ぱたぱた、ぱた。ぼう、と眺めていた窓越しの空はどこかどんよりとしていて、薄暗い雲が辺りを覆っていた。しとしとと降り注ぐ雨が、窓ガラスに丸い跡を残していく。
そういえば、あの日もこんな雨が降っていた。あの人に救われたあの日も。
*****
「みんな、弱い……」
森の中で、足元に転がるポケモンたち。
苦しそうに息を吐くその姿がつまらなくて、無意識にため息が漏れる。
僕は生まれながらに恵まれた才能を持っていた。体力は他のヌケニンたちとたいして変わりはないけど、素早さ、力、洞察力。何もかも周りのみんなより優れていた。
だから、僕にとってバトルは楽しくもなんでもない、ただのつまらないモノ。手加減して勝ったって、弱いコに勝ったって虚しさが残るだけ。もう、この森に僕より強いコなんていない。もっと強いコと戦いたい。バトルの楽しさを知りたい。そう思って、僕は遠くの土地まで足をのばした。そうすればきっと、僕より強いコに会えるかもしれないと思ったから。
――そして、その結果がコレ。あまりにも残念、的外れ、失望した。確かに、前の場所にいたコたちよりは骨があったかもしれないけど、それでも僕に辿り着くまでには至らなかったんだから。無駄な時間を過ごしたと思った。でも、暇なのは嫌。
だから、いつも通り森の中で野生のポケモンを探していたある日。僕は二人の男のヒトを見つけた。一人はヒョロヒョロの色白い男のヒト。黒くて短い髪の毛はバサバサで、フレームのゆるんだ丸い眼鏡をカタカタと震わせていた。対面するもう一人は、随分と体格がよくて背が高い男のヒト。キンピカに染まった金色の髪を立てて、耳にはいくつものピアスを携えている。
木の陰に身を潜めてその様子を伺っていると、なにやら二人は話をしているようだった。何を話しているかは分からない。でも、二人のことを知らない僕にも、二人がどういう関係なのか分かった。
多分、あの眼鏡のヒトはイジメられる側。恐怖からか、顔には汗が滲んでいる。ガタガタと揺れる足は今にも崩れ落ちてしまいそうだった。そして、金髪のヒト。彼は…僕と、同じ側。中身は違ったとしてもやってることは同じ、弱い者イジメ。ニヤリとつり上がる口元の歪みがそれを強く表していた。
ふ、とそこまで考えてあることを思い浮かべる。だとすると、彼はもしかしたら強いのだろうか。今思えば、ヒトガタで戦ったことはない気がする。少しは楽しめるかも、というただの興味本意。それに気持ちを任せて、まばゆく体を光らせた。普段よりひと回りもふた回りも大きな手のひらに視線を落とす。手を握って、開いて。久々にヒトガタになったけど、特に問題もなく動かすことができたからそんなに支障はないみたい。
フゥ、とひと息つき再び前を見ると、二人は僕を凝視していた。あれ、となぜバレたのか分からなくて首を傾げたけど、そうだった。ヒトガタになるとき光が漏れるんだった、と納得する。
「てめえ、誰だ!?」
「そんなの、どうでもいいでしょ。それより金髪のヒト、その眼鏡のヒトじゃなくて僕と相手してよ」
「あ? 何言って、」
「なに、自信ないの」
突然の僕の発言に、金髪のヒトは戸惑った様子だった。でも、僕は早くヒトガタでのバトルはいったい、どんなものなのか知りたい。だから煽るように遮ってみれば、彼は分かりやすくコメカミをピクリと震わせた。そして、半分だけ向けていた身体を完全に僕の方へ向けて、見せつけるようにバキリバキリと拳を鳴らす。ギラリと目を開いてゆっくりと近づくその姿は、獰猛な獣のようだ。眼鏡のヒトは自分がされている訳でもないのに、シャツの胸元をギュッを握りしめていた。
「まあ、今日は金取るために来たんだが……、そこまで言うなら相手してやるよ」
「へえ、どのくらい強いのか見物だね」
「…ッてめぇ、覚悟は出来てんだろうなァ!?」
彼よりもはるかに小さい僕の、見下すような態度に腹が立ったのか、金髪のヒトは叫ぶと同時にその手を振り下ろした。落ちてくるのは右のストレート。
「……遅い」
スローモーションのように見えるソレを受け流すのは容易くて。パシリ、と僕の左側へと逸れるように手で進路をずらした。それにぱちくりと目を見開く二人を目の前に、いつものため息がこぼれる。
どれ程のものかと思えば、全然大したことない。あんなに大口を叩いていたのに、今は口をつぐんで苦々しく顔を歪めている。この程度の攻撃をなぜ受け止められたのかも分からないようなヒトに、これ以上の見込みがあるようには思えなかった。
「…キミも一緒なんだね。残念、ゲームオーバーだよ」
じり、と後ずさる金髪のヒトを追うように足を一歩進めて、パキリと今度は僕が彼の拳のような音を鳴らす。枝のへし折れる声に、金髪のヒトはびくりと身体を揺らした。先ほどまでギラついていた瞳には、暗雲が立ち込めたような暗い怯えた色が見える。
結局、ヒトガタになっても同じだった。あのコたちと金髪のヒトは一緒、ただの弱いコ。少しは楽しめると思って、期待してたのに。姿が違うだけで、僕はあのポケモンたちのバトルと同じことを繰り返してる。
この何ら変わりない光景に終わりを告げるために、いつもより大きく伸びた右腕に力を込めて一気に距離を縮めた。綺麗にミゾオチにめり込む僕の腕と、頭上から聞こえるうめき声。支える力を失った身体が、ドサリと地面にぶつかる音がした。
「はぁ……つまらない」