手をとって笑いあうところを見てみたい。わたしの体でそれが叶うのかはわからないけれど……、きっと、願うだけならばタダでしょう?
目の前ではなまえちゃんがそおっと便箋にふれている。そこにしたためられるものは一体何を描くのか。総ちゃんのことだから、中々素直にはなれないだろうけれど。でも、その先に幸せが待っていますように。
小さなおせっかいを焼いたわたしは、まだ見ぬ未来を思って少しだけ微笑んだのだった。