第三章(2/7)


「おう、お疲れさん。……あれ、三人も休憩に入ってたのか」

廊下へ出ようとする団員の一人が、片手を上げ三人の男に声を掛けた。

「悪いな。ちょっと一服してきたとこだ。ほらよ、餞別」

そういって、三人のうちの一人が煙草を一本差し出した。
彼はすれ違いざまにそれを受け取る。

「へっ、安い残業代だな。ありがとよ」

レストランのやたら重い扉を潜り、団員はその場を後にした。
レストランの中には他にも団員がちらほらと見えるが、此処へ三人が入ってきたことを知る者は、先程煙草を受け取った彼一人である。

「なんかこう……合言葉とか、無いんだね。おれ、聞かれたら何て答えようかすごい悩んじゃった」

「俺も、イリュージョン解いたままだからすげえ緊張した……ていうか、今もしてる。兵太、堂々とし過ぎじゃねえか?」

どぎまぎする新と陽を他所に、兵太はずけずけと先へ進んでいく。

「堂々としてた方が、嘘はばれねえ」

「うわあ。悪い大人だあー」

「年上は敬っとくもんだぞ、新」

「はぁーい」

人間の姿となり、団員服を着た彼等は、他の団員達とすれ違いながらも奥へ奥へと進んで行く。因みに団員服は黎明と智秋が奪ったもの、そして顔面じゃがいも男から拝借したものである。
広々とした空間に、グランドピアノが置かれた多目的ステージが目の前に広がる。ステージの反対側は壁一面が極大のガラス窓になっており、晴れた昼間には見事なオーシャンビューが楽しめるようになっている。
一応、ゆの達が居るメインホールよりも小さい造りなのだが、それでもこの広大さと豪華さは圧巻である。
その一番奥中央に位置するのが厨房入口。その中に入ればスタッフ専用通路、スタッフ専用のエレベーターホールが続いており、その更に奥に行くと、レストランの厨房へ辿り着くことができるのだ。

「いたぞ。やはりな」

小声で兵太が呟く。
広いレストランの一角で、山積みになった何かを、せっせと段ボールに詰めている団員達が居た。
三人が近付くと、団員の一人が苛立った面持ちで言った。

「早く座って仕分けろ。お前はあっち、お前はこっち。お前はこのカードケースを向こうへ持って行け」

そう三人に伝えると、団員は自分の作業に戻って行った。
彼等が段ボールに詰めているのは、大量のトレーナーカード。団員たちが、ゆのやミツキ等トレーナーから奪っていったものである。
それを見て、今更驚く彼等では無い。ある程度は予測済みだ。
三人は頷いて、各々に任された仕事をこなすべく散り散りになった。見せかけではあるが、『アレ』を探すカモフラージュには最適だ。

どうやら奪われたトレーナーカードは、100枚単位で分別され、AからZの順に並び替えられる。
そしてトレーナーの個人情報がプリントアウトされた用紙と共に、段ボール箱へ全て詰められるのだ。
今はその準備段階。カードと用紙をマッチングして同一のファイルへ入れ、順番に並べていく作業らしい。

自分達はこの作業の中、その膨大な数の中から『アレ』を探さなければならない。
長期戦になるな……と、兵太は思った。きっと、陽も新もそう勘づいているだろう。しかし、やるしかないのだ。
目の前に広がるカードの山を見て、兵太は思わず、溜め息を吐いた。

***


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