第四章(5/13)


***

「ひゃっほおおおおう」

「いやっほーーーーう」

狭い船内通路の移動の仕方、そして人に見つからない術を覚えたのか、物凄いスピードで駆け抜ける小さな影たち。
黎明と智秋の見えざる猛進は、留まることを知らない。

「あのおじいサン、ボク達のことナメ過ぎなんじゃなあ〜い? こんなにカンタンなお仕事、すぐに終わっちゃうよお〜!」

「そうだよねー! はやくおわらせて、みんなをおどろかせてやろーう!」

「やろぉーう!」

えいえいおーと拳を上げる二匹を見ることが出来る者は今、誰もいない。
誰もいないし、見えていない。

「それより智秋さぁ〜、そんなモノ持ってきちゃって、本当にいいのお〜?」

黎明が、智秋に向かって尋ねた。
その顔は、どこか険しい。

「えー?」

「さっきの指輪だよぉ」

「ああ、これかー」

そう言って、智秋は自身の腕に嵌めていた指輪を眺めた。
先程の客室で見つけた、例のピンク色の宝石があしらわれた指輪である。

「怒られても、ボク知らないからねえ〜」

珍しく、黎明が渋い顔をして言った。
そんな黎明を見て、智秋は笑いながら返した。

「れいめいくんは、しんぱいしょーだなあ! だいじょうぶだよ! あのおんなのひとに、かえしてあげるだけなんだから!」

そう言って、智秋は嬉しそうに指輪を眺めた。
智秋はどうやら、この指輪を元の持ち主であろう、あの写真の女性に渡してあげたいらしい。
黎明はその提案に制止をかけたのだが、智秋は聞かなかった。

「なぁーんか……。ボク、嫌なんだよなあぁ〜」

黎明自身、なぜこの提案を否定するのか、よく分かっていなかった。
ただ単に、邪魔になるから、兵太に怒られるから、……などという理由以外にも、それを拒む理由がある。
しかし、それが分からない。
頭に疑問符を浮かべる黎明に、智秋はただクスクスと笑った。

「ふふ……。あ、このあたりだね」

二匹は悠々と船内を回遊し、操舵室のある四階に辿り着いた。
そこは船員だけが入ることの出来る機関室部分であり、無機質なドアや機械が立ち並んでいる。

「うわあ、なんかかっこいいー!」

「そぉ? ボク、真っ白で落ち着かないんですけどぉ……」

蛍光灯の光に目を細めながら、黎明は悪態を吐いた。
二匹が進むその先、突き当りには重そうな鉄のドアが立ちはだかっている。操舵室の入り口だ。
そのドアを見つけた途端、暗い顔をした黎明の顔が、ぱぁっと明るくなった。
勢い良く飛び出す黎明に、智秋も続く。

「んふふふふっ。あの先に、この船でいっっっちばん偉いニンゲンが居るんだねぇえ〜」

「えへへへ、そうだねえー!」

「さぁて、なんの悪戯をしよ――――へぶっ!?」

「うわぁっ!?」

黎明が何かにぶつかり、その反動で智秋も転げ落ちる。ジュペッタの玉突き事故だ。

「あいたたたた……。なに? なににぶつかったの? れいめいくん……」

黒い小さな腰をさすりながら、智秋は尋ねた。

「……」

「れいめいくん?」

返事のない黎明に、智秋は目を向けた。
そこには尻もちをついたまま、口をぽかんと開けている黎明がいた。

「……」

「れいめいくん……?」

智秋はゆっくりと、その視線の先を追った。
そこには。

「ああぁー? 誰のだぁ? このジュペッタ」

「うーん? ジュペッタなんか使ってる団員、誰も居ないと思うんだけど……」

「ええっ!? じゃあどこの子たちなの、このジュペッタ!?」

そこには黒い戦闘服に身を包む、三人のロケット団員が居た。

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