Never My Love






「ねえ、聞いてる?」
「…………。」
「ねーってば」
「…………。」

呼びかけても無言、呼びかけても無言。先程からこれの繰り返しである。どうにかこうにか返事をさせようと、何かしらのリアクションを求めて行動してみるもどれも不発に終わる。
このリーゼント坊っちゃんがどうして不貞腐れているのか皆目検討もつかないし、機嫌が悪いと言うのに一向に私の部屋から出ていかないというのも謎だ。もう勘弁してほしい。この部屋の主人は私だ。そもそも仗助が不機嫌である原因が私なのかもわからないのに。


「あのさァ、いい加減にしてくんない? ここ私の部屋なんだけど。だいたいなんか文句あんなら普通に言ってよ。」
「……はあ〜〜〜」

ようやく口を開いたかと思えば、出てきたのは長い溜息だった。おかしくない?ブチ切れそう。


「なんなわけ?」
「……なまえさ、彼氏出来たって?」
「だからなに?」
「わかってねーなァ! その彼氏だよッ!! ソイツが俺に喧嘩売ってきたんだけど?!」
「ハァ〜〜〜?! なんで!」

億泰とオーソン前でダベってたら、おめーの彼氏が直々に文句垂れてきたんだぜ。どうにも俺がおめーと馴れ馴れしいってんでこれからは近づくなとよォ〜!オカシイだろーがよーー!!
と、言うことらしい。
だからって私の部屋にぶちゃむくれ顔で居座られても困る。そりゃあ、仗助からしてみれば他人の男が私絡みで変なイチャモン付けてきたんだから納得いかないんだろーけど。


「アイツそんなこと言ってくんの?」
「実際言われてんの! 俺が!」
「それはごめん」
「まーでもよく考えたらなまえに当たるのも筋違いってモンだよなァ。…わりぃ」

シュン、と素直に謝る辺りやっぱ仗助は憎めないやつだなぁ…なんて思っちゃうところが余計彼氏を煽ってしまうことになるんだろうけど。まあお互い謝ったわけだし、仗助が不貞腐れてた理由と彼氏の事はこの際置いてといてだ。
私のベッドの上でファッション雑誌を読み始めた仗助に問いかける。


「私の彼氏の件は置いておくとして、仗助はどうなの。」
「何がだ?」
「いやいや、付き合ってる子いたっけ?」
「いねーよ。だいたいなァ、俺はなまえと違って純愛タイプなんだよ、わかる?」
「え、ぜんっぜんわかんない、私が純愛タイプってことしか。」
「なんでそーなんだよ。」

読んでた雑誌をバシッと閉じて、恋についてだの好きなタイプだのを熱弁しだす仗助。私に彼氏が出来たように、いつかは仗助だって可愛い彼女が出来るんだ。いま熱く語ってるような好きなタイプがまんま当てはまらなくたって、仗助にお似合いで、仗助のことを想ってくれる、仗助の隣に立つに相応しい女の子。そんな子がいつかきっと現れる。ただ、それが私じゃないってだけの話。

私は絶対に仗助とは付き合えないし、ましてや恋愛感情を抱くことさえおかしなことだ。『私は仗助には相応しくない』から。そんなもの気付かされるより前にわかりきってた。だからたいして好きでもない男子からの告白を受け入れたんだ。名前しか知らない、同じクラスの特記することもないごく普通の男の子。まさか仗助にイチャモンつけるとは思わなかったけど。

顔も普通、性格も普通、全てにおいて『中の中』って感じで特に印象にも残らない男の子に、ある日突然告白されて。でもまあ付き合ううちに好きになるかもなぁ、なんてどこか他人事のように思いながら「いいよ」と返事をした。
仗助を好きでいてもきっと幸せにはなれそうにないから。


「って、オイ、聞いてんのかー?」
「聞いてるってば。」

ほんとにィ〜?と訝しげな表情でいる仗助にデコピンを食らわせてやる。

大好きなのに、大好きでも、大好きだから……だからこそ。痛いと言いながら嬉しそうにしている仗助が大嫌いだ。
仗助にお似合いで、仗助のことを想ってくれる、仗助の隣に立つに相応しい可愛い女の子なんてなれそうにない。恋愛感情なんて邪魔だ、こんなものどうして仗助に対して抱いてしまったんだろう。いくら好きでも彼女なんてなれないのに。ましてやその先の未来なんて訪れるわけないのに。恋人同士になるには、私たちはあまりに近過ぎる。


「アッ、ヤベェ! そろそろ帰らないと怒られる!」
「あーあ、朋ちゃんカンカンだわ。」
「じゃあまた明日な!」

鞄を小脇に抱え、急いで部屋を出た仗助。乱暴に階段を踏んでいく音を聞きながら、私は、仗助が途中まで読んでいた雑誌を本棚に並べた。玄関にダッシュした仗助を母が引き止める。


「仗助、さっき朋子から電話あったわよ。」
「ゲッ……。」
「帰ったら覚悟してた方がいいわね〜。いくら従兄弟の家でも遅くなりすぎると心配よ。」



どんなに好きでも恋人同士にはなれない、私たちは血の繋がった『従兄弟』なのだから。







20160809

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