第三章(1/7)


***

時刻は、二十時三十分を指していた。
ぐずついている時間は無い。
倉庫内に居た者は皆、自身の役割を果たすべく部屋を後にした。

五階、メインホールのある方角へ向かって走るのは、コラッタの姿に模した陽、新、兵太の三匹だった。
ロケット団に見付からぬ様、非常階段で一階ずつ駆け昇っていく。入り組んだ船内で迷わぬ様にと、兵太はこの船の見取り図をリョウから拝借していた。リョウは災害時の為に、いつもこれを持ち歩いているのだそうだ。
カクタス号は全十二階建て。そのうち客が使うのは三から五階、九から十一階までの様で、それ以外の階層に大元が潜んでいるのは明らかなのだが、彼等にはまず、やるべきことがあった。

五階へ辿り着き、連絡用通路から客用の広い廊下へ出る。
ミツキやゆの達の居るメインホールがすぐ傍に見えるが、彼等はそこを通り過ぎ、真っ直ぐに突っ切り先へ進んで行く。
ホールの入口を横切る際、陽が心配そうにそちらへ視線を送るのが分かった。
その様子を見た兵太と新は、陽へと声を掛ける。

「陽。気持ちは分かるが、今は堪えろよ」

「うん。まずはアレを取り返さなきゃね」

「……分かってる」

険しい顔で前を向き直す陽。
その先には客用のエレベータールーム。そして更にその先には、カクタス号に設営されたレストランがある。リョウが働いている厨房も、ここに在る。
リョウの話によると、通常カクタス号はカフェやバーを含め、六つの飲食店が利用できるようになっている。もちろん厨房も一つでは無い。しかし今回、このパーティにおいてはレストラン、カフェ、臨時のファストフード店の三つに限定されており、その中の一つであるレストランは十五時から運用停止、立ち入り禁止となっていたのだそうだ。
司厨員もわざわざ利用しない場所に赴くことも無く、ホール掃除はパーティスタッフが行うため何ら気にも留めていなかった。
しかし今考えれば怪しいと思うのだと、リョウは言った。
立食会が行われたメインホール、リョウが居た厨房、立ち入り禁止になったレストランは、同じ五階に固まっているのだ。
その中で被害を受けたのは、立食会に参加したトレーナー、厨房の司厨員である。
では、立ち入り禁止となったレストランには……?

「ここだな、ロケット団のアジトは」

「アジトとまではいかねえが、何かしらの拠点であることは間違いねえな」

そう。彼等はこのレストランを、作戦実行の拠点にしているのではと踏んだのだ。
作戦とは勿論、トレーナー達の気を失わせ、何かを強奪していった、先の醜行である。

「しかし、不用心だな……。見張りも何も無えじゃねえか」

「ロケット団以外は誰もいないぞーって思ってるのかなあ?」

兵太の呆れた様な呟きに、新が間延びした声で返す。
すると、陽がやたらげんなりとした顔で振り向き、言った。

「……なあ。コレ、やる必要あんのか?」

そんな彼に、新は素早く反応して頷く。

「ある! あるに決まってるよ! やらなきゃもったいな……いやいや、やるべき運命なんだよ! アレを取り返すためだよ!」

「やるべき……とまでは言わねえが、やるに越したことはねえな。何かあった時の予防線だ」

「げえ、まじか。……悪い奴の恰好にはなりたくねえなあ……」

頷く兵太の顔を見た陽は、一つ溜め息を吐くと、三匹のイリュージョンを一斉に解いた。

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